はじめに
この記事は自作シナリオ「六等星の祈り -Dreaming,Dreamin-」を自PCでやったらどうなるかという妄想を形にしたリプレイ風ノベルです。
以下の点に注意して読み進めてください。
・シナリオ「六等星の祈り -Dreaming,Dreamin-」のネタバレを含みます。
・上記シナリオには記載されていない描写が含まれます。
・シナリオ筆者によるハーベストの解釈を基にした、独自設定が含まれます(例:カース特別対策委員会に所属している生徒の人数、魔法学園ハーベストの入学式の日など)。
・このノベルの結末は、登場人物全員が幸福になるハッピーエンドではありません。
・前パートの読後を推奨いたします。
Chapter12「一人にはさせない」
四月十三日、天気は小雨。
この季節の天候が変わりやすいのは、現実世界も魔導次元も変わらないようだ。
(このまま雨が本降りにならず、授業が終わればいいのだけど……)
そう考えこむカレンは現在、数十人の生徒と共に学園の校庭に出ていた。というのも、この時間は「魔法決闘トリプルス演習」という魔法決闘を実践する授業であり、入学式を迎えてから一回目の授業。仮にも前年度の全学年共通テストでAランクを取得している優等生が、新学期一回目の授業を休むなどあってはならない……はず。しかし、現在の彼女には今すぐにでも授業を放棄してまで探したい相手がいた。
さかのぼること一週間前、とある少女が行方をくらませた。名前は「斉彬リリア」。現実世界からやってきたばかりの新入生であり、カレンの後輩だ。
簡易的な置手紙を残して今日にいたるまで、彼女がどこへ向かったという目撃情報が一切ない。カレンも空き時間があれば彼女と過ごした場所や学園生徒が行きそうだと思い当たる場所を探し回った。それでも見つからないため、心中穏やかではない。
(今日はこれだけしか授業取っていないし、早めに切り上げられそうだったらさっさと抜けて……あと探していない方というと、黒き森の…………)
「……おーい!大丈夫ー!?聞こえてるー!?」
突然、耳元で誰かの大声が響いた。肩を思い切りびくつかせ、慌ててスマホで時刻を確認する。どうやら、授業が始まってからまだ10分ほどしかたっていないらしい。壁紙には腕を伸ばし、自撮りの体勢を取りながらも仏頂面のカレンと、控えめなピースサインを添えて不器用に笑うリリアが映っている。
「あ、あぁ……ごめんなさい。少し、考え事していて……何の用かしら」
冷静を取り戻し、カレンは声をかけてきた人物に視線を向ける。つややかな黒髪をツインテールにしたオッドアイの少女。黒を基調としたワンピースにはふわふわと白いフリルがあしらわれている。
「いい所のお嬢様」、その言葉がぴったりくる外見だった。
「いやぁ、チーム分け終わったのにずっと一人でいるもんだからどうしたのかなーって。あ、私は同じチームのリンネだよ!まだピカピカの一年生!!」
にこ、とはにかむ彼女が差し出した右手を握り、「浪波カレン……札魔導の二年」とだけ返す。
「カレンだね!よろしく!!敬語とか堅苦しいの苦手だからラフに行きたいけど……カレンって、礼儀作法とかに厳しかったりする?」
「別に。その人がやりやすい話し方とかでいいと思うけど」
「そっか!よかった!!じゃあ遠慮なくタメ口でいこっと!あ、しっかり先輩として敬うからそこは安心して!」
見かけによらず元気だ、という印象を添えて「こっちこっちー!」と先導するリンネについていけば、四人の少女がこちらを待っているようだった。
そのうち二人は、双子だと見紛うくらいに瓜二つだった。薄紫の髪を伸ばし、新緑のような瞳を持っている。違いと言えば髪型……結っているか伸ばしっぱなしかと、ラフな私服とスーツということだけだ。
「はい!それじゃぁこれでチームメンバー揃ったし、改めて自己紹介タイム!!私はリンネ・リーインカーネーションって言います!魔導書魔導学科に入学したばかりの一年生です!!」
リンネが身分を明かせば、一人、また一人と素性を明かす。杖魔導学科が二人、札魔導学科が一人、魔導書魔導学科が一人、紋章魔導学科が一人、変身魔導学科が一人の計六人。そのうち今年入ったばかりの新入生が二名……杖魔導学科の片割れである花槍パトラと、魔導書の使い手のリンネだった。
自分以外の同学年は、杖魔導学科のもう一人である八岳フジと、紋章魔導学科のラビリ・ワンダーの二名。このメンバーでの最年長は三年の愛咲明日翔だ。
