「拝啓 お父様 お母様
お元気ですか?私は特に病に伏す事無く、幸せに生きています。今回はご報告があってこうして手紙をしたためております。
この度、私にとっての「王子様」を見つけることが出来ました。今は正式にお付き合いさせていただいております。今度、お父様とお母様にも一緒に挨拶に行きますね。ですので、政略結婚だとか、許嫁の件は却下させてください。私にはもう最高の人が、隣におりますので。
敬具 ソルティ・シュガーライン」
短い手紙をすらりと書き終えて、少女はすこし背伸びをした。定期的に報告がてら書くことはあっても、自分から手紙を書こうと思うことは少なかった様に思える。自分が真っ先に報告したいことはなかったからであろう。今回のこの出来事が、きっと初めてだ。告白した時の事をふと思いだして、少しばかり顔が赤くなる。そうだ、魔法まで使って自分の思いを伝えたのだったか。自分の高鳴る心臓を、溶けてしまいそうな高い体温を、全部、全部伝えて、そして―。
ぶんぶんと顔を振って、ぱんぱんと頰を叩く。今でも思い出す度に、ドキドキが止まらなくなってしまう。未だにその余韻も、告白した時の風景も、全部頭に貼り付いてしまって離れてはくれない。あの時の彼の手、暖かかったなぁ……そんな事を思いながら、手紙をポストに投函するために寮の部屋を出た。
とことこと歩いていると、緑髪の少女と出会う。彼女のことをよく知っている親友の一人だ。ぶんぶんと手を振って、彼女の元に駆け寄る。
「ジャンヌさん!こんにちは、なのです!」
「こんにちは、ソルティさん。―あら、その手紙は何でしょう?」
ジャンヌと呼ばれた少女は、彼女の持っていた手紙の封筒を指さす。
「お父様とお母様に、お伝えしたいことがあったのです。今までで一番、大事なお知らせなのですよ」
「そうですか。もしかして、もう許嫁が必要ないという事ですか?」
そう言われて、どきっとする。この親友には、何から何までお見通しのようで。
「……よく、分かりましたね。そんなに顔に出ているのです?」
「えぇ、出ていますよ。それに、貴方は恋を知っている。そんな表情をしています。貴方は常日頃から、『ずっと夢を見ていたい』と言っていたではありませんか」
ジャンヌは微笑み、続ける。
「シュガーライン家というのは貴族の一家。その家にとりつこうと、許嫁を取ったり、政略結婚を計ったりする人は必ずいる。『夢の終わる時間』がやってきてしまう。だから、こちらに来たのでしょう?」
「そう、なのです。『ハーベスト内で本当に一緒にいたい人が出来なかったら、政略結婚でも許嫁でも、親の指示に従う』という約束をしたのです」
それは必要なくなったのですけれどね、とシュガーは笑う。心の底から楽しそうに、幸せな今を享受するように。
「ただ待つだけじゃなくて、こっちに来て良かったのです。お陰で私の王子様を見つけることができたのですから」
「それは良かった。私も、貴方のその笑顔が眩しくなっていて嬉しいですよ、ソルティさん。今までより、とても輝いて見えます」
ジャンヌもつられて口角を上げる。彼女の笑顔には、多分人を元気にする何かがある。それが憂い無く輝く様は、見ていてとても楽しかった。
「さて、手紙を投函するのでしょう。その彼との話は、後でゆっくり聞かせてください」
「あ、そうでした!分かったのです、また後でお逢いするのですよ、ジャンヌさん!」
そういってソルティは駆けだし、ジャンヌは手を振って見送った。
願わくば彼女に、世界で一番幸せな「めでたしめでたし」があらんことを、なんて思いながら。
決められた結婚なんて嫌で。でも、だからってその人じゃ無ければ誰でも良い訳では無くって。ただ自分の目で、本当の相手を見つけたくてここに来た。
最初は彼を弟の様に見ていたのかも知れない。けれどどんどん話していく内に、彼が努力していく姿を見ていくうちに、惹かれていったんだと思う。黒き森の演習でピンチに陥っていたかの少年は、時が経ち自分を守ってくれるまでに成長した。それが、初恋のきっかけだったのだ。
ロマンチックな時間を終わらせたくなかった、砂糖のように甘い理想をずっと夢見ていたかった。それを一緒に叶えてくれる王子様を見つけることが出来て、彼女は本心から幸せだ。
―彼女の望んだ魔法の時間は、まだ終わらないのだから。

