アマリリスは、その行動面では非常に一義的だ。
アマリリスの行動理念は「クリーチャーの権利保護」であり、これを達成するためにはどのような行動も厭わない。
我々は表面上ではその行動理念、そしてブレインであるトト=フロム=オズに従う。
そして、アマリリス内での反乱や離反は起こらない。少なくとも私は聞いたことがない。
これらの「ハーベスト側からわかる情報」から、アマリリスは様々な憶測を呼ぶ組織でもある。
非人道的な実験が行われている、トトによる極端に抑圧的な独裁、カースを受け入れた狂人集団。
果ては、クリーチャーを神とみなす狂信者集団。
そんなあることないことをささやかれるアマリリスだが、彼らが想像するほど、内面までもが画一的に統一された組織ではない。
アマリリスではかなりの自由が担保されている。無論、思想や内心の自由も。
それはここにいる5人を見ればすぐに理解できるはずだ。
私の右に座る、殺意と怒気を常に発する少女、グライス・アルト。
彼女にとって、トト=フロム=オズは命の恩人である。
自殺の寸前に助けられたという彼女の申告を信用すれば、トトは彼女の内面までもを救ったのだろう。
そんな彼女はトトの命令に逆らう思想など持ってはいまい。
だけども、私は彼女に疑念がある。
彼女は常人では考えられないほどの狂気を孕んでいるのでは、という疑念。
彼女は戦闘で敵対者を容赦なく殺害する。
しかも、必ずと言っていいほど必要以上に痛めつけ苦しませてから無残に殺す。
無残な殺し方の発想に関していえば、他の追随を許さないのではないか。
正直加担する側としてもたまったものではない。
立てなくなったハーベストの生徒からいろいろ引きずり出し、その持ち主の目の前で。おかげで一週間ほど赤いものが食べられなくなった。
こんな危険人物をトトが許容できているというのが恐ろしい。
私達や無関係な市民、クリーチャーまで虐殺するような狂人ではない。
任務に支障が出るようであれば同じようにそのようなことはしない。
彼女は、そのような時であれば自身の狂気を自制できるように見える。
でも私には、それは常識とか自重というものより、生来の狡猾さからくる危険信号が止めさせているように思える。
要は、彼女はあまりにも危険で社会に適合できるとは思えない。ように見える。
そういう、アマリリスの中でも最も危険な位置にいる人間と言える。
…まぁ、ここまで完全に私見でしかないのだけれど。
イーライ・ダーカー。私の左で机に張り付きながら座っている男。
グライスが放つ、この世で考えうるありとあらゆる直球の罵倒を受け流すこの男。
彼は確かにアマリリスに所属してはいるが、その活動には否定的だ。
攻撃魔法を一切取得していないこの男は、カースの力も強く恐れている。
ではなぜ彼はここにいるのか。
それは端的で、彼がカースに感染しているからだ。
カース。アマリリスの構成員はほぼ全員がこれに感染しているといっていいだろう。
治療法は1つしか確立されておらず、感染すればカースの種類に対応した欲求に強く駆られる。
暴力性の増大も共に発生するため、欲求を叶える方法はほとんどが極めて破壊的なものになる。
そして数年の期間を経て急速に無気力性が高まり、感染者は最終的にほとんどが自殺する。
いわばウイルス性の精神病とでも呼ぶべき、実質致死率95%を超える難病である。
しかし、アマリリスの構成員はなにも二年で全員交代というわけでもない。
ではなぜアマリリスの構成員はカースで発狂死しないのか。
それは単純明快な理由で、アマリリスは医学、特に薬学に関して発展しているからだ。
精神の治療に特化した医療技術によって、アマリリスではカース感染の症状の発症をほぼ確実に抑えている。
また、それらの治療を十分に受けられなかったなどの理由で仮に発症したとしても、フェイルセーフ的な手段も確保されている。
つまり、アマリリスに所属していればカースでは死なない。
が、これは我々にとって不利な要素でもある。
アマリリスにいれば死なない、というのは裏を返せばアマリリスにいなければ死ぬ、ということなのだ。
そして、アマリリス内ではクリーチャーと接する機会が非常に多く、カース感染はほぼ避けられない。
これらがかみ合った結果、アマリリスの理念や行動に賛同は出来ないが、カースの発症を抑えるために仕方なく所属している…という人間ができる。
彼はそういう、不運な人間の一人だ。
ネル・アルゴノート。腕を組み、私の前で気難しい表情をする彼女。
私とほとんど変わらない身長ではあるが、なんと御年22歳。どうでもいいけどスタイルもいい。
この中でイーライの次に最年長の彼女には謎が多い。
彼女は狙撃班の中でも珍しい純妨害型で、その強烈な妨害魔法による対象の無力化に特化している。
重要人物の捕獲やクリーチャーの鎮静化など重要な任務を任されることも多い。それだけ確かな実力を持つということだろう。
私が知ることは、彼女がハーベスト出身であるということ。
そして任務中、ハーベストに関係する人間に遭遇すると敵意を露わにすること。
大方ハーベストで何かあったのだろう。それを予想することはさすがに出来ないが。
その隣に座るのは優しいほほえみを浮かべる少女。
ラミアン・ファイエットがここにいる理由は単純なものだ。
彼女は孤児で、アマリリスに拾われた。
正確には黒き森をさまよっていたところを、偶然アマリリスを知るクリーチャーに保護されたらしい。
そして彼女はここで育ち、今やアマリリスの洗脳班として立派に戦っている。
ハーベストやクリーチャーを害する敵に対しては、それなりに冷酷に立ち回ることも出来るらしい。
フリージアの植わった小鉢を抱えながらニコニコとしているその恰好からは想像もつかないが。
そして私。
私にも深い理由はない。単純に危機をトトに救われてここにいる。
グライスのように自殺寸前だったわけでもない。もちろん、其れしか選択肢のない状況ではあったけど。
でも、少なくともここにきて後悔はしていない。
ここはなんだかんだネットも通っているし、魔法を自在に扱う感覚は個人的にとても楽しい。
職業テロリストというのもなかなか面白い。人死にに多く直面するものの、仕事の多くは新鮮で刺激的だ。
あの腐った平和だけが流れる現実世界などよりも、よっぽど生きている感覚が味わえる。
今日も帰ったらスレを立てることにしよう。
題名は「クリーチャーハンター狩ったったwwww」
現実世界でなら、よくできた作り話としてウケるだろう。
その刺激的で新鮮な体験が、自分の世界の隣に転がっているとも知らずに。
