「甘い物には毒がある?」リプレイノベル

目次

紹介・注意書き

メンバー及びPC

GM:ハイドラ さん
PC1エリス・クラーク:ゆと さん

PC2日乃香愛実(ひのか えみる) &著:iwagon


注意書き
・当小説はサンプルシナリオ3「甘い物には毒がある?」のリプレイノベルとなります

・文字数約28000文字の代物
・地の文の加筆やPC2(拙宅PC)のセリフの修正を行っております

・セッションにPCとして出ていないPC(ゲスト枠)が2名ほどあり

・幕間という名のオリジナルシーンまで加筆する始末

・戦闘にてマナプロテクト先輩が一部仕事放棄(怪我しながらも立ち上がって戦うのがロマンを突き通した結果)

・公式にない授業やら設定が生えてる

・一応中二警報

 

以上の事がOKな方は下よりお付き合いください。

本編

Chapter1.Boy meets witch

イギリス。ユーラシア大陸から少しだけ離れた歴史と伝統を重んじる島国に住む少年が1人。

エリス・クラーク。14歳。クラーク男爵家の一人息子…いわゆる貴族と呼ばれる立場の少年。

そんな彼の生活はというと昼は学び屋へ通い、夕方には習い事、夜には自室で予習復習をするなど、一見すれば貴族とは思えない生活をしていた。

彼の性格は冷静かつ誠実で礼儀正しい性格。彼の両親も温厚な性格をしており人々の為に慈善事業を行っている。

「ノブレス・オブリージュ」。

直訳すれば「高貴さは強制する」。

高貴な者には相応の社会的責任と義務が伴うという意。クラーク家はその言葉を体現したかのような一家だ。

父に、母に、執事に愛されて育ち、学校でも基本的に友人にも恵まれ慕われる彼。

 

絵にかいたような平和で穏やかな日々、しかしそれも毎日続けばいつか飽きが生じてしまう。

どこかで非日常が欲しい。そう願ってしまうのは人間の性故か、それとも。

ある日、エリスはたまたまピアノのレッスンが早く終わり、夕食を食べた後に近くの公園に1人で来ていた。

腕に抱えるはサッカーボール。公園につくと、リフティングを始めた。

膝の上で踊るように跳ねるボール。この間よりまた上手くなれた気がする事を内心で喜びながら続けていると。

 

ぱちぱちぱち。

 

夜に傾いた静寂の空を彩るような軽快な拍手。エリスはリフティングを止めて拍手のする方に視線を向ける。

「どちら様ですか…?」

「あぁ、ごめんね!上手なものだったからつい」

そう言う少女は桜色の髪を腰まで伸ばし、頭にはとんがり帽子、肩には黒いローブ、右手には大きな箒を握っていた。

絵本や物語の中で見た「魔女」……その姿をしていた。

その姿にエリスは驚きながらも、少女に言う。

「見慣れない方ですね…。僕が言うのも何ですがこんな夜に一人では危ないですよ。」

突如現れた少女に不思議がりながら答える。目の前にいきなり空想上でしか語られない存在の風貌の者がいたのだから。それでも少女を心配する言葉を口にするのは、その血に流れる英国紳士の心からか。

「えへへー。そうだけどさぁ……なんだかキミ、どこか退屈そうな……自由になりたい、って顔してたから気になって」

少女の笑顔と問いかけに、エリスの口から心の奥にある言の葉が紡がれる。
「自由…。そうですね…確かにそうかもしれません。僕は貴族としての務めを全うしたいと思う反面、この階級というものに縛られているのかもしれません。

すみません、会ったばかりなのに。」

初対面の相手にここまで話すことに驚きながらも語る。

貴族である事を誇らしく思う反面、そうであるが故に周囲からの悪意や妬みにもさらされてきた。

生きる上で避けては通れない、立場の違い。実体も形も無いのに重く、縛るような糸もないのにきつく感じられた。

「なるほどねぇ……じゃあ、階級に縛られない場所……ううん、キミが自由に、何にでもなれる世界へ、連れて行ってあげようか?」

階級に縛られない場所、自由になんにでもなれる世界。その響きにエリスは。

「もし…もしそんな場所があるならば、僕が、僕自身が何者になれるか試してみたいですね。」

貴族という肩書きの、その奥にいる自分自身を見たくて。
「そっか。じゃあ、私の手を取って?」

そう言って、少女は手を差し出す。

「あなたは不思議な方ですね。」

現実世界(ここ)では見えない物が見えるような、そんな気がして微笑みながら手を取る。

少女の手を取れば。辺りは一瞬、まばゆい光に包まれ……それが晴れれば、どこかのお城のような場所にいた。

 

そこでは、エリスと同じ年ごろの子が、目の前の少女のような恰好をしていたり、中には頭から角を生やしながら闊歩するものもいた。その光景と彼らの生き生きとした姿に、エリスの心に一陣の風を吹き込む。

「ここは一体…?」

まさか本当にこんな場所に来るとは、と驚きを隠せない様子であたりを見回す。

「ここ?ここはね、魔導次元って言う別世界にある、ハーベストって学校だよ!!そして私はここの学園長、ドロシーだよ!!」

そうあっけらかんと身分を明かす彼女は、同じ年ごろの少女にしか見えなくて。

とても一つの学校の長を務めるような風貌ではなかった。

「魔道次元…ハーベスト…」

一つ一つドロシーの言葉を飲み込んでいく。

「それにあなたが学園長なのですね。あなたも僕と同じ様な歳で似たような立場なのに、僕とは大違いだ…。」

と、ドロシーの方を改めて見つめる。見た目はエリスとそう変わらない14歳ほどの少女。本当に学校の上に立つ学園長なのか疑うほどの自由で軽やかな雰囲気を纏っている。

「ふっふー。外見だけが物事のすべてを語るわけじゃないからね!ひとまずは、ここがどんなところか知ってもらって……そこから、親御さんとかに相談して正式入学って感じかな……」

その言葉にエリスははっとする。外見だけがすべてではない、内面にこそその人の本質がある。両親や学校の先生から聞かされた言葉が脳裏をよぎった。
「確かにあなたの言うとおりだ。僕もまだまだですね。それに、この世界の方は、みな良い表情をされている。是非お話してみたいですね。しかし…」

少し表情を曇らせる。

「僕の両親や執事がこの話を聞いたらどう思うだろうか…いくら普段は優しい皆も流石に信じてくれなさそうだな」

不安をふと口にする。別世界で魔法を学ぶ教育機関がある…そんな話をしたところですんなり信じてくれる人は「魔法が空想の物である」という概念がまかり通った現実世界では少ないだろう。

「まぁ、「別の世界があって魔法があってー……」なんて、普通に話したら魔法省……こっちの世界のことが、あまり知られないように管理する場所だよ。そこが黙っていないから……急に言っても頭おかしくなったのかって思われるからなぁ……」

あはは、と苦笑いする。

 「それでも、ここで魔法を学びたいのなら……私も学長として、しっかり協力するよ!」そう言って、苦笑いは満面の笑みに変わる。

「ええ、是非お願いしたいです。僕が貴族の務めを果たせるように、より成長するために、そして何よりも僕がここで何者になれるのか確かめるために。」

決意を固めた表情で応じる。

「よしよし!じゃあ早速、この世界について教えるよ!」

そう言って、彼女は箒にまたがる。そしてエリスを、自身の後ろに乗るように促す。

本当にこの世界は本に出てくるおとぎ話のようだ」

苦笑をしながら後ろに乗る。その心の中には、始まりの一歩へのワクワクがたくさん。

「乗ったね?いくよー!」

そういうと、彼女は地面をトンと蹴る。

すると、二人を乗せた箒は徐々にその高度を上げていく。エリスの中で高まっていく期待と比例していくように。

「この建物のてっぺん……それが、学長室!しばらく通うことになるから、覚えといてね!!」

「高い…。こんな景色は初めてだ…。」

真面目な彼にしては、珍しくドロシーの言うことも聞かずに景色に見惚れる。

「っふふ……かわいいなぁ」

瞳を輝かせるエリスを見てドロシーはそんな風に呟く。

2人は箒に乗って黎明の月光が輝く夜空をかけたのだった。

 

幕間.少女たちの出会い

エリスの入学から遡る事4ヶ月ほど前。

ある日の放課後、日乃香愛実は親友の金崎栄太郎からメールで呼ばれていた。

なんでも「会わせたい奴がいる」との事だ。

「栄ちゃんの友達ってことは機械の子かな。どんな人なんだろ…」

そうこう言っているうちに待ち合わせ場所の近くに来た。

「ねえ金崎くん、愛実ちゃんまだかな!」

「落ち着けって、そろそろ来ると思うぞ。」

「楽しみだなぁ新しい友達!」

楽しそうに話す女の子の声と栄太郎の声が聞こえる。

愛実はその声に引き寄せられるように現れる。

「お、愛実じゃねえか。」

「あ、君が愛実ちゃん?」

栄太郎の隣には青い髪をポニーテールにした明るい雰囲気の女の子がいた。

「その子は?」

「紹介するよ。機械魔導学科の速水春香だ。この間のグループワークで一緒になってな。」

「機械には女の子が少なくて…でもだからこそ、他の学科の友達たくさん作りたいなーって思って!その事話したら栄太郎君が仲のいい女子いるから紹介するって!」

愛実はドロシーが同学科の人だけでなく他学科の者とも交流を深め、広い知見と人脈を持つ事を推奨しているのを思い出した。愛実自身にも他学科の友人がたくさんいる。

「と、いう事だ。是非仲良くしてやってくれ。」

「もちろん。あたし、日乃香愛実。よろしくね春香ちゃん。」

「春香でいいよ〜。私も愛実って呼んでいい?」

「いいよ。これからよろしくね春香。」

2人は握手を交わした。

 

