はじめに
この記事は、自作シナリオ「六等星の祈り-Dreaming,Dreamin-」の自陣ノベルの前日譚となります。
また、この記事内でしんぷっぷりん様作「君の願いは~Your wish~」についてキャラクターが言及する場面がありますが、直接的なネタバレは書いておりません。
が、自陣ノベル記事では六等星のネタバレガンガンしてまいります(というかネタバレしないと書けない)。通過予定のある方は、誤って読まないようお気を付けください。
葉桜の頃、とある教室で。
「桜……ねぇ」
なんてつぶやき、窓の外を眺める少女が一人。つややかな黒髪は頬杖をつく右手に触れては離れを繰り返している。
紫と白の双眸が見つめるのは、もうすっかり花が散り、葉桜となった木だった。
「さくらが、どうかしたの?」
ぱたんと、扉が閉まる音。そこにいるのは、少女に瓜二つな少年。違いといえば、少年の瞳が青と紫であり、その腕に大量の食べ物を抱えていることだろうか。
「あぁ、おかえり。……これまたいろいろと買ってきたな……」
「だって、おなかすいてるんだもん」
少年は半分だけ開いた瞳のまま、ふんすと誇らしげにしている。少女はその光景を見て、ため息を一つついた。
「……で、さっき言った桜がどうのこうの、だっけ?」
「うん。なにか、あったのかなって」
少女と少年は、一つの机を挟んで向かい合わせに座る。服装や髪形の違いを除けば、その光景はまるで鏡合わせのようだ。
それもそのはず、この二人は双子なのだから。
そして厄介なことに、この少女と少年は、少年と少女でもある。
葉桜を眺めていた少女改め少年が、リンネ・リーインカーネーション。魔法学園ハーベストにて、魔導書魔導学科に所属する。
そして、大量の食べ物を抱えてやってきた少年改め少女が、リンネの妹であるリンカ・リーインカーネーション。こちらは変身魔導学科に所属している。
「何かあったことは確かだな。まぁ、そっちもカース特対だし、一応詳しいことは知ってるだろ」
「うん。あのカース、すこしだけわかるきがする…………でも、さくらって……にねんまえも、あったよね」
「だな。あっちもあっちで驚きが盛り沢山だったけど……」
「ひさしぶりに、ききたいな。リンネがであった、さくらのじけん」
リンネは手に持ったハンバーガーに、今にも噛みつこうとした姿勢のまま、怪訝そうな顔をする。
「聞きたいってもなぁ……そんなに後味いいもんじゃないぞ?それに、こんなトラブルだらけの学園で二年前の事件なんざ、思いだそうと思ってもなかなか……」
「でも、そのこはしってる、よ?」
そういって、リンカはリンネのそばに置かれた本を指さす。文庫本サイズのそれは簡潔にタイトルらしき文字列を並べ、そこに存在している。
「あぁ、魔導書の大魔法か……あと、言い方がなんかロマンチックなんだよなおまえ……」
「ふぉうはな?」
「おにぎりを頬張りながらしゃべるな、米粒ついてる」
「むふ」
おとなしく米粒を取られるリンカと、軽くしかりながらも優しいまなざしで妹を見つめるリンネ。
その光景は、まるで恋仲のそれにも見えた。
「……まぁ、聞いてみるのもありか。いまだにどんな魔法使ってもすぐに白紙になるのが気に食わないけど」
「じぶんにかかれるはなしを、しってるみたい、だね」
そう。リンネの発動体は、本来ならば小説として存在するものだ。だがしかし、タイトル以外の文が何も刻まれていない。
そしてそれは、どんなに大魔法やそれに匹敵するような強力な魔法によって文字が刻まれようと、ふと気が付いた時には綺麗さっぱり消えているのだ。
あらすじもないため、どのような物語が紡がれるのかは、いまだにわからない。
「無機物が意思を持つなんて、おとぎ話じゃあるまいし」
「でも、ここはまほうのあるせかい、だよ」
「あーはいはい、そうですねーリンカはかしこいなー」
「……」
心からの言葉ではないことは声色と態度からわかるのに、それでもリンカはどこかうれしそうに笑う。
「まぁ大魔法なんて、望んで起こせたらそんなに大層な名前も貰えないだろうし……何も起こらなかったらその時はその時、ってことで。いいな?」
「うん、わかった」
「オーケー。いい子だ。
…………未だ白皙で、博識な貴君に問おう。二年前の桜の咲くころ、この学園で起こった騒動の記憶を……我らが知りえない裏側までも、すべてひっくるめて明かしてはくれまいか。
リンネ・リーインカーネーションの名のもとに、世界の叡智をここに示せ。【アカシック・レコード(地球の記憶)】」
一通りの詠唱が終わると、窓から一陣の風が吹き込む。風は白紙の本のページをめくり、その残像さえもつかめない速度にまで勢いを増す。
「うっそ……まさかこれ、成功したパターン……?」
「たぶん……?」
呆然とする二人を置き去りにして、ページは留まることを知らない。
やがて、その一冊の本から光が生まれ……とある事件の記憶が、二人へと示された。