「それで、この中から三人チームを組むように……とのことでしたが……」
スーツを着た女性……パトラがくるくると首を回す。他のチームは早速決闘を始めているようで、主にそちらを見ては目を輝かせている。
【私としてはパトラちゃんと同じチームがいいけど、それだと火力マッハで圧勝しそうだし……さすがに別チームにしよっか】
諸事情で声を出せないという同級生……フジがスマホの読み上げ音声でそう伝える。それもそうだ。新入生の指導は何も決闘実戦で行わなくても……。
「…………りりあ」
思いがけず、その言葉が出ていた。と同時に顔も暗くなったらしい。リンネが心配そうに見つめてくる。
「となると、同様に盾役を得意とする私と……カレンくん」
名前を呼ばれる。リンネの時ほどではないが、少し驚いてしまった。
「あ、はい……チーム分けの話、……だよね?」
「その通り。そして、フジくんとパトラ君。少なくともこの四人は別チームがいいだろう」
「そうなると、残った私とラビリ先輩もどっちかのチームに入るけど……」
リンネが先ほどから黙っている茶髪の少女……ラビリに視線を向ける。彼女は何か気に入らない要素でもあるのか、顔合わせ以降ずっとこの調子だ。
「…………」
「ら、ラビリちゃん……?」
「別に。新入生一人ずつ指導する組み合わせの方がいいんじゃないの?一チームごとの負担も均等にしないと先輩陣も実力出せないでしょ」
きっ、と声をかけてきたパトラを睨み、それだけ言ってまた黙り込む。パトラはというと、少し悲しそうな顔をしている。心なしか、目も潤んでいるような。
「えー……と……そうなると、パトラちゃん、盾役のどちらか、ラビリ先輩。フジ先輩、もう片方、私の組み合わせに……」
「あの様子を見てもまだ、組ませようって思う?」
思わず口を出してしまった。リンネがしまった、という顔をしてコホンと咳払いをする。
「そー……れもそうだね!ごめんねパトラちゃん。私が同じチームに入るから……そうだな、盾役にはカレンを任命しようかな!」
「い、いえ……お気になさらず……ちょっと、びっくりしただけですので……」
「どんな理由があれど、新入生を泣かせるような人は同じチームにはできないから」
「…………好きにすれば?」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと、ラビリは一人ウォーミングアップを始めた。それに続くように、各々準備運動を始めた。
結果だけ言ってしまえば、カレンチームの惜敗だった。いや、新入生二人を抱えたチームが上級生チームを追い詰めることもかなりレアだと思うのだが、パトラの戦法ーー自ら敵に衝突し、自らの発動体を犠牲にダメージを与えるーーとリンネの回復魔法の発動タイミングがうまくかみ合わなかった。それに加え、明日翔は特異点(パラレルリンカー)と呼ばれる特殊な力の持ち主。戦場を変える力を持つラビリとの相性も抜群だったーー本来なら一人の足元には一つの変化しかもたらせないが、特異点の存在により二つの変化が可能になるーー。
「つ、つよい……!」
パトラが息も絶え絶えにそうつぶやく。フジも衝突を得意とする火力のため、ある程度消耗はしているが……それでも先輩の威厳だろうか。涼やかな顔をしている。
「ふひぃ~……まさか衝突vs衝突のミラーマッチなんて思わないじゃん……あーあ、もっと鍛えないとなぁ……」
リンネは言いながら崩れ落ち、大の字になってその場に寝転ぶ。戦闘に集中していて気付かなかったが、雨はいつの間にかやんでいた。
「二人ともお疲れさま。初戦にしては、なかなかいい勝負だったよ」
巫女服を着た茶髪の少女……変身後の明日翔が声をかける。
「初戦にしては……だけど。次は一週間後だし、それまでお互い特訓でもしたら?」
メガネの位置を直しながら、ラビリもそれに続く。
「ご忠告ありがとう。それじゃぁ二人とも、スケジュール合わせのために連絡先を…………」
ふと、カレンが視線を上げた先。校庭と廊下の境界、樹木の向こう側。顔はこの場からの推定距離と、木の葉に隠されて見えないが、あの服には覚えがある。白いワイシャツに、サスペンダー付きの黒いズボン。珍しく上着に袖を通してはいるが、その程度気にしない。その人物はじっと、こちらを見ていた。
「……リリア!?」
言うが早いか、カレンの足は動いていた。人影は驚いて咄嗟に逃げ出す。ここで見失うわけにはいかない。会って、謝らなければ……!!
