『知っているかい?君はいつも僕を銃ごとポケットに押し込むけどポケットの中は暖かくとも暗くて何も見えないんだ。』
魔法植物には非常に多様な分類があるが共通した特徴として食用に適さないというものがある。ごく一部の例外のみが珍味としてわずかに好事家に食されているのみである。
『しかも君は授業中何もしゃべらない。外部からの音も聞こえにくいから僕にとっては何も見えない聞こえないという状態なんだ。』
これらの原因は不明であるが保有する魔力の影響というのが研究者の共通した見解である。なおこれは動物には見られないため植物特有の作用であるとされる。
『これらは精神状態に極度の不安を引き起こす。交流の隔絶した状態に長く置かれれば人の精神は容易に変質してしまうんだ。』
保有している魔力は様々であり人類に有害なものも含まれている。諸君は決して黒き森などで拾った魔法植物を食べないように。
『僕が人に該当するのかという点は僕が人をもとに作られた魔導宝具であるという点が証明している。つまりはだね』
しかし一部の魔法植物は薬効作用があることが確認されている。これらの魔法植物を利用した薬品は広範に利用され
「構いたまえよ!」
咄嗟にポケットを睨む。それから落ち着いて周囲を見渡す。
周囲の人間は何事もなかったように授業を続けている。つまりはコレの声は俺にだけ聞こえていたということだ。
『かーまーいーたーまーえーよー』
不満そうな声が頭に響く。ここまでごね始めたらもうどうしようもない。放置すれば、次は盛大な不満声が俺の白衣のポケットから大音量で聞こえることになる。
ゆっくりと拳銃を取りだし、弾倉を抜く。そこには1発だけ銃弾が装填されていた。弾頭に魔法陣、薬莢にどうやって彫り込んだのかわからない美しい紋様があるただの弾。
それを弾倉から抜き取り、指で転がす。
『たははは、くすぐったいぞ君。ようやく僕を構う気になったのか?』
「そのセリフは1時間ごとに言わないと気が済まないのか?」
『僕がそんなに短気な人間に見えるかい?』
「短気じゃない。寂しがり屋だ。」
『それに関しては許して欲しい。僕が100年単位の孤独に耐えてきたという話はしたっけ?』
「何度も聞いた。」
『なら、僕が人との対話や交流に飢えることは容易に想像がつくはずだよ。つまり、不可抗力というやつさ!』
「せめて授業中は黙れ。でないと撃つ。」
『授業中に突然発砲するのかい?』
「…」
信じられないことにこの銃弾は意識を持つ。
魔導宝具という魔道具の一種だ。自意識を持ち、人を模すことができる魔道具。
弾丸の名は原罪の銃弾。そして自意識はシナー・ウォレアと名乗るコレは、俺が普段使っている発動体の拳銃に唯一装填出来る銃弾だ。
この事実に気が付いたのは最近のことだ。二週間ほど前だったろうか…
「…」
朝、洗面台の前の鏡を見ている。
鏡に映っているのは見慣れた無気力な顔と、その右後方にこちらにニコニコと微笑みかけている黒髪の女。
「…誰だ?」
「君が僕を使っている人間だね?ずいぶんと冴えない顔をしているね。寝起きだからかい?」
凄まじくフレンドリーだ。面倒。
「後にしてくれ。」
「今はダメなのかい?そうには見えないよ。僕は質問するだけだし、君は身支度を整えながらそれに答え」
「後だ。」
コミュニケーションを放棄して、日課をこなすことに集中しよう。
と、唐突過ぎる遭遇を果たした。
その後は幾度となくコレに振り回され、情報収集の重要さを痛感してコレの事についてかなり詳細に聞き出した。
そして、いまどうにかこうにかこの突然現れた迷惑な銃弾とうまくやっている。
「どこへなりとも行けるだろう。」
『いやだよ。知っているかい?今の外気温は約5度。金属の体には些か身に染みる寒さだ。』
「ならどうしろと?」
『君が僕と雑談してくれればいい。簡単だろ?』
「永遠に雑談できる人間は存在しない。」
『別に永遠とは言わない。今のように10分でもしてくれれば、君が話題に詰まって自然に終了する。』
