鍛錬風景、クオリアの場合。

時刻は20時、消えないろうそくの炎は、風の通る余地のないこの部屋を静かに照らしている。
ここは私の生まれ変わった場所で、父の研究所だった場所だ。
禁忌の研究をしていた父は、様々な組織に狙われることも多かった。ゆえにこの研究所は、魔法探知に対して念入りに防御策が取られている。
生半可な探知魔法では、たとえここで魔法決闘が行われようと探知できないらしい。
その癖してここは地下室なのに電波が通る。なんなら外の鳥のさえずりすら、耳を澄ませば聞こえる。
一体どんな壁材を使っているんだろう…?

そしてここは研究所のため、父が研究のために利用していた様々な蔵書がある。
ほとんどはいわゆる「錬金魔導」と呼ばれる、非常に難解な理論や論文を記した書物ばかりだが…一部は違う。
例えば世界に存在するメジャーな魔法の全てを書き記したものや、魔法陣の部位、紋様ごとの意味、効率的な書き方を記したもの。
これらは当然、私でも読み解くことができる。

本棚から魔法陣に関する本を一通り取りだして、机に積む。
蔵書の量は凄まじい。ここにある本棚の数はそう多くない…けれど、この研究所は3段構造になっている。
一番上が私が生活している空間。下の階はどちらも倉庫の扱いになっていて、様々な資材や書物が詰め込まれている。
本棚とその下の床には転送の魔法陣が刻まれていて、これを起動させることで本棚を入れ替えることができる。
ローテーション式になっているから狙いの本棚を出すまで少し手間がかかるけど、それだけの価値はある倉庫だ。
だけど、一部の本棚や資材はもはや取り出せないようになっている。それらは父の研究成果であり、決して表に出てはならないものであるから。
もしかしたら、もう破壊されているかもしれない…本当に、後悔しているようだったから。

父の机は元あった位置から動かしていないが、その右隣に私の机が置かれている。
椅子に座り、机にノートを取りだして魔法陣を一通り書き込む。
この世界の魔法は大体、詠唱と魔法陣の二つに分けられる。他にもいろんなマイナーな発動方法はあるけれど、大体はこれに当てはまる。
書き込んだ魔法陣は、ハーベストで教えられるものとはだいぶ異なる。
これは私が模造品であることも関係している…が、大体は私なりの改変だ。
私は、思考することで空中に魔法陣を描くことができる。画材はマナだ。
これらの工夫は、出来る限り迅速により少ない量のマナで魔法陣を書き込んで維持することに大半が向けられている。
魔法陣系の魔法使い全般に言えることだが、どこかに魔法陣を書き込んだりしていない限りは、どうしても魔法を発動する時間が遅くなる。
普段使いならともかく、戦闘中ではそれが敗北のきっかけになることも十分ありえる。
もちろん、ここは現実世界ではない。戦いを挑み、負ければ…文字通り、命を取られることもある。
それは嫌だ、また死にたくはない。戦いを避けることも出来ない。
だから備える。そして、勝つ
私を地獄に叩き返そうとする全てに。

見たあらゆるものを記憶できる人間は存在するらしいが、私は生憎そうではない。
だから、ノートをもう一冊取りだして広げる。
ここには今まで読んできた魔法陣についての本、それらの中から重要なものをピックアップして書き込んである。
私の魔法陣は、基本的にこれの集大成と呼んでいい。
決してしてはいけない魔法陣の配置、組み合わせなどの基本知識もこのノートの中だ。
いつかはここにある魔法陣関係の本をすべてまとめてしまうだろう。
でも、蔵書の量はすさまじいし、何より私は生まれ変わってからまだ3年も経っていない。
まだまだ学べることは大量にあるはずだ。

書物を読み、重要な部分を書き留め、自身の魔法陣と比較し、改良できそうな点を探す。
そんなことをしばらく行って、魔法陣を描いたノートには新たな魔法陣がいくつか描かれていた。
レベル2魔法「イグニッション」「シークエンス」、レベル3魔法「グラウンドゼロ」に…レベル5魔法「カーディナルコスモス」。
今回は単属性の魔法陣に関して、大きな知見が得られたようだ。
なら、これで鍛錬は終わり…というわけにもいかない。
魔法陣の改良は、書き換えたり記述を追加、削除した魔法陣を実際に使用してみないとわからないことも多い。
特に、私の場合は様々な書物からのいいところだけを取った、いわば継ぎ接ぎのような魔法陣。
これらがうまくかみ合えばいいが、誰も予想しえなかった副作用による失敗もあり得る。
つまり、ここからは実験の時間だ。
だけど、こんなところで火魔法、しかもレベル5を放てば、私はともかくこの部屋は無事ではすまないだろう。
そのために…ではないだろうけれど、都合のいい設備がここにはある。
魔法陣を描いたノートを持って、北側の壁、右端の扉を開ける。
そこは実験室を思わせる、全体が白で塗られた何もない1室…というか、元実験室。
父は研究を放棄、封印する際、機材等も全て処分してしまった。だから、ここはほぼ空き部屋なのだが…
実験が失敗して、爆発等の危険が発生したときのために、ここは特に頑丈に作られている。
周囲に被害が伝播しないよう部屋全体が対魔法用特殊塗料で保護されているここは、偶然にも魔法をぶっ放すのに最適だ。