「え、あ、カレン先輩!?待ってー!!」
カレンに続き、リンネも人影を追う。パトラは何が起こったのかわからずその場でおろおろし、ラビリはその様子を何も言わずに見守っていた。
Chapter13「理解されたいことのすべて」
カレンが突然走り出したので、訳も分からず後を追うリンネであるが、ふとある言葉に思い至る。
「リリア」
恐らく彼女は、入学式の後に出会った少女……斉彬リリアの関係者なのだろう。改めて確認すれば、カレンが追っているーー彼女を追うリンネも追っているーー人物の外見は、なんとなくリリアに似ている気がする。
(だからこんなにも必死で……っていうか、どこまで逃げるつもりなんだアイツ……)
正直先の魔法決闘である身に全力疾走は地獄でしかない。早い所追いつくか見失うかしてほしい……と思った矢先。
『だ、だれか……!助けてください!!』
声が響いた。それも、かなり大きい。しかし、周囲を見回しても主らしき人はいない。カレンもさすがに気付いたようで、転びそうになりながらも停止して辺りを見回す。逃げていた人物はこの隙にと、一気に透明になり文字通り”姿を消した”。
「リリア……?リリア!!どこなの!?返事して!!!」
カレンは今にも泣きそうな顔で、声を張り上げる。それから数刻して、また声が響く。
『ボク、い、いま……黒き森の、奥の、方にいて……発動体もなくて、帰れないんです……!!だから……誰でもいい、ここから助けて……!!』
リリア(推定)がある程度の関係を持つカレンの声に気付いているのなら、「誰でもいい」なんて言わないはず。つまり。
(本当にこっちの声は届いてない、一方通行のメッセージ……って、待って。黒き森の奥から、この学園まで届く声……?)
リベラルアーツの【マイク】でさえも、せいぜい体育館くらいの広さに声を伝えるので精いっぱいなはず。加えて発動体がないと申告された以上、魔法を行使したそれではない。リンネの頭の中で様々な情報が線を結んで一つの結論を出す。
「あの子、まさか騒動の原因クリーチャーと接触した……!?」
「っ、げほげほっ……りり、あ……今、そっちに……!!」
カレンが咳き込みながらも、発動体の栞を構えて何事かを唱える。そして、頭部に白い羽を生やしふわりと空を舞う。【フロート】で直接迎えに行こうとしているのだ。
「ちょ、待った!!」
慌ててカレンの足にぶら下がる。突然の重みに驚いたのか、カレンが視線を足元に向ける。
「一旦落ち着いて!!リリアちゃんが見つかって嬉しいのは分かるけど、その状態で行っても悲しませるだけ!!それに、キミ一人でカース感染者相手に何ができるっていうの!?」
は、っと我に返ったころには遅かった。カレンは呆然とした顔をして、羽を散らしていく。魔法が解除されたことによる、急速な重力落下。二人は叫ぶ間もなく地面に激突した。
「…………」
「……ごめん。責めるつもりじゃ、なくて。心配してて、その。自分を頼ってくれる存在に依存……っていうのかな。そんな感じがしてえっと……」
「……いいの。今の自分が行っても、リンネの言う通り変に心配させるだけ。それに」
攻撃魔法も、ろくなの使えないし。そんな言葉が、聞こえた気がした。
「……カース関係はあくまで推測だけど。もし困ったら、教えて。私、一応特対入ってるし」
「特対……」
「えっと。カース特別対策委員会のこと」
「それは知ってる。新入生なのに、どうして……」
「えー…………と……」