それから春香とは被っている学科共通授業で隣に座ったり一緒に昼食を食べるようになった。さらに他の友人にも彼女を紹介し、交友を深めていった。

「あ、愛実…レポート一行目の漢字間違ってるよ。」

「え、…あー!やっばい、このまま出しちゃうとこだった!ありがと春香!」

「この授業の先生、レポートの誤字うるさいもんね〜」

春香という少女はいつも人懐っこい笑顔を絶やさない明るい少女だった。それだけではなくさらには勉強も出来た。授業の課題の魔道プログラムもさらさらと書いてみせた。

「………?????」

…教科書をみた愛実はちんぷんかんぷんみたいだったが。

「愛実?えみ……愛実の後ろに宇宙が見える…」

放課後や休日には遊ぶ約束をして2人きりないしは他の友達も一緒に城下町に遊びに行く時もあった。

 

そんな日々が続くうちに、いつしか2人は「親友」と呼んでも遜色ない関係になっていた。

 

Chapter2.お昼ご飯の憂鬱

魔法学園ハーベストの食堂の一角で愛実はお昼を食べていた。皿に乗っているのは愛実の大好物、オムライス。

今日は授業が隅から隅までみっちり入っている日、好物の1つでも食べなければやっていられなかった。

午後からもみっちり入った授業に好物を口にしながらも少しだけナイーブになっていると。

「えーみるっ!美味しそうなの食べてるねっ!」

近くから聞こえた明るい声。愛実はその声に振り向く。

「ん?この声は…」

嬉しそうに振り向くと、そこにいたのは親友の春香だ。

「ね、ね!隣座ってもいーい?」

「いいよー!座って座って!」

ちょうど誂えたかのように愛実の隣の席には誰も座っていない。

「やったー!それじゃあ早速」

春香は嬉しそうに愛実の隣に腰掛ける。しかし、席についても自分の食事らしきものはとりださず、可愛らしい風呂敷を見つめては愛実をチラ見するなど、どこか挙動不審な春香。

そんな親友を、友達思いな愛実が放っておけるはずもなく声をかける。

「春香、お昼ご飯は?」

「ん?あるけども……愛実に渡そうかなーって」

はい、と手に持っていた風呂敷を渡す春香。

中身は小さめのお弁当箱のようだ。

突然差し出されたお弁当。料理上手の春香の手料理が食べれるのは喜ばしいことだが、それでは春香の分がなくなってしまう。愛実はあわてて両手を振る。

「えっ、いいよ!お気持ちだけもらっとくよ。ってかそれじゃ春香お昼無いんじゃない?」

心配そうに顔を覗く。

「いやぁ、食べてもらえると嬉しいというか、あえて食べないようにしているというか……いつもの癖で作っちゃったんだ……」

どこかばつが悪そうな顔で笑っている。

「食べ…ない??」

愛実がぽかん、と口を開ける。

お昼ご飯、それは授業に疲れた学生にとってのオアシスともいえる存在。ここでおいしい物を食べて午後の授業への英気を養うのだ。現に愛実もそうしている所だったのだが。

「ちゃんとご飯食べなきゃ、午後持たないぞー?」

ジトリとした顔で春香を見る。

「それはそうなんだけども!!ほら……女子にとっての重大イベントが……近づいているんだよ……?」

どこか悲しそうな、おびえるような眼をしている。

「重大イベント…まさか…身体測定の事?」

身体測定。それは女子らがこぞってダイエットに励もうとするイベント。

愛実がまだ現実世界にいた時も、身体測定が近づけばクラスの女子や幼馴染みはこぞってダイエットの為に食事を減らしたり運動に励んでいた事を思い出す。

「ぴこーん、お姉さんわかっちゃったぞ~?春香、ダイエットの為にご飯抜こうとしてるでしょ?」

春香の頬をつんつんとつつき、いたずらな笑顔で言う。

「む……なんで当てちゃうのかな……前が悲惨だったから、頑張って減らそうって思って……それで……」

頬をつつかれ不機嫌そうな顔をするが、その行動を止めないのは内心では嬉しいから。

親友とのじゃれ合いは少しだけ癒しとなったようだ。

「やっぱりかぁ。」

愛実は頬をつつくのをやめて、ねぎらうように春香の頭をポンポン叩きながら言った。

「その心意気は立派だけど、少しは食べなきゃ。体力切れて倒れるよ?」

挽回する為にダイエットに励む春香。健気なその姿に小さな不安が生まれる。

「うん……倒れないようには、頑張るよ……愛実に心配かけたくないし、ね!」

「そうそう、無理のない程度にダイエット頑張って。無理なダイエットはリバウンド起こすってどっかで聞いたからね。」

どうやら無理はしないようにした春香を見て、愛実は心の中で胸をなでおろした。

「えへへ……っと!あたしこの後授業あるんだった!おべんと、今度返してもらうからねー!」

そう言って、春香は駆け足で食堂を後にした。

「あ、この後確か機械魔道の専攻だったよね?たしか魔道プログラムAだっけ…?」

「そうそう!遅れたらめっちゃ怒られるの!急がないと!!それじゃ、またね!!」

そう言って駆け足で食堂から出る。

「春香頑張れ~!あと明日お弁当洗って返すからねー!」

授業へ走る親友を手を振りながら見送った。とりあえず、もらったお弁当は今日の晩御飯にでもしよう。

「さーてと、あたしもこれから杖魔導基礎Aだった。あたしもがんばろっと!春香や栄ちゃんに負けてらんないぞーっ!!」

残ったオムライスをかっこみ、お皿を返して授業に向かった。

 

Chapter3.波乱の授業

エリスの説得と両親の寛大さにより、無事にエリスは魔法学園ハーベストへと入学することができた。

そして今日は学園の授業のひとつ、「魔導力学入門I」を受けている。

講義担当はドロシーであり、生徒の中には速水春香と日乃香愛実の姿もある。

エリスは、育ちの良さもあり、背筋を正し真面目に授業を聞いている。

エリスから少し離れた位置にいる愛実もまじめに授業を聞いている。

が…

「…春香、なんか顔色悪くない?だいじょうぶ?」

愛実が心配そうに隣にいる春香を見る。確かに少し顔色が悪そうに見えなくもない。

「ん……?あぁ、だいじょーぶ……はは……」

そう言って笑う顔は、どこかぎこちないもので。発動体のガラパゴス携帯を持つ手も、かすかにふるえている。

「ほんとに…?とにかくなんかおかしかったらすぐ言ってよ?」

ぎごちない笑顔を見せる春香。いつもの明るく人懐こい笑顔には程遠いその笑顔と発動体を持つ手が震える様子に先日の昼食の時以上の不安が募った。

真面目に聞いているエリスも2人の話し声が気になって、声の方を向く。
どうやら体調が悪いらしい子がいるようだ。
「(体調が優れない生徒がいるのか…?少し心配だ。)」

愛実の心配に春香は。

「うん……わかった」

それきり。うつむいてしまった。

「さてと……この辺でいいかな。これから演習始めるよー!」

そんなことに気付いていないのか、桜色の彼女はいつも通り元気な声を出す。

「今日の講義は、魔導力学の基本も基本。『物を持ち上げる』練習だよ。この辺には、岩や倒木、他にもいろんなものがあるから、それを魔法で持ち上げてほしいの!」

こんな風に、と指を鳴らせば彼女のそばにあった大岩はふわりと浮かび上がり、もう一度指を鳴らせば、ずん……という振動と共に地面へと落下する。

「うっわ、すごい…さすが生けるチート…」

愛実はうっかり心の声が漏れてしまう。

目の前で起こった事に「やはりこの人は学園長なのだ」と改めて思い知らされる。

魔法というものをまだ完全に受け止め切れていないエリスは、「すごいな…」と目の前で起こったことに感嘆している。

「……ほんと、すごいよね」

春香は変わらずうつむいたまま愛実にそう答える。

「春香…マジで大丈夫?元気ないし…」

いつもなら「すごーい!さすがドロシー学園長だよね!」と感嘆の声を上げるはずの春香。

いつも以上に元気のない彼女になおのこと心配が募る。

「このあたりで、できるだけ重いものを探して持ち上げるのが課題だよ!一番重いもの持ち上げられたら、無条件で単位あげちゃう!!」

無条件で単位、その言葉に学生達が湧き上がる。

「おい、無条件で単位だってよ!!」

「よかった!今回ピンチだから助かったかも!!」

生徒たちはまるでバーゲンセールにでも向かうように、一目散に重い物を探しに散り散りになっていった。

単位に余裕のあるエリスは、他の単位がピンチな子にチャンスをあげようと思い立ち、ほどほどの重さのものを探しに行く。

一方、その場に取り残された愛実と春香。

「……あ。みんな、ばらばらになってる。課題……出されたのかな」

くるくると辺りを見回し、生徒が散り散りになっている様子を見てそうつぶやく。

「ごめんね、愛実。私のせいで、遅らせちゃって……」

愛実の方も単位には余裕がありいますぐ無条件で単位が欲しいわけではない。いや、仮に単位がピンチだったとしても目の前で元気のない親友を放っていくような薄情な女ではない。

