月に呑まれて恋に酔う

 珍しく父から贈り物が届いた。丁寧に飾られた木箱を開けてみれば、日本酒の瓶と杯が入っている。随分と古風な包装ではあるものの、父らしいと言えばらしいか。強いて言うなら、杯が二つある辺りに少し驚いたぐらいだ。ありがたいことだが。
 そうして夜が訪れた。夜と深夜の境目とは言え、思ったよりとても静かだ。杯に酒を注げば、穏やかな水面が月明かりを映し出す。満月に近い、しかし同じではない。ゆっくりと一口。液体が喉に流れていく感覚が、いつもより強い気がする。
 そんな時に、電話が鳴る。親友からだ。―所属の都合上あまり表沙汰で言えたものでも無いが。電話に応じる。 
「よっ。元気か?」
初めは、そんな風に聞かれた。
「あぁ、元気さ。お誕生日おめでとう」
「そっちこそおめでとう。同じ誕生日ってのもなかなか珍しいよなー」
そうだな、と言いながら新たに酒を少し注ぐ。
「―あっという間の20年だった」
「そうだな。お互い魔法が使えるようになる、なんて思ってなかったし。こんなに様々な出来事に遭遇するなんて思わなかったなー」
そんな事をきっかけに、少し話をした。しかし、余り良く覚えてはいない。お互いの昔話なら、どこまでしてどこまでしてないかもう覚えていないくらいにはしたからだ。懐旧に浸った後、向こうからこちらに聞いてきた。
「もしかして酒飲んでるか?」
「あぁ、そうだけど。どうかしたか?」
向こう側から、やっぱそうかと返事が来た。
「なんかいつもと違う感じがしてさ。酔ってる感じがしたんだ」
「―酒に酔ってるかはどうかは知らないが、酔ってるのは昔からだ」
「……?」
思えば、普段の俺はこんな事を言わないだろう。本当に軽く酔っていたんだと思う。だからこそ、口が滑った。
「彼女と出会った頃から、とっくのとうに恋に酔ってるよ」
「惚気かよ。それ彼女に言ってやれよー?」
「言えるものか、気恥ずかしい」
だろうなぁ、と彼は返した。軽いため息の後、彼は続けた。
「話が変わるが、ちょっと残念だったな。満月、明日だってさ」
「いや、むしろ丁度いいだろう」
「というのは?」
「お前はともかく俺と同じ、『未熟』だからな」
静かな部屋に、電話越しの笑い声が満ちる。
「あっははは!なるほどな、それなら俺にもぴったりだ!これから先も、精進しないとな!」
「あぁ。それに、もう一つ」
「もう一つ?」
小さな水面に映る月を眺めながら、一つ彼に聞いた。
「年末の月も、俺達にぴったりだろう?」
そう言うと相手も合点がいったようで、そういうことか、という声が聞こえてきた。
「あぁ、そういうことだ。俺達が最後に見る月は―」

「満月を過ぎた月。最後に過ごす夜は、俺達にぴったりの十六夜だ」

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