突きが迫る。見慣れた剣先はない。剣先を断たれた剣は、それでも鋭く砥がれた板刃を以って私を貫こうとする。
オスカーの援護があるのなら弾くのはリスキーな選択だ。発動体を打ち合うのはそれすなわち魔法攻撃を受けるということにほかならない。発動体に込めた魔法の威力が相手の発動体に込められた魔法の威力を越えればいいが、失敗すれば触れた瞬間に発動体が自壊することもありえる。
それでもなぜリスクを抱えて弾くのか。答えは割と単純で、魔法攻撃をその身で受ければダメージがあり得るからだ。マナの加護はあらゆる攻撃から身を守るが、例えば吹き飛ばされて壁に激突したときの衝撃まで軽減してくれるわけではない。ちなみにこういうことを防ぐ方法はいくらでもあるが、私はそういう防護策を一切取ってない。
割と危険なのだけれど、悲しいことにそんな防護策の大抵は地面に足を固定するもので、そんなことをしたら私の魔法のリーチは良くて2メートル半が限界になってしまう。接近してくれるならそれでもいいけど、この世の大体の詠唱時の魔法は5メートルぐらいが一般的な射程なのでこのままでは引き撃ちされてしまう。
ではどうするのか。一つ、機動力を上げて実質的な間合いを伸ばす。一つ、どうにかして剣先からビームでも出す。私は前者をとっているというわけね。結果おろそかになっている防御面をフォローするために技量を以って防御する。レイピアは1に防御、2に防御、3、4に防御に5に防御みたいな剣術だと思っているので、そこを活かすためにあえてリスキーな選択をとってもいる。
さて、誰に講釈を垂れているかわからないけど相手の突きを弾こう。基本的に突きは非常に有効な手立てだ。速く、致命的で、隙も少なくおまけに防御しながら出せる。突き専門のレイピアなんて剣が出来るくらいなんだから。
ではそんな突きはどうすればいいのか?私の答えがこれよ。
私の間合いに付き合ってくれる場合、間合いは3メートルほどになる。相手は突き出した剣を届かせるために踏み込む必要が生じる。相手の剣が伸び切るこの一瞬の隙に細剣を相手の剣の腹に叩きつけてやれば。
カイィィンッ!!!
「なぁっ…!?」
「甘いわよ!」
相手の剣が大きく弾かれそれを保持していた相手の体勢が大きく崩れる。
現実世界のレイピアではとても不可能な所業だけど、剣に魔法を込めれば相手を吹き飛ばすパワーもそれに耐える耐久力も十分に得られる。
あとは相手の動き出すタイミングを戦闘中に読み切るだけだ。細剣を引き戻して即座に構え一気に突き抜く!
「たぁっ!」
「ぐぅ!」
突きは吸い込まれるように相手の胸に突き刺さり吹き飛ばしていく。 別に致命的でも何でもないけどこれでレイピアの苦手な密着距離からは離れられる。
「…出来ますね、さすがはHSNでも活躍するAランク魔法使い。」
「そっちこそ相当出来るじゃない。剣、どっかで習ってたの?」
フェンシングには必要ない弾きを独学で習得しているとはいえ、私の剣技はフェンシングが原型になっている。彼女の剣術に特定の型はないし体捌きは素人のそれだ。でも剣の振り方や剣筋の迷いのなさが気になる。
「父から、剣の振り方だけは教わりました。」
「ふーん…剣術じゃなくて?」
「はい。父は剣の振り方しか学んできませんでしたから。」
…迷いない剣の振り方だけをねぇ…
「料理人かなんかだったの?」
「料理人が剣を使われる国からおいでになったのですか?」
「違うけど。」
「そですか。続けましょう。」
剣先を正面下の地面にしっかりと向けてこちらに歩いてくる。口が裂けても構えとは言えないものだが、整った姿勢と淀みない歩みがそれを彼女特有の構えのように見せる。
剣を振り下ろした残心のような体勢…小さな閃きが口をつく。
「処刑人…」
瞬間、彼女が距離を詰めてくる。
剣を動かさすに距離を詰めてきたなら斬り上げることしかできないはず。
構えを解かずに自分の間合いまで接近してレイピアを突き出す。
反応して防御のために斬り上げてきたところの隙を突く。
そう突き込んで 怖気が走る。
不味い!体勢も恥も外聞もなく無理に右に体を傾げる。
次の瞬間、左頬を風が撫でる。
細剣は当たっていない。突き込みかけたところを体ごと右に倒したせいで狙いを外したような不格好になっている。
そして剣も当たっていない。いつの間に両手にしっかりと保持され振り下ろされた剣が鈍く煌めく。
振り下ろした彼女の体勢はとても型には見えない。あまりにも隙だらけで突き放題。
だけどその体勢、剣先、目線、表情。それらが神聖不可侵に思えるほどあまりにも真っすぐで。
数瞬、時間が停止する。
戦闘のために澄み切った思考が何度か空転して。
「首が、落ちていませんね。」
彼女が、こちらを見据える。
一瞬で思考が引き戻される。歯車がかみ合うのを感じながら状況を認識する。密着距離
さて唐突に問題だけど、剣先が外に逸れた状態で密着されたレイピア使いはどうすればいいでしょうか?
バックステップ?詰めながら斬られて終わり。剣で防御?剣先が外にあるのにどうやって?
正解は?
「ッ!」
「んっ?」
左手で咄嗟に相手の胸倉をつかむ。このままなら腕をあげられて終わりだけどその前に!
「オラァッ!」
「づっ!??」
全力で頭突きをかまして蹴り飛ばす!そして距離を取る!
「く…頭突きとは。剣士としての誇りはないのですか?」
「ナイフのないレイピア使いが懐に入られたら、あとは手と足しか出ないわよ!それとも黙ってやられろって?」
卑怯に見えるかもしれないが本当にこれしかないのだ。でなきゃ負ける。それはいや!
「ふ…それもそうですね。続けましょう。」
「ええ。」
「次は通じないと思っていただきます。」
そりゃそうでしょう。手と足しか出せないなら対策はいくらでもある。打撃だって耐えられない程度とはとても言えない。同じ手は何度も通じないのは戦闘の鉄則だ。
「上等よ。今度こそ近づけさせやしないわ。」
「では、行きます!」