「いいよ、気にしないで。春香が謝る必要なんてないよ。だからそんな顔しないで?」

元気を注入するように肩を2回たたく。

「うん……あれ、ドロシー学園長のそばの岩、誰も持ち上げてない……あれ、やってみない?」

指をさされたそれは、5mは軽く超えるであろう巨大な岩であった。それを見て愛実は目を丸くする。

「え、あれを?」

さっきドロシーが持ち上げた巨大な岩。入学して数か月の愛実に持ち上げれるか、「YES」と簡単には言えない。

でも、自分がもし持ち上げることが出来れば少しは元気になってくれるのではないだろうか。

いつものように「すっごーい!」と笑ってくれるなら。

「(やってやろうじゃないの!)」

愛実は発動体の杖を取り出して岩の方へ向ける。

先ほどのドロシーほど……とまではいかないが、数センチは持ち上げることができた。

別の方向…エリスのいる方角からは「あいつ、あんな大木持ち上げたぞ!!」と歓声も聞こえた。

「すごい……私も、ガンバル、ね」

春香はそう言ってガラパゴス携帯を構える。

「は、春香。無理しないほうが…」

ぎごちないその姿に、不安が胸騒ぎに変わりながら愛実が声をかける。

「……すごい。持ちあがった……」

50cmに届くだろうその高さで岩は停滞し、傍に控えていたドロシーも「すごいすごーい!!」と拍手を送る。愛実も自分より大きく持ち上げた春香に驚く。

「あ……で、も……」

ふらり、と。春香が倒れそうになる。 その勢いのまま、力が緩んだのか。

岩は地面に落ち……そのまま、がけ下へと転がっていく。

その先には大勢の生徒……エリスも、含まれていた。

「春香っ…!?

危ない!みんな避けて!!」

予期せぬ緊急事態に、愛実ががけ下に叫ぶ。

「!?」

エリスは唐突な出来事に驚愕するが、愛実の声で我に返り、周りを守らねばと思い、岩を何とかしようと瞬時に判断する。

「本当は変身したくないけれど!!」

シャツの第1ボタンを外すとネックレスが顔を見せる。これが彼の発動体。

ネックレスが輝くと彼は猫のような動物の耳としっぽ…いわゆる獣人に変身。可愛らしいその姿が少し恥ずかしく、いつもはあまり変身したがらないが背に腹は代えられない。

「ブリンガー!」

唐突に現れた魔法の腕が岩を掴み進行方向をそらす。

その誘導の通りに岩は転がっていき……大きな着地音を最後に、辺りは静寂に包まれた。

「みんな、けがはない!?」

上空から点呼を取るドロシー。幸い、エリスの活躍でけが人は0だ。

「……わたしの、せいだ……」

自分が起こしてしまった事に崩れ落ちる春香。

自身の無事を喜ぶ者やエリスへの感謝を抱く者と、反応はそれぞれだった。幸いにも春香を責めるような者はいなかった。

愛実は、そんなエリスの方を向いてお礼を言う。

「さっき助けてくれたのはキミだよね?ありがとう…優しいんだね。

ほら春香、この子もこう言ってるんだしあまり気に病まないで…」

愛実は崩れ落ちた春香に寄り添う。

「うん……」

ゆっくりと立ち上がり、エリスに向けて頭を下げる。

「その、ごめんなさい……私のせいで、こんな……」

エリスは、頭を下げる春香を見て体調の悪い生徒と岩を転がしてしまった者が彼女だったことに気づく。

「皆無事だったんだ。どうか気にしないでほしい。それよりも自分の心配を。」

「ホントにありがとう。えっと、キミの名前は?」

改めてお礼を言いたくてエリスに名前を聞いてきた。

「困ったときはお互い様だよ。僕はエリス・クラーク。君の名前も聞かせてもらっていいかな?」

そう言って愛実に問いかける。
「あたしは日乃香愛実(ひのか えみる)。エリス君…ね、ありがとう。さっきのやつ見るに変身魔道学科かな?さっきのネコミミ姿可愛かったよ。けど…」

エリスの方を指さしてウインクしながら続ける。

「さっきのブリンガーでみんなを守る姿、それ以上にかっこよかったよ!」

「愛実君か。僕はまだ入学したばかりだから、仲良くしてもらえると嬉しい。

…見られてしまったか…。あまり見られたくはなかったのだけど。そう言ってもらえると嬉しいよ。」

少し恥ずかしそうにするエリス。そして誰にも聞こえない程度に呟く。

「そうか…。「貴族」でもない僕でも何者かにはなれるのか…。」

年相応に嬉しそうな顔と声色。何かが照らされたような、そんな感覚。

「ふふっ、よろしくねエリス君!」

エリスの最後の言葉は聞こえなかったようだ。愛実はエリスに笑いかけて握手の手を差し出してきた。エリスは「よろしくね。」と握手に応じる。

握手の後は、エリスは他の生徒のケアに戻っていく。

「……うん、みんな無事みたいだけど……春香ちゃん?」

ドロシーが心配そうに春香を見る。春香の表情は、うつむいたまま。

「春香、大丈夫…じゃなさそうだね…」

愛実は春香に向き直る。元気づけるつもりが巡り巡ってこのような結果に終わってしまった現実が愛実に突き刺さった。心がチクリと痛む。

「うーん……今日は、早めに切り上げてかえろっか。みんなお疲れ様」

ドロシーが授業の終わりを宣言すると生徒たちはそれぞれ帰っていく。

「春香、立てる?」

愛実は春香に手を差し伸べる。

「うん……ありがとう」

その手を取ろうとして……ひっこめ、自力で立ち上がった。

「春香…」

普段なら「ありがとー!あっ、愛実の手あったかーい!」なんて言いながら手を取ってくる彼女が。心配をかけたくないからだろうか。

「もし良かったら、2人とも後で学食に来るといい。紅茶でも淹れよう。疲れているだろうしね。」

2人の様子を見たエリスは2人をお茶に誘う。

「エリス君…じゃあ、お言葉に甘えようかな。ほら春香、行こっ。」

「……」

ついに声を出すのも億劫になったのか、ただうなずいて歩き出す。

普段は愛実に並ぶほど元気な彼女がついに返事すらしなくなってしまった。

ナイフで刺されたような痛みが愛実の心を襲う。

「(春香…ほんとにどうしちゃったの?なんで元気がないの?いつもみたいに笑ってよ…)」

涙が出るのをこらえながら愛実も後をついて歩き出す。

エリスは春香の普段を知らないが、それでも尚ただ事ではないのだと察する。

しかし、心配することしかできず、助けられるわけではない自分を情けなく思うことしかできなかった。

 

波乱の授業は、それぞれの葛藤を乗せて過ぎ去っていった。

 

Chapter4.月夜のお茶会

波乱の授業から数日。

エリスは夜中、ドロシーに呼び出された。

彼女は、いつも通り、ハーベストで一番綺麗な夜景が見られる場所、学長室にいた。

「失礼します。学園長、急にどうしたんですか?」

部屋に入るが、綺麗な夜景にふと目を奪われる。

「あぁ、いらっしゃい!そのね、お月様が綺麗だからさ?お月見したいなーって!」

「確かに…こんな綺麗な景色は、初めてだ…。」

普段は景色を見るよりも何かに励むエリスにとっては何倍もきれいに見えていた。

「それに……春香ちゃんの件で、なんか落ち込んでいるようだったしさ?お悩み相談もしようと思って」

ドロシーは少しだけ悲しげな顔をする。

「学園長はよく見てらっしゃるんですね…。岩から皆を守れた時は少し成長できていた気がしました。でも春香さんを前にしたとき結局何もできなくて。」

エリスは、あの時感じた喜びも無力感も包み隠さずぽつりぽつりと呟いていく。

「あぁ……そっか……みんなを守れても、たった一人の大切な人を救えなくちゃ、ってことだね……」

「はい…。僕は大勢ではなくて、皆を守りたい。これが貴族としての義務…いや…もうこれは僕が僕であるための義務なのかもしれませんね。」

「……私もね、なんとなくわかるんだ。今でも大切な友達とけんかしたままで、仲直りしたいのにできなくて……そんなことが、もうずっと続いている。

だから、一概に「こうした方がいいよ」とかは軽々しく言えないけど……少しずつ、あの子のことを知ってあげればいいと思う。そうすれば、救い方もわかるかもしれないし……さ」

普段の明るいドロシーとは違う、後悔と悲哀を帯びた声色。

「先生にもそんな人がいるんですね。お互いに少しずつでも進んでいかないとですね…。でも先生がそう思っていればいつかできますよ。」

優しいエリスの言葉にドロシーは元気を取り戻し、

「…………なんだかしんみりしちゃったね!はい!お悩み相談室はおしまい!!お月見しよ!!」

いつもの明るいドロシーに戻ったようだ。

「話を聞いてもらえてよかった。僕はここに来れて本当に良かった。ありがとうございます、学園長」

そう言うと、改めて夜景に目を向ける。綺麗な月が彼らを見守るように夜に浮かんでいる。

「そうですね、こんなに綺麗な夜景を見ないで落ち込むのはもったいない。」

「だよねだよねー!こんな時のために、甘いお菓子も用意してるんだ!」

そう言って指を鳴らせば、冷蔵庫からハーゲンダッツや八つ橋やバナナやら……様々な「甘いもの」が出てくる。

「甘いものばかりですね」と少し苦笑い。

「だったら、僕も紅茶を持ってくればよかったですね。でも…」

ハーゲンダッツを手に取る。いい塩梅にひんやり冷えていた。

「たまには、ただお菓子だけを食べるのも良いかもしれないですね、学園長は何がいいですか?」

「んー?そうだなー……」

できたてほやほやのフレンチトーストをほおばる。そして口をもごもごさせながら何かを言う。

「ふぉういえわさ……あひはのおふひみ、ろうふる?」(そういえばさ…明日のお月見、どうする?)

