「これが、私が選ぶ道」
私が魔法を扱えるようになって、程なくして『戦』が始まった。
轟音が空を裂き、また人々が死んでいく。私は、もちろん人々を助けようとした。
しかし、彼らはそれを許さなかった。
「魔法使いが介入するのは、あくまで魔法による事件だけだ」
それが、彼らの『掟』らしい。
私はきっぱりと言い放つ。
「それなら、私はここを出ていきます。私は人ではないからこそ、誰よりも人に優しくありたいのです」
……数瞬の後、その場に轟音がとどろいた。目の前の彼らが放ったものだ。
私は辛うじてそれを防ぎつつ、激高した。
冷静になれば、彼らの行動も当然と理解はできる。この力は隠しておかなければならないものだろう。
それでも。彼らを裏切ってでも。私にとって、彼とのあの誓いは重たいものだったのだ。
謝罪と怒りの念を込めて、彼らに紛い物の掌を向ける。……再び、爆音が響いた。
それから、私はできる限りの手を尽くした。
多くの爆弾を不発に終わらせ、軌道を逸らした。
私にとって幸いだったのは、魔法省も私の行為を取り締まる余力がなかったこと。
あくまで私の仕業だとは気づかれないように、力を使い続けた。
ただただ多くの人々を、護りたいと願った。
戦は終わった。どうやら、この国は敗れたらしい。
力を尽くしてもなお、多くの建物が焼け落ちた。それでも、人々は逞しく生き抜いている。
その姿を微笑ましく見守りながら、私も一つの夢を叶えた。東京の片隅に、一軒の小さな古書店を構えた。
本、つまり人々の思考の、想像の記録。私が人を知るために。私が、人といるために。
数多の本に囲まれて、私は少しずつ、『人』に近づこうとしていった。
「ここ、すっごく楽しい!!」
そんなある日。私の店に、一人の少女がやってきた。
今年連載が始まった、海賊が主人公の少年漫画をオススメしつつ、彼女の話を聞いてみる。
聞くところによると彼女は魔法使いを育てる学校の学長らしい。
……半信半疑で彼女に連れられて、魔法の門をくぐる。
そこに広がっていたのは……
『私』が『私』でいられる場所。
少女…『ドロシー・フロム・オズ』は、私をそんな世界に連れて行ってくれた。
魔導書、杖、紋章。様々な発動体で、私は魔法の腕を磨き、時には学園を守る戦いに身を投じた。
ただただ私と同じ生徒たちと、共に過ごした。
それから、およそ15年。
この学校から卒業と退学を繰り返し、入学と編入も繰り返した。
そして、何度目かの入学式。私は、『彼』にどこかよく似た少年に出会った。
今日から紋章魔導学科の先輩になる彼は、カース特別対策委員として私とペアを組んでくれた。
そして、私は。『彼』のときと同じように、彼に惹かれていったのだった。
それなのに。私は。私は……。正体を隠して、自分を偽って。
彼に、自分のことを伝えられなかった。彼に距離を置かれてしまうのが、怖かった。
そんな私の心の内をよそに、3年の月日が流れた。彼と共に学び、
彼と過ごす日々が、これからいつまでも続けばいいと思った。
しかし、彼との日々は、あるクリーチャーハントの失敗で、あっけなく終わってしまったのだった。
「ああ、やっぱり、私は……」
それから……少しずつ私は、私でも気づかないほど僅かずつ、歪んでいった。
いや、もしかしたらずっと昔から、狂い始めていたのかもしれない。
自覚のないままに、私の中に澱んだ何かが溜まっていって。
彼や彼と多くの冒険を繰り広げ、縁を紡いで、笑いあって、共に過ごして。
彼らに笑顔を向けるたび、自己嫌悪に、劣等感に、圧し潰されそうになっていった。
そして彼らと共に、『彼女』を救うために世界を敵に回し、世界を壊した時。
きっとこの時、私の中の何かがぷっつりと切れてしまっていた。
大好きだった彼と、人間として最期を迎えたかった。大好きな彼と、対等な人間として過ごしたかった。
最高の友達二人と、人間として巡り合いたかった。
私が私だったから出会えた人たち。それなのに、この届かない願いは捨てられなかった。
ああ、どこまで行っても、私は。魔法使いではあっても、『人間』にはなれないんだ……
第八魔導の研究も区切りがついて、休みをとったある日。久しぶりに私の城、古書店に帰ってきた。
取り立てて読みたい本もない、久しぶりに『記憶』を振り返ろうかしら。
満月の差し込む窓辺で、静かに『記録』のページを捲る。
私を愛してくれたあの人。私を相棒と呼んでくれた彼。私を信じて、一緒に戦い続けてくれた二人。私の前では、一人の少女でいてくれたあの子。
みんなみんな、輝いていた。
ぽたり、ぽたりと雫が羊皮紙を模した『私』を濡らしていく。
どうして、こんなに辛いの?どうして、こんなに悲しいの?どうして、
こんなに嫉ましいの?
もう一つ、ページを捲る。それは、ある戦いの記録。
夢か真実か曖昧な世界の中で、過ごした記憶。それを思い返した瞬間。
私は、濃く、深く、陰鬱なカースに包まれた。

