夢見桜と明告鳥(後編)

目次

時は流れて現在、魔導次元の朝告邸。

とたとたと、一人の少女が廊下を駆ける。時刻は夕暮れ、足音と共に短い呼吸が繰り返される。

あと一年で成人だというのに、それでも無邪気な好奇心は収まらない。夕陽色の瞳は、同じ色を視界いっぱいに入れて、輝きが増しているようにさえ見える。

腕には何度も破れた跡を直した、ぼろぼろの絵本を抱えている。表題なんかはもう薄れてしまって、何が書いてあったかは目を凝らさないとわからないほどになってしまった。

少女は……朝告彩音は、昔のように母親の寝室にノックもなしに飛び込むと、こう告げた。

「ただいま、お母さん!ハーベストから娘が帰ってきたよ!!」

部屋の主……彩音の母であり、絵本作家でもある朝告シエルは、ゆっくりとそちらを振り返ると、娘と瓜二つの顔を嬉しそうにほころばせる。

「おかえり、彩音。……と言っても、最後に帰ってきたのはGWだったから、そんなに久しぶりでもないかな?」

「そんなことはいいじゃん!!ほら、絵本の続き!!読んで!!」

彩音は腕の中の絵本を差し出し、シエルが受け取るが早いかベッドの中に潜り込んだ。

「もう……しょうがないなぁ。今日はちゃんと、最後まで聞いててね?」

シエルは呆れ混じりに笑い、絵本の読み聞かせを始めた。

「ゆめみるさくら」 あさつげ しえる

すずめは ずっと かんがえます。どうすれば、さくらのきに はなびを さかせられるのかと。

「ぼくにできるのが うそをつく ことではなく、まほうをつかう ことだったらなぁ。そうすれば、あのこの ねがいを かなえられた のに」

「できるよ」

すずめのみみに おんなのこのこえが きこえました。そちらを みれば、ももいろの おんなのこが いました。

「きみは?」

「わたしは ドロシー。とおりすがりの まほうつかい だよ。ねぇ、すずめくん。きみのおねがい、くわしく きかせて?」

すずめは ドロシーとなのる おんなのこに、これまでのことを はなします。おかしな さくらのきのこと、かのじょの ねがいのこと、そして、じぶんには そのねがいを かなえられないこと。

「なるほどね…… そうしたら、いいことを おしえてあげる。だいじょうぶ、うそじゃないから」

「……?」

くびをかしげる すずめに、ドロシーは こうはなします。

「えっとね。わたしが がくちょうをしている ハーベストってがっこうに こない?きみのような おしゃべりなすずめくん でも、だいかんげいだよ!たしか シエルちゃんっていう えほんをかくこが、おはなしに なやんでいるみたい だったから きみといっしょにおべんきょうすれば、きっとよろこぶはず!」

「にんげんの がっこう?でも、ぼくは すずめって いっているだけの からすだよ?にんげんは、からすを こわがっている。うそをつく からすなんて ますます こわがられるに きまっている」