もちろん口いっぱいに物をほおばっているため、何を言っているかは聞き取れない。

「明日の…えっと…お月見…ですか?」

少し困ったように聞き返す。なんとあのドロシーの言葉を聞き取れていたようだ。

「ん!」ほおばったフレンチトーストを飲み込んでから

「そうそれ!よくわかったね!!」

と、感嘆の声をあげる。

「自分でもちょっとびっくりです」と微笑みかける。

「それでお月見というのは?」

「えっとね……明日のお月様がね。ハーベストムーンなの。一年で一番きれいなお月様の日。」

「ハーベストムーン…。」と少し記憶を探るように考える。

「聞いたことがないですね。ただ今日よりも綺麗な景色か…」

今でも十分綺麗な月明かりの光景、それがもっと綺麗なのだ。

普段クールなエリスではあるが少しはしゃいだ様子で「それは楽しみだな…」と呟く。

「ふふ、でしょ!?せっかくだし、おいしいもの持ち寄って二人でお月見しようよ!!お互いの好きなものとか並べてさ!!」

エリスの嬉しそうな様子につられて笑顔になるドロシー。

「だったら僕は紅茶とケーキを用意しましょう。きっと気に入っていただけると思いますよ。」

「やったー!楽しみにしてるね!!」

「えぇ、約束ですよ。」

短くそう言うと、エリスはまた夜景に目を向ける。

心なしか、最初見た夜景よりも美しく見えるその景色をただ見つめていた。

 

Chapter5.決壊

あの事件から数日後、最後に食堂で見せた春香の笑顔がやけに遠く感じられるようになった日、授業終わりの愛実のスマホにかかってきた電話。

画面に書かれた名前は「栄ちゃん」…栄太郎だ。

「もしもし栄ちゃん?どうしたの?」

「愛実、大変だ。…春香が倒れた。」

「え…!?」

話によれば先ほどの魔導工学入門の片付け中、春香が倒れてしまったという。栄太郎はこれから事情聴取に行かなければならず、医務室で寝ている彼女のそばにいてやってほしいと伝えた。

「分かった。すぐ行くよ。」

「頼む。ありがとうな。」

電話を切って片付けをする。カバンの中に授業の教科書を少し乱暴に詰め込んで医務室へ走る。廊下なんて走ったらカント先生やアスタロト先生に怒られかねないがそれどころじゃなかった。

 

「春香!!」

医務室のドアを勢いよく開けて春香の元へ駆け寄った。

そこには、上半身を起こして、窓の外を眺める春香がいた。

彼女は愛実に気付くと。

「……」

いつかの、作り笑顔を浮かべていた。

「春香…なんで?どうしちゃったの?最近おかしいよ。何かあったの…

…まさか!」

思い起こす数日前。

『春香、ダイエットの為にご飯抜こうとしてるでしょー?』

愛実の中ですべてがつながった。まだ無理なダイエットを続けていたのだ。

「…春香、正直に言って。ここ最近、ちゃんとご飯食べてるの?」

ごちゃまぜの感情を抑えながら愛実は言う。

「えへへ……その件で、マリア先生に怒られちゃった。いくら気にしているからって、ちゃんとご飯食べなさいって。だからさ、これからちゃんと食べに行こうと思うの」

そう言って笑う彼女に、愛実の中で何かが決壊した。
「…ほんっとだよ。心配かけないって言ったのに…!」

溢れ出した感情のまま、震える手で春香を優しく抱きしめる。心なしか細くなっているような気もするが、こんな形でやせたってちっともうれしくなかった。

「こんな細くなっちゃって…あたしは春香がどんなんでも大好きなのに。元気なとこも勉強できるとこもあたしがわかんない魔道プログラムささーって書いちゃうとこも全部全部…!体重なんかどうだっていいよ…

このまま春香が壊れちゃうなんてあたしはいやだよ!」

目に涙を滲ませながらごちゃ混ぜの感情を吐露する。悲しみや後悔や無力感、たくさんの感情がぐちゃぐちゃになり一気に押し寄せる。でもその中に怒りの感情は無かった。

「愛実…そう、だね……こんなに心配させて、馬鹿だよね……」

日向のように暖かい腕の中、春香は親友をここまで心配させた事を後悔した。

「仲良しなのはいいけれど、あんまり心配かけないようにね?

それから、次の子が待っているから」

それを見た医務室のマリア先生が言った。

「春香…もうこんな事しない?ちゃんとご飯食べる?」

春香の瞳をのぞき込む。

「もちろんだよ!心配性だなぁ……ほらほら、早くいこ!

マリア先生、お世話になりました!!」

そう言って、愛実の手を取る。

「はーい。しばらく来なくていいからねー」

そう言ってマリアは待っていた生徒に対応する。

ようやくいつもの元気を取り戻した春香に愛実は安心する。

「マリア先生、ありがとうございました。後で栄ちゃんにもお礼言っとかないとなあ…

じゃ、ご飯行きますか!何食べる?」

愛実は春香に笑いかける。その姿は普段通りの二人だ。

「そうだなぁ……オムライス大盛り!一緒に食べよ!!」

「おっ、いいね!じゃあいざ行かん食堂ー!待ってろオムライス大盛ー!」

いつもの調子に戻った愛実は春香と手をつないで医務室を出て行った。

 

これでいつもの日常に戻ると、そう思っていた。

 

Chapter6.淀み始める水面

愛実と春香は、食堂に向かった。

お昼すぎから少し時間がたっており、人は少ししかいなかった。

「あ~、おなか減ったね。オムライスまだあるかな…」

愛実は春香の方を見る。

「そう、だね……あるといいなぁ」

一見普通そうに見えたその顔は少しずつ崩れていく。

「まあ、こんだけ人少なかったら並んでる時の無言の圧力もないし…春香?」

開かれた瞳はうつろで、口からは抑制することを忘れられたよだれがたらりとこぼれている。

「おなか……おなかすいたねぇぇぇいいないいないいないいなうらやましいうらやましいなあああああああ」

突如狂ったようにおなかがすいたと叫ぶ春香に、愛実は持っていたカバンを落とす。周りにいた生徒達も驚いて目を見張った。

「な、何あの子急に!?」

「どうしたんだ?腹減ったなら何か頼めば…」

「(おかしい、いくらおなかすいてるとしても春香はこんなこと言うような子じゃ…

…まさか…!)」

春香の瞳が、まだ食事をしていた生徒……エリスをとらえる。厳密には、彼が食べている食事に、だが。

彼女は一目散にそちらへと駆けていき、声をかける。

「あの……これ、私も食べたいです」

「春香…くん?こんにちは。どうしたんだい?」

「私、今すごくおなかがすいてて……よければ、一口貰えませんかね?」

表向きは平静に応対するが、少し様子がおかしいことに疑問を抱く。

「(あれはエリス君…まだ入学したばっかって言ってたような…だとしたら危ない!)

エリス君!今すぐ春香のとこから離れて!」

「愛実くん?」

状況を把握しきれていないエリスは、動かずにそのまま愛実の方に目を向ける。

「今すぐ離れて!今の春香はやばいの!春香だけどそうじゃないっていうか…

とにかく離れて!」

愛実は必死にエリスに叫ぶ。

愛実の様子から状況をようやく理解できたエリスは春香から距離をとる。

「春香くん、どうしてしまったんだい?」

声をかける。しかし、春香は構いなしにうつろな瞳でエリスを見据える。

「……ごはん、くれないんですか?でしたら……」

彼女は発動体のガラパゴス携帯を取り出す。そして何かを打ち込んだかと思えば。

「ダイヤモンドダスト」

そう、唱えていた。

「!?」

春香の様子がおかしいことに気づいていたエリスは、すんでのところで冷気の嵐を回避する。

「落ち着くんだ!いったいどうしてしまったんだ!」

説得を試みるが彼女の心には届いていないようだ。

「(やっぱり…やっぱりだ。春香、『アレ』にやられちゃってる…!でもどこで…)」

考えを張り巡らせるが目の前でエリスに魔法を放った春香を見て一度頭の中をリセットする。

「(とにかく春香を止めないと!)

