狩人の微睡み
「さて、今日も終わり終わり……っと」
中庭の木陰、その幹に身体を預けて長い手脚を伸ばす少女が一人。名前はマチルダ。
カース特別対策委員会の俊秀にしてクリーチャーハンターとしても評価を得ている彼女は、放課後何の用事もない日には発動体でもある猟銃の手入れをするか、こうして中庭で微睡んで過ごす。
温暖な魔導次元とは言え、まだ風は冷たい時季のはずだが彼女には文字通りどこ吹く風である。袖の短いシャツにホットパンツと、その肢体を強調するような衣服でも、身震い一つ見せない。
それを本人に尋ねれば、「アタシの故郷と比べたらここはリゾート地みたいなもんだね」と返ってくるだろう。彼女の生まれたフィンランドは、実際非常に寒い国だから、彼女が寒さに強いのも無理からぬことかもしれない。
「すぅ……すぅ……」
しばらくして、彼女は微睡みを通り越して本格的に寝入ったようだ。その夢の中で、とりとめもなく考える。
母の薦めもあってハーベストに入学したこと。祖母からの悲願であった我流魔法を完成させたこと。学費稼ぎと趣味を兼ねてクリーチャーハンターになり、その関係でカース特対に入ったこと。そして後に恋人になる相棒に巡り合ったこと……
彼と出会った当時の印象は、正直「軟弱者」という認識だった。仕事とはいえ遊園地に赴いて、浮かれてるんじゃないかと思った。
けれどその時から、人に親切な側面は見えていた気がする。アタシにも、それ以外の多くの人にも……
そういう意味では、結局彼は誰よりも強かったのだ。誰とも戦おうともせずに、誰も傷つけようともせずにあの大事件の解決までの道筋を開いたのだから。
人の心に入り込むのがうまく、それ故に情報の収集に長けた彼。彼がいなければ……そう考えたときに、アタシの心はきまって……
「マチちゃん、マチちゃん」
「ん……」
上から彼女を呼ぶ声。伸びをしてから見上げれば、件の『彼』が枝の上から見下ろしていた。
「なんだい、呼び出しかい?」
「うん」
「やれやれ、それじゃ寝てるわけにはいかないね」
腰を上げ、ホットパンツについた芝を払って立ち上がり、歩き出す。二人で。
これからも、彼が誰かを傷つけなくて済むように。この銃は、国を、友を、愛する人を守るために。
狩人は、曇りない瞳で未来を見据えた。