「だいじょうぶだよ。シエルちゃんは やさしいし、それに きみのことを わるくいうこは わたしがおこってあげるから。こらー!って」

ドロシーは てにもったほうきで そらをとび、すずめとおなじ たかさまで やってきました。そして、すずめに じぶんのてを さしだしました。

「どうかな?」

すずめは すこしだけ かんがえて、そうして こたえました。

「そこまで いうのなら しんじてみるよ。ぼくを ハーベストへ つれていって」

ドロシーは うれしそうにわらい 「いいよ!さっそくいこう!!」といいました。

そうして、ふたりは そらをとび おしろのような ばしょへと やってきました。

そこには すこしゆめみがちだけど やさしいおんなのこが まっていました。

「きみが シエル?」

「うん。その…… よろしくね? すずくん」

「すず…… うん、よろしく ね」

そうして、すずと なづけられた からすと、にんげんの シエル は 「きょうめいしゅぎしゃ」に なりました。

ふたりは さくらのきの ねがいを かなえるために たくさん べんきょうを しました。

ときには ほかのがっこうへ いったりと、たくさん たくさん べんきょうを しました。

そのとちゅうで カメラをもった おんなのこに であいました。

「ふたりの いくすえを みとどけさせてほしい」

そういって、ふたりと いっしょに いるなかまが ふえました。

さんにんが ハーベストを そつぎょうする とき。さんにんは さくらのきに あいに いきました。

さくらのきは ひさしぶりにあった すずめと みなれないおきゃくさんに おどろきました。

「こんにちは……? あれ、いまはくらい から…… こんばんは かなぁ?」

「ずっとまたせて ごめんね。 きょうは、きみのねがいを かなえるから。これだけは うそじゃない、から……」

なきそうなこえの すずめを シエルはなだめます。「かっこいいところ みせないと、だよ?」

「……うん」

すずめと シエルは こえをあわせて じゅもんを となえます。 ふたりでまなんだ……いえ、 ふたりそろわないと かなえられない きせきのまほう。

「「この よいのはるに、どこよりも まばゆいきせきのはなを さかせたまえ……」」

「あさつげシエルと!」「すずの なのもとに!」

「「ゆめをみるものへ きぼうのはなをささげん!!リンク・バースト!!!」」

そのじゅもんが おわると、あたりに ドーン!という おおきなおとが ひびきました。

そして、はるのそらに きれいな はなびが さきました。

はなびは さくらのきのえだから さいている ように なんりんも なんりんもさきました。

「……これは、すごいきせきが みられたな」

カメラで しゃしんをすうまい とって、おんなのこは まんぞくげに うなずきました。

さくらのきは おんなのこにしゃしんをみせてもらい うれしそうに わらいました。

「ありがとう……ありがとう。ほんとうに はなびを さかせられるなんて!とっても うれしいわ!!」

シエルとすずも つられてわらい、あたりには たのしそうなこえが いつまでもひびいて いました。

おしまい

再び、朝告邸にて。

絵本のページを閉じるころには、辺りはすっかり暗くなっていた。

シエルが絵本から目線を上げると、彩音の目と目が合った。

どうやら、今日はしっかり最後まで聞いていたらしい。安堵の息を漏らし、「どうだった?」と尋ねる。

「うん……やっぱり、お母さんの声は落ち着くし、お話もとっても素敵だったよ。小さい頃は、私もハーベストに行ってすずめさんと魔法勉強するー!!って思ってたけど、こうして学んでみると……お母さんがすずくんと出会ったのは、すごい奇跡だったんだなぁって思うよ」

「ふふ……そっか」

「そういえば、カメラの子は?卒業してからは会ってないの?」

「うん。あの子、ずっと名前を名乗らなくて……でも、赤い目に白い十字架模様が特徴的だったから、私みたいに子供を産んでいたら、今頃子供はハーベストに通ってる歳だと思うけど……」

「赤い目に、白い十字…………?」

彩音はあれ?という顔をして考える。「確か、ハーベストで仲良くしている子の一人に、そんな特徴の子がいたような……?」

「あら、そうなの?もしかしたら、その子があのカメラの子の子供かもしれないわね」

「そうだといいけどなぁ……ふわぁ……」

「ふふ。ここまで走ってきたから、疲れちゃったのね。ゆっくりお休み」

「うん……おやすみ…………」

彩音は布団の中で丸くなり、小さな寝息を立てる。それを見計らったかのように、窓ガラスがコンコンとつつかれる。

 

「寝た?」

「えぇ、ぐっすり」

「よかった。まさか、そのすずくんがここにいるって知ったらしばらく解放されないと思ったから……というか、まだ僕たちの話を気に入っているんだね。なんなら、発動体にもしているし……」

シエルによって開かれた窓から、一羽のカラスが部屋に入ってくる。そのカラスは流暢に人の言葉を話し、呆れたような眼で彩音を見ている。

「それほどとっても素敵なお話だった、ということなんでしょうね」

「語られる側からしたら、恥ずかしいばかりだけど」

「本当は嬉しいくせに」

シエルがからかうように言うと、カラスはむ、と声を上げる。

「…………帰る。今度は二人でゆっくり話せるときに来るから」

そうして、また窓ガラスから飛んでいった。

「えぇ、またいつか」

シエルはそれを、引き留めることなく見送った。

この記事を書いた人

色んなネタを気まぐれに産んでは、形にするまで年単位で時間がかかる難産者です。
シナリオもちまちま書いてます。
全人類ハーベストをやろうぜ!をモットーに布教していく所存
ホームはぴくしぶに通じます

目次