エリス君、大丈夫!?今春香はちょっとやばい事になってて…

お願い、春香を一緒に止めてほしいんだ!もちろん無理にとは言わないけど…」

愛実は心苦しそうにエリスに問う。

「わかった。共に止めよう。」

まだ状況を完全には理解できていないエリスだが、春香を止めなければマズいことだけは理解していた。

「二人とも、邪魔するの…?私はただ、おいしいものが食べたいだけなのにっ!!!!!」

そう言って再び発動体を構えれば、二人に明確な敵意を向けた瞳をしていた。

「春香っ…!」

愛実は発動体の杖を取り出す。その表情は授業等の魔法決闘で見せる勝気な笑顔ではなく苦い顔だった。

「話はあとでゆっくり聞かせてもらおう…!」

変身は積極的に使いたがらないエリスだが、このままでは、周りに被害が及ぶ。そんなことは言っていられない。制服の第一ボタンを開けると発動体のネックレスが輝きだす。

 

「愛実君、攻撃は任せたよ。」

「了解…万物は流転する!」

愛実の杖にマナが集っていく。

集ったマナをオリジンで操作し、魔法を放つ。

「ライジングサン!」

彼女の苗字にもある、日が昇る。その太陽の光は敵には熱波を、味方には恵みの日光を与える。

春香も発動体の携帯電話にまた何かを打ち込む。すると業火が愛実に襲い掛かる。インフェルノドライブだ。

「させない!」

その前にエリスが立ちふさがる。

「エンジェルフェザー!」

天使を思わせる羽で防御をする。しかし完全に防ぎきれず少しだけダメージを負い、火傷も負った。

「くっ…!」

「エリス君!…春香、なんでっ…!ブレイクエンドボム!」

炎の玉が春香のそばに落ちる。

春香もデモンズナックルで防ごうとするも爆ぜた火の玉を防ぎきる事は出来なかった。

春香はお返しとばかりにマナを出し、彼女の背後に大きな時計が現れる。マイグランファーザークロックだ。

時計から放たれるマナの奔流が愛実に襲い掛かるも、再びエリスが愛実をカバーリングする。

「危険回避!」

回避の準備をしてマナを出す。

「アブソーブゲイト!」

エリスの前に現れる大きなゲート。それが開くと同時にマナの奔流はゲートに吸収される。

「ありがとうエリス君…!やっぱすっごいかっこいいよ!」

愛実の言葉は、エリスの中の何かをまた動かす。

「かっこいい…」

「さて、あたしも負けてらんないね!スーパーノヴァ!」

超新星を思わせる火の玉が春香に襲い掛かった。

春香はそれをくらうなりタービュランスを発動。水属性の青いマナが彼女の前に浮遊する。

そして調律したマナを合わせ、マイグランファーザークロックを繰り出す。

「危険回避…!そしてアブゾーブゲイト!」

再び時計から繰り出されたマナの奔流がゲートに吸収される。

その隙を見て、愛実も攻撃の態勢に入る。

スーパーノヴァの効果で普段よりも多くマナを出す。

「インフェルノドライブ!」

プロミネンスのような業火が春香を襲う。

そして、余ったマナも操作してライジングサンを放つ。照らされる日の光はエリスの傷を癒していく。

再び春香は携帯に何かを打ち込み、エリスを急襲したダイヤモンドダストを放つ。

冷気の嵐を前に、エリスはアブゾーブゲートで攻撃を無効化していく。

「エリス君…すごいね、攻撃無効化に越したことはないよ!」

愛実はマナを生み出し、オリジンで操作していく。彼女の前に5つ、赤い火属性のマナが揃う。

そのマナを杖に収束させ、春香に向ける。

「カーディナルコスモス!」

そう叫んで杖を振ると宇宙全てが太陽に染まっていくような灼熱の熱波が襲う。

 

Chapter.7 涙の果てに

愛実の放ったカーディナルコスモスに、春香のガラパゴス携帯もマナプロテクトの範疇を超えて画面が暗転する。

「えみ、る……ありがと……ね…」

一時的に欲望の呪縛から解かれたその顔はいつもの笑った顔。笑顔と親友への感謝を最後に春香はゆっくりと倒れる。

「あ、あぁ…!春香っ…!!」

その言葉は愛実にも届いており、手から杖がカランと落ちる。

春香の方に駆け寄った愛実は涙を流しながら膝をつき…否、崩れ落ちて春香の手を両手で握り、親友の手に追いすがるように愛実は泣き出した。

「ごめっ…ごめん…!あたしが…あたしがあの時止めてれば…ダイエットなんかしちゃダメって言ってれば…こんな…こんなっ…!!」

行き場のない後悔だけが心を締め付け、涙を搾り取っていく。愛実の頬を伝う涙が春香の頬を濡らす。その様子は春香も泣いているように見えた。

「ッ…!」

エリスは何も言えずに二人の様子を見守ることしかできず、悔しげな表情で立ち尽くす。

「仲のいい友達を止めたのか…可哀想に…」

「私あの子知ってる、同じ杖魔導の…」

「ちょ、誰か慰めに行きなよ…」

周囲にいる生徒達も涙する愛実を見ることしか出来ない。太陽の陰りが食堂の空気に広がっていく。

愛実は立ち上がり、涙をブラウスの袖で乱暴に拭ってスマホを取り出す。今だけは泣くな、我慢しろ、と自分を戒めるようなその様子が強くも痛々しく見えた。

そして「カース特別対策委員会連絡口」をタップし、電話をかける。

「もしもし。一人医務室に運んでください。多分『カース』にやられてるんだと…場所は食堂です。はい、今は…おとなしくしてます。それじゃあ、よろしくお願いします。」

そう言って電話を切る。

 

「……なにここ、なんでこんなお葬式ムードなの?」

電話から少し経つと、一人の少女が荒らされた食堂にやってきた。金色の短髪と濃い青の瞳を携えた、クールな雰囲気を纏った少女。

「というか、感染したのってこの子?だったら運んでいくけど」

倒れた春香のそばに立ち、愛実に言う。

「君は…?」

エリスは突然の介入に疑問を持ちながら突然現れた少女に問いかける。しかしその答えは少女からではなく、愛実の口から出た。

「あ、カース特対の方ですか?さすが仕事が早い…この人を…お願いします。」

愛実は春香の方を見ながら少女に言う。

「察しがいいわね。そう、私はカース特対兼HSN(ハンターズソーシャルネットワーク)所属……言っちゃえばクリーチャー退治の専門家の浪波カレン。一応札魔導の4年。」

そう言いながら、てきぱきと春香を運ぶ準備をしている。

「浪波カレンさん…ありがとうございます。」

愛実はカレンにお辞儀をする。

「カースの…」とエリスも得心がいく。

「でしたら、是非お願いします。」

エリスもお辞儀をする。

「いえいえ、私は頼まれた仕事をしただけ。ご友人はしっかり預かるから安心して。」

そういうと、食堂を後にしようとして「そうだ」と2人に振り返る。

 「ドロシーが、あなたたち二人のことを探していたわ。今回の事件について、話したいことでもあるんじゃない?」

カレンの言葉に愛実はハッとする。

「ドロシーが…ならそうかもしれない。ありがとうございます。

私たちはドロシーの所に行ってきます。彼女の事…お願いしますね。」

「そうですね、今は少しでも情報が欲しい。行きましょう。」

エリスは愛実の方を向いて、こくりとうなづく。

「それじゃ、私はこれで。頑張ってね」

カレンはそういって春香を背負い、改めて去っていった。

「……」

カレンが去った後、愛実はエリスに見えないように後ろを向いてもう一度袖で目のあたりをぬぐう。見えないようにしているのは先輩としての意地か、もう泣いている所を見られたくないからか。

涙をぬぐうと、エリスに真摯な顔で向き直る。

「行こう、エリス君。」

「えぇ、春香くんのことも心配だが…。今は事件に集中しよう。しかし、愛実くんも大丈夫かい?無理だけはしないようにね。」

エリスは愛実の涙の跡が残る瞳を見る。

「うん。あたしは大丈夫。ありがとう…

ここで泣いてたって何も始まらない、それにあたしがこんなんじゃ栄ちゃん…友達に笑われるか怒られるし…

お前がそんなんでどうすんだ、って…」

愛実はまだ少し腫れた目で笑う。

「そうか、強いんだね…君も友達も。なら、行こうか。」

愛実に優しく微笑みかけると、彼女の意思を尊重し、エリスも事件に集中することにした。

雨上がりに虹を、涙の果てに決意を掲げて。

2人はドロシーの部屋へ歩き出す。

 

Chapter8.心に忍び寄る呪い

「えっと、まずエリスくんに、カースのことについて説明しなきゃなんだよね……あ、ちなみに愛実ちゃんはカース事件は見たことある?」

カレンにより指定されたのは、ドロシーの研究室。部屋の主はのんきに紅茶を飲みながら、そう話し始めていた。

「見た事あるよ。3回ほど感染した人を止めた事が…。」

愛実は3回ほどカースに感染した人を止めた事があった。一方、入学したばかりのエリスは。

「話程度には…。しかし、実際に見たのは初めてですね。」

ドロシーののんきさに少し毒気を抜かれた様子で答える。

「ええとね、魔導次元には時々、人の欲望が拡大してしまう病気のようなもの……カースによる事件が起こるんだ。その原因は、クリーチャーっていう魔物で、どこかしらで感染源となるクリーチャーと接触をした人は感染してしまう。