報酬がたんまりもらえるって約束されたので入りました、と素直に言えるわけないので「カント先生に勧誘されて。うちの家系結構優秀らしくて、是非ともお力をー!って」とそれっぽいことを告げた。勧誘は事実なので嘘ではない。
「……そう。そんな優秀な後輩が言うんなら、おとなしくここは引き下がるよ」
「それがいいよ……まぁ優秀じゃなくても後輩の意見もたまには聞いてあげて?」
「わかった。あと、もし入りたいって思ったら、リンネに伝えればいい?」
「うん、それでいいよ。……とりあえず、戻ろ?特訓のスケジュール組みしないと、だし」
「……うん」
土埃にまみれた服を見て、「これ洗濯大変だろうな……」「あ、うちの専属クリーニングに依頼すればすぐ取れるよ!」「……後で頼んでいい?」「もちろん!」なんて会話を交わしながら、二人は校庭へと戻っていった。
Chapter14「差し込む光と影」
一方こちら、校庭に取り残された四人。二人が去るとほぼ同時に終業のチャイムが鳴ったので、とりあえずあの二人がドロシーに叱られることはなさそうだった。
ふとパトラが明日翔の方をちらりと見れば、戦闘時の姿から通常の姿に戻るところだった。街を守る正義の変身ヒーローの正体を知る瞬間、というものは人によっては落胆するものらしいが、彼女の場合は好奇心に突き動かされるようだった。一息ついた明日翔の元へ向かい、話しかける。
「あ、あの!明日翔ちゃん!!さっきは、ありがとうございました!!」
「あぁ、パトラくん。お疲れ様。なかなか手痛いものを貰ったよ」
「い、いえ……その、魔法での変身って、どういう感じなんですか!?」
「どういう……って?」
「ほらあの、アニメとかであるじゃないですか!キラキラ~ってして、光に包まれたかと思えばそこから衣装が変わるっていうか!!」
「あぁ、ああいう演出のこと?実際何もなく、思うままの姿にすっと変わる感じだね。人によっては性別も体格も、種族さえも変えるらしいけど、私の場合ほぼほぼ姿が変わるだけで面白いことなんて何もないよ?」
「でもでも、あのしゅって変わるのも未来の変身スタイル!って感じで最先端行ってると思います!!」
「そこまで変身するところをまじまじと見られて、しかもそれについての感想を言われるのもなんだか……不思議な感じだね……」
キラキラと輝かせた目は陰ることを知らないようで、言葉を交わすたびに輝きを増しているようにさえ見えてくる。それを眺めるフジは、どこか悲しそうな顔だった。
「…………授業終わったし、帰るか」
そう独り言ちたラビリに気付き、フジは慌てて顔色を明るくして話しかける。
【あ、その。ラビリちゃん!来週もその、よろしく……】
「うん」
【あと、その、あんまり後輩泣かせちゃだめだよ~?おんなじ授業を取っている仲間なんだし、仲良くしないと……】
「仲良く?」
ピリ、と。空気がひりつく。眼鏡の奥の瞳から、輝きが失われていく。
「それって、あの偽物と仲良くするような奴とも……ってこと?バカじゃないの?そんな風に”誰とでも仲良くしておけば人生損しないよ~!あ、ソースは私ね!”って能天気な考え誰にでも通用すると思ったら大間違いだよ」
【そ、そんなつもりじゃなくて、わだかまりあったら気まずいじゃん?だから、それで……】
「それでわざわざ声かけたって?あの子の前もあるから、いい先輩として振舞おうとしている、の間違いじゃない?」
視線が、輝かしい緑色に注がれる。それにつられて後を追えば、パトラは明日翔の発動体を詳しく見せてもらっている様子だった。
「…………どうして」
