燃え盛る、汚れた炎と荒野。
地の果てまで伸びる人列。
脇には百鬼夜行。
私は枷を付けられて、人列に紛れている。
ただ歩き続ける地獄。
何もできない。しかし、待つのは地獄。
ただただ、変わらない景色
でも、私は『微笑んでいる』
だって、このあと
『生きてくれ、■■■■』
私の枷がはじけ飛んで、人列から右に吹き飛ばされる。
『頼む、すまない』
「謝らないで、父さん」
届かないことはわかっている。でも、言わずにはいられない。
「ありがとう。」
何かに吸い込まれながら、必死に声を上げて
目覚める。遠くからわずかに聞こえる鳥のさえずり。真っ暗な中に、一つのろうそくの炎だけが私の顔を照らしている。少し魔法を行使して部屋にマナを通わせると、部屋に火が灯る。部屋の燭台はすべて、火のマナを使う魔道具だ。
大きな、大きな一室。10m四方の部屋の、中央を半径3mほどの魔法陣が埋めている。
ベッドの横に置かれた靴を履いて、南の壁に向かう。南の壁は本棚が埋めている。その前には、使い古された机と椅子、筆記用具と紙の束、一冊の本が置かれている。全く動かされていないそれを、少し触れる。これは、父が使っていた机だ。触れていると、父と触れ合っているような気分になる。それが、嬉しい。
「ありがとう。今日も、行ってくる。」
そう声をかけてから、身支度を始める。東の壁、右の扉には洗面所。父のいる間はほとんど使われなかったそこは、私にとっての日課の始まりだ。
洗顔、歯磨きを終えたら、今度はラジオをつける。これは現実世界から持ち込んだものを改造している。
「こんにちは、魔法省ニュースのお時間です。本日は 」
ラジオを聴きながら、西の壁へ。料理するのに必要なものが、ここにはすべてある。今日は…卵とベーコンが目に入る。これでいいか。
眼を少し輝かせ、コンロに魔法で火を入れる。フライパンをのせ、まずはベーコン。しばらく放っておきつつ、パンの選定。
どうするか、エッグベネディクト風に仕上げてもいいし、食パンに乗せてもいい、ああ、そういえば
「今日は一日中快晴となります。洗濯物を天日干ししたい派には最適の1日となるでしょう。」
なるほど。いつもは私の眼で乾かしているけど、しばらくぶりに ん?
焦げ臭い…あ。振り返れば、ベーコンは炭の塊になっていた。迂闊だった…天気予報に気を取られるなんて。とにかく、フライパンを洗う。
洗いながら、代案を考える。卵は使っていない。なら、スクランブルエッグ?ハムは無事だから、そっちを焼いて使う…いや、もっといい使い方がある。じゃ、スクランブルエッグ。決まったら、今度こそ作り始める。
気を取られなければ、朝飯作りはたやすい。15分ほどで出来上がったのは、ハムとスクランブルエッグ、そしてレタスを挟んだサンドイッチ。
半分に切り、一方を持って食べながら、北の壁、私のベッドの横で、今日の講義の準備をする。たしか、座学は魔法生物学と基礎魔法学、午後は魔法決闘の実技がある。実技はいいとして、座学には教科書がいる。教科書…ない、どこに行った?
ペネトレイトで周辺を見透かす。しまった、本棚だ。昨日の読書の時、一緒に片づけてしまったに違いない。面倒だ…いいか。眼を活性化させる。髪は伸び、眼は深紅に輝く。
「フォース」
一言とともに、私のマナが空中で魔法陣を描く、今にも燃え立ちそうな、深紅の線の細工。次の瞬間、教科書は本棚を離れ、そのまま私のバッグに収まった。これでよし。バッグを閉じ、眼を非活性化させる。髪は元の短髪に戻り、宝石の眼が輝きを失う。
私は隣のクローゼットを開き、下着と制服を着込む。寝る前に定期メンテナンスしているのもあって、基本私は裸で寝る。別に下着をつけなくても問題ない体をしているし。体形の問題ではない。ないったらない。
バッグを背負い、残りのサンドイッチを取りながら、東の壁、左の扉を開ける。そこにはなんの飾りつけもない、土壁の小部屋があった。先にはドアがあり、全面に魔法陣が描かれている。
「行ってきます、父さん。」
父に出立を伝えて、魔法陣にマナを送り込む。すると、ドアの奥で重量物が動く音がし、直後にロックが解除された。
ドアを開ける。そこは『地下室』だった。両側の棚にはわずかばかりの缶詰が置かれ、ドアの右には古ぼけた金庫が置かれている。ドアを閉めると、金庫が勝手に動き、ドアを隠した。私は地下室の階段を上り、その先の扉のロックを解除する。
そして、押し上げる。日の光が少し目を灼いて、すぐに景色が広がる。目の前には、屋敷の一室。だけれど、天井は存在しない。廃屋だ。
廃屋に立ち、扉を閉める。ここはハーベストにほど近いものの、黒き森の中でも辺境にぽつんとある廃屋だ。周囲は木に囲まれているものの、ハーベストの学舎がここからでも見える。
私はハーベストへと向かう。父がかつて通っていた、あの学校に。
わずかな不安と、大きな期待を、いつも心に秘めて。