そしてこのカースっていうのは、人から人へも感染するの。同じ欲望を持った人に感染して、その欲望を爆発させ、歪んだ形で表出させる。

爆発する欲望は様々で、さっきの春香ちゃんだったら多分食事関係の何か、あとは……「死んだ人に会いたい」とか、「好きな人と恋をしたい」とか……「人を殺したい」とか、いろいろあるの。」

「なるほど…。人の欲望か…。」

エリスはイギリスでの周りの人とあった、貴族という立場がらみでの出来事を思い出し、一瞬苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。貴族というだけで悪意やあからさまな言いよりを経験した彼にとって、欲望というのは特段いいイメージがない。

「エリス君…?」

愛実は一瞬苦い顔になったエリスを心配する。何か嫌な思い出でもあるのだろうか…しかし嫌な思い出を下手に刺激するのもいけないのであえて触れなかった。

「なら、今回も原因となったクリーチャーが?」
すぐに気を取り直し、ドロシーに尋ねる。

「もちろん!それでね、本来ならさっきのカレンちゃんみたいな「カース特別対策委員会」ってところが主になって退治するんだけど……どうも、他の大きい事件に手いっぱいで動けないみたいなんだ。

だから、私から君たち二人にお願いしたいなーって……どうかな?」

ドロシーからの頼みに愛実は。

「受けさせて。春香を元に戻すためにも。」

愛実の顔には「親友を元に戻す」という強い決意が満ちている。

「もちろん、僕も。ここまで来て困っている人を放ってはおけない。」

これが自分の成すべき義務だと、エリスは心から信じ答える。

決意に満ちた二人の回答にドロシーは笑う。

「そっか、それならよかった!それじゃぁ早速だけど、今回の原因となったクリーチャーを探すために、情報収集しよっか!」

「まずは情報から…よし、やるぞ。」

愛実は立ち上がる。その様子は夜明けの太陽が昇るようだった。

「ええ、善は急げ、です。」

エリスも決意を新たに立ち上がる。

「がんばってねー!」

ドロシーはのんきに2人を見送った。そののんきさの裏には、確かに2人への信頼があった。

 

その後二人は情報収集を行った。

まず、今回のカース事件の特徴としては「美味しい物を食べたい」という欲求により感染するカースによって引き起こされている事と感染者は5~6人ほどである事が判明した。

続いて、感染者の特徴は速水春香を含め、この事件の感染者は他の事件と異なり、一次感染者が非常に多い事が判明。

感染者が接触したと考えられるクリーチャーに共通点は見いだせず、調査は難航している。

唯一、感染者に共通した点として、持ち物に同じペットボトル飲料水が発見された。

 

原因が疑われるペットボトル飲料水は「はーちゃん」という名のペットボトル飲料水で、ハーベスト近郊の山にある「神秘の泉」から採れる天然水だ。

湧き水には結界が張ってあり、クリーチャーが近づけないような仕組みになっているが、

現在その結界に不調がある可能性が高いことがわかった。

そして結界に不調があることで、クリーチャーが入りこんでしまっている。

アーヴァンクと呼ばれるクリーチャーが泉の中央部にダムを形成しており、アーヴァンクのカースが飲料水として流出してしまっている事が分かった。

 

思いのほか、調査はスムーズに進んだ。

愛実は「あたしら2人、イギリスの血を引いてるからかもね。きっと名探偵ホームズの御加護ついてるんだよ。」と笑った。

「愛実君もイギリス人なんですか?」

「半分ね。パパが日本人でママがイギリス人。」

 

Chapter9.神秘の泉へ

調査を終えた二人が神秘の泉へ向かおうとした時。

「わー!待って待って!」

と、背後から大慌てでドロシーがすっ飛んできた。

「学園長?」

エリスは声のする方を振り向く。

「うぇっ!?ドロシー!?どうしたの?」

突然呼びとめられてびっくりしたのか愛実は素っ頓狂な声をあげながら振り向く。

「あぁ……よかった間に合った……えとね。急きょなんだけど、私もいかなきゃいけなくなって」

「え、ドロシーが?もしかして一緒に戦ってくれたり…?」

「学園長も?何故また…?でも一緒に来てくれるなら心強いです。」

2人は期待の眼差しをドロシーに向ける。

 「あの結界、私のマナ……第八マナって言えばいいかな。で張ってあるから、治せるの私だけなんだよね……」

「第八…?」

愛実が首を傾げる。

「第八マナっていうのは人工のマナの事で…詳しくは大学院の第八魔導研究科をちぇけらだよ!

あ、本題に戻るけど、なんとなーく結界壊れているの、察しがついてて。」

「なにか心当たりあるの?」

エリスも視線をドロシーに投げかける。

「この前の授業のときの……ほら、春香ちゃんが大きな岩持ち上げて、それが転がってったじゃない?もしかしたら、あのときの衝撃で……ってことかもしれないなぁって思って。それだったら、私の授業で起きたことだから、私にもほら、まぁ……半分くらいは責任あるし。えへ」

なんて言いながら、二人から目をそらしている。

 「あー…。」

エリスはやや微妙気な、何とも言えない表情をしている。

「………」

愛実はにっこりと笑った顔でドロシーを見る…いや、これは顔は笑っているが立派に怒っている。

「じゃあ今度は岩くらいで壊れたりしないような超丈夫に補修してほしいな~???」

…どことなく顔に怒りのマークがついているようにも…見えなくもない。

「はいぃ!!精一杯つよいのはらせていただきますぅ!!!」

そう言いつつ、どこか顔が楽しそうなのは気のせいだろうか。いや、気のせいではなく普通に笑っている。これが学長と生徒の会話なのだろうか。

「はい、いいお返事100点満点!そういうことだから早速行くぞ~!」

愛実は先陣を切って走り出す。

「まぁ、ともかく。誰に悪気があったわけでもないですし…。」

エリスは、やや呆れ顔の表情で愛実についていく。

「はーい!れっつらごー!!」

 

幕間.金色のエールを

「……」

彼らのいた場所近くの壁の後ろに、もたれている少年が1人。

オレンジの髪を結ったアッシュブラックの瞳の少年、金崎栄太郎。愛実の親友で愛実と春香を引き合わせた張本人。

本当は自分も行きたかった。が、春香の様子を見ていてほしいという頼みをマリアから受け、行けない状況にあった。

それでも。

「愛実。お前なら大丈夫だ。お前の圧倒的な火力の前じゃ、クリーチャーの1匹2匹、どうってことないはずだ。

だってお前は、俺の親友で、あの時の魔法決闘で俺を負かしたライバルなんだからな。

頑張れ、愛実。」

彼女の力はその体に受けた自分がよく知っている。そこから湧き出る友への信頼を拳に乗せて彼らの行った方へ、太陽へ掲げる。

どうか彼らに勝利の栄光を。そう願って栄太郎は医務室へ向かった。

 

「…栄ちゃん…?」

親友のエールが聞こえたような、そんな気がした。

 

Chapter10.泉への道

神秘の泉へ行くのは簡単ではなかった。道中様々な困難が道をふさいだ。

しかし、彼らには魔法があった。

襲い来る闇の植物に愛実がルクスで対抗する。

「この印籠が目に入らぬかー!」

そう言って光を闇の植物へ向けた。

「ははぁー」と言わんばかりに、しなしなと闇の植物は枯れていく。

 

続いて起こった落石と土砂崩れをエリスがブリンガーで回避する。

「ひゅーっ!やっぱかっこいー!あたしもブリンガー覚えるかなぁ…」

愛実の素直な言葉に少し嬉しそうな顔つきになる。

 

泉の前のアーヴァンクのダムは愛実がエクスプロードを発動させようとしたがマナが揃わず、愛実のフォースとエリスのブリンガーで解体していく事にした。

さながら魔法を使っての工事現場である。

「頑張れ2人とも~」

「いや手伝って???」

「私は現場監督者だから!」

「Why??」

「仕方ないですね…ほら、もう一息だ。」

「工事現場の人達ってえらいなあ…よっと」

 

Chapter11.水辺の青き獣

どうにかダムを突破し、 3人がダムの内部に入ると、そこにはふかふかの毛皮の生えた大きな青い獣が倒木をかじっていた。

「あれがアーヴァンク。見た目は結構可愛いけど、意外と暴れん坊だから注意してね!それじゃあ二人が戦ってる間、私は結界直してるから、あとはよろしくね~♪」

そう言ってドロシーは結界の方へ向かおうとする。

「あたしらだけで!?二人っきりだよ大丈夫!?」

「一緒に戦ってくれるわけではないんですね…」

エリスは愛実に相槌を打つ。

「ほんとは一緒に戦いたいんだよ?でもさ、さすがにお仕事放棄するのもどうかと思うし……怒られたくないし……

だから!少しだけサービスしてあげる!!」

そういうとドロシーは指を鳴らす。すると、2人に力が湧き上がる。

「「時空転移のお守り」レベル4想定だよ!!」

「これは…凄い…。」ドロシーの普段の姿からは想像できないからか、余計に驚きを隠せない表情でいる。

「すごい…ありがとドロシー!さっすがみんなのヒロイン!