「さぁね。少なくとも、”今の興味の行き先は”アンタじゃないってことは確かだよ」
それだけ言って、ラビリは校庭を後にした。
「…………どうして、その目をこっちに向けてくれないの?」
溢れた水滴が頬を伝い、落ちていった。
Chapter15「隠された感情が芽生えるとき」
その日の夜は眠れなかった。ラビリに言われた言葉が、パトラのあの瞳が、ずっと頭から離れない。忘れようとしても、忘れさせないと言わんばかりに強烈になる。入学式の日から続くのどの痛みも、熱さも、なんだか強くなった気がする。
(夜風に当たれば……少しは落ち着くかな)
寝巻の上からパーカーを羽織っただけのラフなそれで、寮部屋の外に出る。時刻はもう夜中だ、冷えない程度に留めないと……そう思っていた矢先。
「あの女を道ずれにすればいい」
そんな考えが、頭に浮かんだ。次いで浮かんだのは、赤い薔薇の髪飾りをした、あの…………。
「……変身だったっけ」
目的地は、変身魔導学科の女子寮。愛咲明日翔の私室。そうと決まれば話は早い、軽く屈伸をしたのちにフジは疾走する。そう、すべてはパトラを自分のものにするため。彼女が自分以外に興味を持たず、自分とずっと共にあるように。そのために邪魔になるものは、例え特異点だとか呼ばれている特殊な力を持つ者だろうと容赦しない。
「パトラちゃんは、私だけの……!!」
目的の人物は、すぐに見つかった。変身魔導学科の寮の、入り口付近。壁にもたれかかって星空を眺めている。警戒心も何もない、愚かな女。
「……見つけた、明日翔ちゃん」
「ん……?あぁ、フジくんか。こんな時間にどうし……!?」
間合いに入り、赤い髪飾りを遠くに投げ捨てる。彼女の実力は実際に戦って知ってはいるが、もし反撃手段を持って居たら困る。そのために、無理矢理奪って手の届かない所へ。
「な……急に、何を……!?」
「大丈夫。自分の心のままに、すべてを解放すればいいんだから」
にぃ、と目を細め、口角を限界まで上げて笑う。この光景を第三者が見た日には、きっとトラウマ間違いなしだろう。
「まさか、君は……「だから、アンタもこっちまで堕ちてこい!!!」」
続く言葉をかき消すように叫ぶ。そして、抱き着く。至近距離で、その目を見つめ…………瞳から光が急速に失われるのを最後に、明日翔は意識を失った。
そんな人知れない襲撃から一週間がたった、四月二十日。天気は嫌というほどに晴れ渡っていた。
相変わらずパトラは何も知らずに、楽しそうに魔法を扱っている。あんなにも純粋な瞳を、今すぐにでも独り占めしてしまいたい。しかし、この世界にマナプロテクトがある以上それができないのが残念だ。だから。
【カレンちゃん、リンネちゃん!今日も対戦よろしく!!この前みたいに負けた悔しさで逃げ出さないでよ~?】
彼女のチームメイトである二人に、この感情をぶつけることにした。
「あ、よろしくお願いします!フジ先輩!今日はさすがに前みたいな失態は起こしませんよ!なんてったってあれから三人で猛特訓したんですから!!」
「まぁ、あれはやむを得ない事情があったというか、その……今日は逃走なんてしませんので」
猛特訓。三人で。パトラちゃんと、リンネと、カレンの。きっとうまく攻撃が決まった時はさぞ喜んでいたのだろう。その表情が、様子が、見ていないのにもかかわらず容易に目に浮かぶ。あぁ、羨ましい。ダメだ、その顔を見るのは私だけで十分なのに!!どうしてアンタたちが!!たまたまチームを組んだ仲だけだというのに!!どうしてどうしてどうしてどうして!!!!