「…授業に集中できない。」
『ノートを取らないとならないなら僕が完璧に取って見せよう。弾丸だけど、魔法で自動筆記くらい楽勝さ。』
そういった弾丸は目の前で二つに分裂した。鉛が溶け零れるようにマナが集まった瞬間、つまんでいる弾丸と全く同じ弾丸がノートの上に転がった。
コレは自己増殖する。マナさえあればよく属性は問わない。分かれた弾丸はいわば自分で考える端末らしく、勝手に動きもするが絶対的な上下は決まっているらしい。
そして今話している弾丸が損傷したり撃発すれば端末の内1つが昇格し、端末がなければ俺の拳銃内に生成される。
というわけでコレはけして無くならない。うるさい無限弾薬というわけだ。
「書くならこれにしろ。」
『別のノートにする必要があるのかい?』
「自動筆記した授業ノートを見てそのノートにまとめる。」
『授業内容を完璧に書き写したノートさえあれば他のものは不要じゃないかい?』
「理解するために俺なりにまとめる。」
『なるほど。ずいぶん勤勉だね。』
「わからないことがあるのが気に入らない。」
『へぇー。難儀な性格だねぇ。』
白紙のノートを広げその上に今生み出された弾を置く。弾頭の魔法陣が僅かに光り、ノートに文字が一文字ずつ浮かび上がっていく。
それらは授業の様子を文章で完全に記録している。先生の些細なつぶやきや先生と生徒のやり取りまできっちり記録してくれているのはありがたい。
まぁ、それらを後に見てまとめなければならないが。
「いいだろう。」
『偉そうだね?この前の魔法戦は覚えているかい?』
「いつのだ。」
『金髪の二尾の少女と白髪の短髪の機械と共に獣を討伐していただろう?』
「…レイルとクオリアだ。」
『彼女らとはよく共に行動しているね?なにか特別な関係があるのかい?』
コレが人の姿を取って表れたのは二週間前だが、その前の記憶もあるらしい。
それまでは人前で拳銃から取り出したことはないが、撃発されてから目標に到達するまでの飛翔時にも意識があり周囲を確認できるらしい。
だから俺と共に魔法戦を行う二人の姿も知っているわけだ。
「よく顔を合わせる程度だ。」
『でも君はよく金髪の特訓を見に行っているよね?』
「…日課だ。」
『君の日常にしては異質じゃないかな?他人の日課を自分の日課にするというのもヘンな話だよ。』
「お前には関係ない。」
『まぁそれもそうだね。でも聞きたい。君のことをもっと知りたいんだ。いいだろう?』
コレは俺のことが本当に興味深いらしい。コレが言うには俺の扱っている拳銃はそう簡単に扱えるものではないと。
確かにこの拳銃は俺以外ではうんともすんとも言わなかった。コレが言っているのは事実だ。
そしてこの拳銃を扱っている俺に興味を持つのは当然だとも言っている。
「…」
『…』
沈黙。喋る気はないという意志表示。
『…うーん、残念だ。君は難しいし理不尽だね。僕を扱えるから当然だけど、もう少し雄弁な方が好みだよ?』
「…」
『他人から自分を隠しても、須く良いとは言えないよ。』
「お前に話す気はない。」
『信頼が足りないということなのかな?君は僕をずいぶん使ってきたのに信用していないのかい?』
「道具と人格は別だ。」
『むむむ、それは僕のような魔導宝具には辛いぞ?ちゃんと君に協力してきたじゃないか。』
「お前を使わなくとも戦える。」
『この先、君だけの力で金髪の彼女についていけるかな?』
挑発に挑発で返される。理解しているつもりだ。コレは俺に使われなければまた眠りにつくことになるだろう。
さりとて俺も、自作の札だけでレイルとそれを取り巻く人間たちに渡り合うのは厳しい。
「…」
『ふむ、話は終わりみたいだね。室内とはいえ少し寒いからポケットに戻してくれ。』
弾倉に弾を戻し、拳銃に挿入してポケットに戻す。
この迷惑な銃弾と長く付き合う羽目になった事実に辟易しながら、ぼんやりと自動筆記されていくノートを眺める。