よし、なんか元気出た!こいつに勝って、春香やみんなのとこに帰ろう!」

愛実は快晴のような笑顔でエリスの方を見る。

「そうですね、春香くんの様子も心配ですし、さっさと帰りましょう!」

エリスも覚悟を決めた眼差しで答える。

「さぁさぁ!思いっきりやっちゃってね!!」

一気に良い顔つきになった事を確認したドロシーは、そう言って結界の方へと走り出す。

「さあ、いくよっ!」

愛実は発動体の杖をアーヴァンクに向ける。その顔には迷いも曇りも一切ない。

エリスも制服の第一ボタンを外すと、ネックレスが表れる。ネックレスが輝くとエリスも獣化する。だが、そこにいつもの恥ずかし気な表情はない。それどころか、どこか誇らしくも見える。

アーヴァンクは、侵入者たちの姿をその目でとらえれば。

かじっていた倒木を置き、二人をしっかりとにらみつけた。

 

アーヴァンクは2人を見つけるや否や大魔法「イマジナリー・ウイング」を切る。

想像力の翼でたくさんのマナを発生させ、地面に閃光を走らせる。アポカリプスデイだ。

さらにハイドロハリケーンまで繰り出し、さながら天変地異だ。

そんな天変地異を前に、エリスは。

「危険回避!…エンジェルフェザー!」

天使の羽で防御するも、その防御は天変地異に突破される。

「っ!」

「エリス君!」

愛実はエリスに駆け寄る。

「大丈夫!?」

「このくらい…!愛実君は攻撃を!」

傷ついたエリスに愛実の中でアーヴァンクに対する怒りが燃える。

親友を狂わせ、新しい友達まで容赦なく傷つける目の前の敵を睨む。

「何してくれてんのよ…!!」

愛実は立ち上がり、杖を構える。

「知は力なり!」

愛実の周囲を漂うマナが増える。マナを操作し、赤いマナが4つそろう。

「スカーレットコスモス!」

宇宙が深紅に染まっていくような業火がアーヴァンクの全身を焼く。

アーヴァンクはそれに怒ったのかアポカリプスデイ、そしてアバランシュブレイクを繰り出す。閃光走る地面、雪崩のように押し寄せる水はまたもや天変地異だ。

「愛実君…僕も負けてられないな!」

エリスがマナを発生させると、そこには6つの異なる色のマナが。まるで「守りたい」という意志を持つ彼の心にマナが応えるかのように。

「僕自身の義務を果たし、皆を守るために!

エリス・クラークの名の元に具現せよ、中秋の名月(ハーベストムーン)!」

エリスの上に月が現れ、優しく柔らかい月光の加護が彼の守りを強くする。

月光の加護の前に天変地異ははじき返される。

「エリス君…!すごいよ!よーし、ちょっと強引手段になるけどあたしもやっちゃいますか!」

愛実がそう言うと杖を上空に向け唱える。

「皆が笑って幸せになれる大団円への引導を!テスタメント(神の存在証明)!!」

愛実の周囲に大量のマナが現れ、それぞれ色の異なる6つのマナを収束させる。

「並びたて2つの月!そして我らに勝利と笑顔を!日乃香愛実の名の元に具現せよ、中秋の名月(ハーベストムーン)!」

太陽と見間違えるほどのまばゆい月の光が愛実に力を与える。

「スーパーノヴァ!」

超新星が輝き、さらに愛実の力を高める。しかし、それを攻撃に使うかと思いきや。

「フェアリーズイン!」

愛実の高まった魔力が優しい癒しの風になってエリスに吹く。癒しの風を受けるとエリスの傷は治っていく。

「傷が治っていく…いいのかい?僕に使ってしまって…」

「いいよ。どうせ使うなら攻撃ばっかりじゃなくて仲間の為にも使いたいんだ。エリス君、めっちゃ守ってくれてるからあたしもそれに応えなきゃ。」

「愛実君……ありがとう。」

己の力を誰かの為に。その姿は誰かの為に動く両親の姿と重なった。

「いくわよ!汝自身を知れ!」

愛実の魔力が高まる。

「もう一回!スーパーノヴァ!」

マナを収束させ、超新星が爆ぜる。猛攻にそろそろ削れてきたかと思ったが、向こうはそれを感じさせない猛攻で反撃してくる。

アバランシュブレイクとコールカタラクトで水の猛攻が襲う。

「僕に任せてくれ!危険回避!アンダーザクラウド!」

エリスが雲で防御するも、完全には防ぎきれずダメージが入る。

「愛実君!僕なら大丈夫だ!遠慮なくやってくれ!」

「おっけー!ライジングサン!」

攻撃も回復も両方こなす日の光が全てを照らす。

再び地面に閃光が走る。

防御に入るエリスだったがマナが揃わずテトラポッドで応戦し、自分で自分の回復をするフェアリーサークルで一息つく。

「もうちょいかな…!」

愛実がマナを発生させる。マナを揃え、4つの赤いマナが揃う。

「よし、これでスカーレットコスモスをやれば…」

「待つんだ愛実君!」

エリスが待ったをかける。

「どうしたの?」

「余っている風属性のマナを、地属性のマナを使ってオリジンで火属性に変化できれば!」

「…ホントだ!ありがと!」

愛実はエリスにサムズアップを向けた。

5つの赤色のマナがそろい、杖に収束する。

愛実は一呼吸置いて、その呪文を口にする。まるで終止符を打つように。

 

「カーディナルコスモス」

 

宇宙が深紅に染まる。刹那に散る。

膨大な熱波が晴れた後、青き獣は跡形も残っていなかった。

 

Chapter12.大団円 -Happy End-

「おんまたせー!しっかりがっちり、硬くしといたからね!!

それにしても二人ともすごいね!!アーヴァンク相手にあんなに戦えたなんて!!」

大型クリーチャーのアーヴァンクをたった2人で倒した彼らに、ドロシーはぱちぱちと拍手をする。

「修理ご苦労様。へへっ、あんなのあたしらの前じゃちょちょいのパーよ!」

愛実は笑顔でVサインをドロシーにして見せた。

「なんとか…。愛実君のおかげです。僕1人では何もできなかった。」

「なーに言ってんの!エリス君がめっちゃサポートしたりカバーしたりしてたからこそ、あたしはああやって攻撃撃てたんだよ!あたし一人じゃすぐやられてた…

それに、この間君言ったじゃない。『困った時はお互い様』って。」

愛実は優しく微笑みかける。

「はは、役に立てたなら良かった。確かに『困ったときはお互い様』だったね。」

そう屈託のない笑みを愛実に向けVサインをする。

「そうかそうかー!ドロシーちゃんのお守り、役に立ったかな?」

ドロシーの時空転移を上手く使いこなしていたエリスは、ドロシーの方を向く。

「それに学園長も。普段を見てるとつい忘れてしまいますが、凄い人なんですね。」

と、おどけて言う。

「そりゃぁね!っと……そろそろ帰ろっか!!もうすぐ夜になるし、お月見しないと!!」

一面オレンジ色に染め上げられた空は雲一つない快晴。これは最高のお月見になりそうだ。

「今日はハーベストムーンでしたもんね。春香くんの様子も気になるし早く帰らないと。」

エリスがそう言った時、愛実のスマホが鳴る。

「もしもし栄ちゃん?…えっ!春香が治ったの!?そっか…うん、すぐ戻る!」

愛実の表情が歓喜に満ちる。

「いま友達から連絡があって、春香のカース感染が消えたって!よかったぁ…!」

「本当かい!?良かった、本当に良かった…。」

愛実の表情と報告に、エリスは安堵の表情を浮かべる。

「うんうん、最後はみんなで笑ってハッピーエンドだよね!」

「ええ。…ハーベストムーン楽しみにしてますよ。学園長。」

「それじゃ、帰りますか!ほんとにありがとう!ドロシー、エリス君!
よーし、待ってろ春香ー!」

愛実はそう言って、学園への道を走り始めた。

「学園長も。早く行きましょう。」

エリスはそう言って愛実の後を追いかけていく。

「はーい!愛しの学園にごーごー!!」

 

皆が笑顔のハッピーエンド。手繰り寄せたのは少年少女の勇気と思いやりに他ならない。

徐々に顔を出し始めた中秋の名月が、大団円を祝福するかのように空に浮かんでいた。

Chapter13.新たな一歩

速水春香が引き起こした食堂破壊事件、並びに一連のカース事件が解決してから数日が経った。日乃香愛実と速水春香は、カース特対を束ねるイマヌエル・カント先生の研究室の前に来ていた。