『そっかぁ……頑張ったんだね!でも、』
スマホから手を放し、声を上げる。普通に話そうとしても、その思いとは裏腹に声量は大きくなるばかり。今でもしゃべっているだけなのに、頭がぐらぐらする。倒れそうになるのを抑えながら、腰に提げていたストックを構え、頑張って浮かべていた笑顔が崩れる。いや、私から崩すのだ。
『こういう不意打ちにも備えないと、ダメだと思うよ!!【エリアルレイヴ】【ジャックポット】【プラズマカノン】!!』
…………この時はきっと、神様が力を貸してくれた。自分の思うがままに動く私のことを気にいってくれて、普段なら使えないような強い魔法を使えるようになった。辺りに強風が巻き起こり、私はそれに身を任せ、二人を勢いよく蹴り飛ばした。
Chapter16「認めてはくれないの?」
…………一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
いつも通り授業を受けて、いつも通り終わると思っていた。特訓の成果を先輩たちに見せつけようねって、カレン先輩と談笑していたらフジ先輩が合流して、それで……二人まとめて蹴り飛ばされ、壁に激突した。まるで某変身ヒロインアニメの戦闘シーンだ。
異変に気付いた生徒たちがざわつき、校庭から散り散りに去っていく。
「か……カレン先輩。これ、なんでこうなったか……わかる?」
「わかるわけないでしょ……むしろわかるなら、そっちの方だと思うけど?」
「えぇ……まぁ、十中八九…………」
『カース、だよ』
明瞭な声が響く。その持ち主は、強風を巻き起こした張本人……八岳フジだった。
『私はずっと、苦しかったんだ。パトラちゃんをずっと自分だけのものにしたかった。でも、出来なかった。どうしてかわかる?』
答えを待つことなく、彼女は続ける。
『マナプロテクト、魔法、色々と理由はあるけど……一番の理由はキミたち生徒!!パトラちゃんの周りをちょこまかちょこまかと動いて目障りでしかないの!!だから、彼女みたいにこのカースに感染させて、みーんなが自分のお願いに必死になって、パトラちゃんから引き離そうって思ったの!!』
「彼女……?」
そういえば、今日はラビリ先輩の姿を見ていない。明日翔先輩は見ていたけど……。
「ちょ、早く離して!!さっきの風で十分驚いたし、もう止まったから抱き着く必要ないでしょ!?」
などと思っていたらすぐに見つかった。なんと先ほどの風で飛ばされないようにと、明日翔先輩にがっしり抱き締められていた。ついでに明日翔先輩、魔法を使っているらしく変身している。同じような姿の人物が二人でくっついているため、一瞬どっちがどっちかわからなくなったのはここだけの話。
「えっと、あの!フジちゃん!!私がいれば落ち着く、んですか?でしたら、いくらでも一緒にいますから!!ですから、もう皆さんを傷つけないで……!!」
当のパトラは入学したてで、実際にカース事件の現場を見るのは初めてらしい(リンネも初めてである)。まぁ暴れている人物が自分を欲しているのなら、自分の身を差し出すことで多数の安全が確保される。そう思うのも無理はない。しかし。
「ダメだよパトラ!きっと死ぬまでずっと二人でいようとか言って、そのうち体ごとくっつけて物理的に離れられなくするつもりかもだよ?」
そう声を上げる。カース感染者の欲望はいつだって、危険な形で叶うようになっている。暇つぶしにと流し見した資料から学んだそれの通りに事が進めば、きっと彼女も無事では済まない。
「ひえ……そ、それは……痛いのは遠慮したいですね……」
「縫い付けるので痛い思いはするだろうけど、痛みがあること以外はされてもいいんだ……」
カレン先輩による冷静なツッコミの後、いつまでもラビリ先輩から離れようとしない明日翔先輩にフジが怒る。
『あぁもう!そろそろいいでしょ!!今度は私たちの強さで、みんなをあっと驚かせるんだから!!』
「つよさ、で……おどろかせる……」
ゆっくりと明日翔先輩が立ち上がり、腕の力が緩む。その隙にラビリ先輩が拘束を抜け出して合流、パトラもこちらへやってくる。
『そう!それで、二人のハッピーエンドを迎えるんだよ!!みんなが幸せになれれば、他は何も気にしなくていいの!!』
「はっぴー……えんど……うん、そうだね。やってみるよ」
激情的なフジに対し、明日翔はひどく冷静だ。いや、冷静どころか、感情が抜け落ちているようにも見える。感染からの経過日数で症状が悪化するのか、それとも。
「いい?今回は授業と違って、本当にそれぞれの今後が関わっている。パトラはフジと、ラビリは明日翔とずっと一緒になるかもしれない。他の誰にも会えない生活が嫌なら、戦うしかないよ」
カレンが栞を構え、きっと二人をにらみつける。
「あんな偽物と一生を過ごすくらいなら、舌を嚙み切ってやる!!」
ラビリは最高にいらいらした状態で、メガネのフレームを握りしめる。
「後でちゃんと、仲直りしましょうね」
パトラが折りたたまれた棍を取り出し、構える。
「カース特対の初仕事……いっちょやりますか!」
リンネが白紙の本を開き、宙に浮かせた。
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