魔法陣の形状を記憶し、ノートを部屋の外に放ってからしっかりと施錠する。
まずは闇魔法から試す。あまりフォルムチェンジを乱用すると、体調に悪影響が出る可能性もある。
レベル2魔法「シークエンス」。闇マナを使い、精製したマナを保存する魔法。
まずはマナを集めて闇マナを精製する。そして、魔法陣を思考する。
精製された闇マナが、宙に小さな魔法陣を編み込む。
確かに魔法陣を描く速度は上がった、が…魔法陣が効果を発揮しない。
少し即興で編み直してみる…ダメだ。うんともすんとも言わない。
結局、マナは霧散してしまった。失敗。

次、レベル3魔法「グラウンドゼロ」。
少し大変だけど、闇マナを精製する…よし、成功。
魔法陣を思考し、黒紫の糸で編み上げていく。
かなり早く完成した。成功すれば確実に実用レベルだが、果たして…?
魔法は発動、黒球が壁に飛んで行って、ぶつかってはじける。覚醒も…発動している。成功だ。
やった。本気で嬉しい。努力が報われた時だ。
もうこれだけでも十分な成果といえる。魔法陣の改良が1度も成功しない、なんてことも十分にあるから。
でも、今回はまだ2つ残っている、これらも今のうちに試しておこう。

少なくとも私の知る限り、模造品は基本的に属性を2つ同時に扱うことは出来ない。
体内に違う属性のマナを同時に扱う機構があればもちろん別だが、そういうものを搭載していないのなら、基本的には一つの属性しか同時に扱えない。
なぜかはわからない。父もこのあたりは研究していたのだろうけど、もちろんそれらは破棄されてしまっている。
ただ、私たちはその代わりとして様々な能力を持つ。
ちなみに、私がマナを操作して魔法陣を空中に構成する  編む、と表現している  は、別に模造品としての能力ではない。
単純に、それは魔法の発動方法の一つでしかない。マナを操作して、とはいかなくとも、指先や剣先などにマナを集中させて、同じようなことができる人間は多い。
だがこれは、人間には不可能な、模造品だけの能力だろう。
周辺のマナを吸収しながら、眼を閉じ、意識をそこに集中する。
吸収したマナが、眼の周辺の魔導回路に集まり、規定値を超える。
遮断されていた眼の紋様への魔導回路が開放され、マナが殺到する。
そして、そのマナを得た宝石の瞳の紋様――紅玉紋が起動、活性化する。
紅玉紋の廃熱放射のために、銀の髪がみるみるうちに伸びていく。
10秒もしないうちに髪は伸び、眼は深紅に輝き始める。これが、フォルムチェンジだ。
模造品は、基本的に同時に2つの属性のマナを扱えない…だが、自身が扱うマナの属性を切り替えることは出来る。
フォルムチェンジには様々な形態があるが、どれも「自身の扱うマナの属性を変える」点に変わりはない。
戦闘スタイルをガラリと変えることができるこれは、模造品にとっての武器でもあり弱点でもある。

この状態であれば、私は普段の闇属性から変化し火属性を扱う事が出来るようになる。
次の魔法陣はレベル2魔法「イグニッション」。
周囲のマナを吸収変換。目の輝きから零れ落ちるように、赤い球が宙に浮く。
それをじっと見つめながら、魔法陣を思考。
まるで毛糸の玉から糸を引き出すように、赤い球は細く伸びていく。
あっという間に魔法陣が出来上がった。レベル2であることを加味しても、相当な展開速度といえるだろう。
魔法を発動する。魔法陣から4つのレーザーが放射状に飛び出し、壁の一点に収束する。
レーザーは小規模の爆発を起こして消えた。イグニッションは特に状態異常などはない魔法だから、これは成功だ。
2連続の成功に、口元が吊り上がる。フォルムチェンジ状態の副作用である高揚もあるだろうが、凄まじくうれしい。

さて、最後はレベル5魔法「カーディナルコスモス」。これはさすがに、今の状態でも発動は厳しい魔法だ。
でも、ここには本の他にも様々な資材、食料などが保存されている。その中には、マナを収納したマナリウムも大量に含まれている。
早速火属性のマナを収めたマナリウムを5つ用意する。
さて、マナリウムは破壊しなければ収納したマナを取りだせない。1個1個投げつけて破壊するのも面倒だ。
「フォース。」
フォースを発動してまとめて壁に叩きつける。石は全て粉々になり、マナはちゃんと発生した。

早速それを使って、カーディナルコスモスの魔法陣を編んでいく。
レベル5魔法の魔法陣ともなると、素早く編むのは至難の業だ。「破滅の翼」を展開すれば、編む速度は素早くなる。
が、それでは意味がないし、なによりここで展開すれば「破滅の翼」が周囲の構造物を、例え不燃物であろうと灰にまで焼き尽くしてしまう。
死んではいなくとも生き埋めはごめんだ。家もなくなってしまう。
そんなくだらないことを心の隅で考えているうちに、魔法陣は編み上がった。
さぁ、発動してみよう。正面の壁を、焼き尽くすつもりで        
細めのレーザーが4本、壁を直線に薙ぎ払う。
そして一瞬の後、凄まじい爆発が巻き起こった。

成功だ。レベル5魔法陣の改良は非常に大きな成果と言えるだろう。
実験が終了したなら、あとは実践あるのみ。

魔法決闘の授業が楽しみになってきた。

この記事を書いた人

僕の書くシナリオはギャグです。

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