「ね、ねぇ愛実……ほんとに、私なんかが入っていいのかな……」

扉の前で、春香は不安そうに愛実の方を見る。

「いいよ、むしろ大歓迎だって。ほら、胸張って。」

背中を押すように春香の背中を叩く。

あの事件の翌日、愛実はカント先生に呼び出され「カース特対に入ってくれないか」と、簡単に言えばスカウトされたのだ。

1年生2人が大型クリーチャーのアーヴァンクを倒した功績は生徒や教師達の間で瞬く間に広がった。

「この2人なにもんだ…?大型倒すなんて」

「確かこのクリーチャー、結構強いって噂で聞いた事があるよ?」

「こりゃあカント先生が黙ってないぞ〜、いい意味で。」

案の定この話はカントの耳にも届いた。放課後、愛実を研究室へ呼び出してカース特対について伝え、

「その力をぜひ、カース事件と学園の平和の為に貸してほしい。」

そう、愛実に頼む。

断らない理由がなかった。

彼女だけではない。感染者だった春香にもスカウトの声がかかった。

カースに感染したからこそわかる事がある、という事でカントはカース感染して治癒した生徒にも積極的に協力を呼び掛けていた。

もうあんな目に合いたくないと断る生徒もいれば、自分に出来る事があるならと協力してくれる生徒もいる。春香は後者だ。

エリスについて、本当はすぐにでも声をかけたかったが入学後1か月経たないとカース特対には入れない決まりもあり、その頃合いを見て声をかける予定らしい。

「うん……まぁ、愛実が嘘つくとは思わないし……実際、私にも声かかったけどさ?でもこうしてここにきても、まだまだ実感わかなくて……」

などとごねていると。

「あら、久しぶりね。カース特対に入るの?」

愛実にとっては聞き覚えのある少女の声が背後から聞こえてきた。

「あなたは…!」

愛実が後ろを振り向くと。

「こんにちは、日乃香さん。速水さん。」

そこには、あの日出会った少女……浪波カレンがいた。

「浪波先輩。こんにちは。」

愛実はカレンにお辞儀をする。彼女はカースに感染した春香を保護してくれた恩人だ。

「カント先生から直々にスカウトされたんです。この子と一緒に…」

愛実は春香の方を見る。

「はい、そうなんです……それで、でもほんとに入っていいのかなって……悩んでいて」

未だ現実味のない、カース特対へのスカウト。

「わざわざ先生が勧誘しておいて、はい実はそれ嘘でしたーなんていうわけないでしょう?だから、気負ってないで入りなさい。

それとも、「精霊様の加護」でもないと、勇気が出ないとか?」

激励に織り交ぜられたほんの少しの皮肉に春香がぎょっとする。

「そんなことはありませんよ。春香はもうカースなんかに負けたりしません。

まあ…正直あたしの方も実感わかないんですけど…」

愛実は照れ臭そうに頭をかく。聞いた話ではカントが直々にスカウトする事はレアなのだから。

「あぁそう。せっかくだから、可愛い後輩のために一肌脱ごうかしら」

そう言って、彼女は上着のポケットから何かを取り出す。手のひらに収まるほどに小さな紙には、橙色の花が張り付けられている。どうやら栞のようだが……。

「人工的に作られたその花は、神の領域であったはずの所業を人がなせたということを証明しうる奇跡そのもの。Attaining the impossible……不可能を可能とする志を持ったあなたたちに、神の祝福があらんことを。

青き薔薇の花言葉を、あなたたちに贈ろう。【ヴァイス・ヴァーサ(逆説的真理)】」

そう詠唱すれば、二人の周囲をどこかから飛んできた青い花びらが舞い、2人は顔を覆う。それが晴れれば、カント先生の研究室の中に転移していた。

「ということでカント先生。部屋の掃除はご自身でお願いしますね」そう言って、彼女は大魔法で持ってきた花びらを置き去りにして去ろうとする。

「えっ、今の何!?すごい…あんな使い方出来るなんて…」

カレンの大魔法に目を丸くする愛実。

「あっ、浪波先輩!ありがとうございます!私たち、これから頑張ります!」

去ろうとするカレンに愛実は明るい顔で言った。

「わ、私も頑張りますね!先輩!!」

「カレン、でいい。先輩なんて堅苦しいじゃない」

後輩たちの声に振り返ってにこりと微笑めば、部屋を後にする。

「え、あの……浪波さん……?せめて、大魔法使った自分で掃除を…………」

置いてけぼりを食らったカントは、その後胃痛と闘いながら部屋の掃除をすることとなった。

「ありゃ…カント先生、手伝いますよ。特対の話はその後でお願いします。」

愛実は苦笑いしながら箒と塵取りを取り出す。

「私も手伝いますね!!」

春香も加わって大掃除が始まるのだった。

「あぁ、ありがとう……」

カント先生はどこか苦笑いを浮かべながら、2人に感謝を述べる。

こうして、先輩からのエールを受けた二人は無事にカース特対に入る事になった。

そして後日、栄太郎を始めとする愛実の友人らも共に戦うべくカース特対に入った事と、学校新聞の「今月のカース特対 期待の新人」欄の写真には真新しい腕章を付け、笑顔で写真に写る彼らの姿があった。

愛実と春香は隣同士に立ち、笑顔でピースサインを寄せ合っていた。

 

ある日、彼らに初の仕事が与えられる。

黒き森に現実世界とのゲートが出来ている為、それを閉じに行くというもの。幸いハーベストの付近にあるものでそう遠い物ではないが、もし現実世界から迷い込んだ者がいれば保護しなければならない。

「よし、春香、栄ちゃん、行こう!」

「うん!」

「よっしゃ、いくぜ!」

ゲートと発動体を持たない者を探知するレーダーを握りしめ、学園を飛び出す愛実達。

その上空には、彼らを見守るように太陽が輝いていた。

 

…ちなみにその先で思わぬ再会が愛実を待っていたのだが、それはまた別の話。

Chapter14.僕が僕でいられる場所で

時はさかのぼってアーヴァンク討伐後の夜……中秋の名月が見られる日。

エリスはドロシーとの約束通り、学長室で二人だけのお茶会をしていた。

「学園長、お待たせしました。」

そういってエリスは、カップに紅茶を淹れる。手慣れた手つきはさすが英国紳士ともいうべきか。

「今日は、ちゃんと紅茶持ってきましたよ。」

「やったー!ありがとうねエリスくん!私もおいしいお菓子、山ほど買ってきたから!!」

そう言ってテーブルの上に並べられるそれらは、高級ブランドが前回よりも多い気がした。

「これは…今回の事件の罪滅ぼしですか?」

少し冗談交じりで、呆れたように問いかける。

「まぁ、それもあるけど……入学したばかりで色々頑張ってもらったから、そのお礼!ちょっと経費使いすぎた気もするけど……どうにかなるから!うん!!」

ドロシーの満面の笑み。少しだけ汗がたらりとあるような気もするが、気のせいだろう。

「また、他の先生方に怒られるんじゃないですか…?」

と遠慮がちながら、ドロシーに続いてお菓子に手を伸ばす。

「それに今回の件、原因はどうあれ、学園長には感謝もしています」

そう言ってドロシーに目を向ける。

「この事件で、僕は初めて「貴族」としてではなく、「エリス・クラーク」として誰かの力になれた。」

入学してから今まであった事を思い返すように話し始める。

「向こうでは僕はどうあっても貴族だった。ただ、ここでなら僕は「僕」で、自由であれる。

この自由をくれたのは学園長です。だから僕は貴方に感謝しているんです。」

そう、ドロシーに感謝を伝える。

「…………」

のんきにお菓子を食べていた口は、案外まじめな話にシフトチェンジしたことにより停止し、しばらく動けずにいたが……

「……んん。そ、そっかぁ!!そうだったらうれしいなぁ!!」

紅茶を一口飲んで少しでも威厳を取り戻そうとした。それも、口の端についた生クリームで台無しになったが。

「ふふっ、無理しなくても大丈夫ですよ。聞いてくれているだけでいいんです。」

ドロシーの様子に笑いを隠せないエリス。その様子は年頃の、等身大の14歳の少年だ。

「だから、僕はこれからもここで「僕」を探していきます。幸い僕には能力もある。初めは恥ずかしかったけれど、こんな姿でもカッコいいといってくれる人もいますしね。あの姿で誰かを助けられるなら安い代償だ。」

ドロシーに話すように、自分に語りかけるように決意を示す。

思い出すは共に戦い、太陽のような笑顔と言葉の魔法をくれた恩人の少女。

「そ、うだね……!うんうん、君みたいに優しくて素敵な子は、すごい自分を見つけられると思うよ!私が保証する!!」

そんなエリスを見てドロシーは、どこか誇らしげに笑う。

「学園長の保証なら信頼できますね。」と少しおどけた様子で言う。

「さて、折角の中秋の名月ですし、お月見しましょう。学園長も紅茶、もう一杯いかがですか。」

気を取り直してドロシーに尋ねる。

「うん、もらおっかな。まだまだおいしいものはあるし、いっぱい楽しもう!!」

「ええ、滅多にない機会ですしね。」

そう言って微笑みながら、夜景を改めて眺めるエリス。

エリスの眼前には、曇りない空が広がり、そこに浮かぶ中秋の名月が煌々と2人を照らしていた。

-FIN-

あとがき

お付き合いいただき、ありがとうございました!

一番軽いシナリオのはずがなぜこうなったのか(いい意味で)。でもものすごく良いセッションでした!

色々とまごう事なき王道ジャンプ的展開で胸が熱くなりました。熱すぎて松岡修造に進化しそうでした。

ハイドラさん、ゆとさん、本当にありがとうございました!

これからもセッション、キャラメイク、妄想etcでハーベストの世界を楽しみまくりたいと思います!

この記事を書いた人

前の名前が使えなくなってるのでいわごんⅡにしました
自PCもよそPCもまるっと大好きな奇人です
お人好し年相応少年少女しかできないRPの引き出し無さすぎ人間ですが、何卒仲良くしてくださると嬉しいです。
クールキャラやりたい!!!(5000兆円フォント)

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