魔法学園ハーベストには数多のサークルが存在する。学生会館のとある一室を借り上げている「魔法決闘クラブ」もそんな団体の一つだ。
活動内容は、週に何回か(といっても魔法決闘ジャンキーがいるため実際は毎日である)魔法決闘を行うものというシンプルなもの。必要以上の新歓は行わないものの、校内に貼ってあるポスターやちょっとしたクチコミから見学に来たり、はたまたクラブメンバーから直接勧誘を受けて見学に連れてこられたりなどして、毎年数人の新入生が新たにサークルに入るのだった。
時は四月。春らしい陽気とこの上ない青空。いかにもいい天気だというのに、放課後の魔法決闘クラブの部室(厳密には部室ではないが便宜上そう呼ぼう)には、深いため息をつく黒髪の少年と眉を顰めた白髪の少年がいた。彼らは対面で座っており、かたや額を押さえ、かたや口元で考え込む素振りをしている。また表情は曇っていて、何も知らない第三者が見ても深刻な事態であると認識できそうだった。
「なあ、本当に来てねえの? もう入学式から二週間も経ったんだぜ?」
白髪の少年こと、白金優生は彼の親友、そして魔法決闘での相棒にそう問いかけた。備え付けの机に頬杖をついたり、かと思うと同じく備え付けの椅子をギコギコ揺らしたりするその様は、ほんの少しの苛立ちと疑念を表しているようである。
「ああ、本当だよ……。いや、まさかと俺だって思ったさ。だけど実際、入サークル届けは一枚も提出されていない。見ろよ、これ」
黒髪の少年こと、黒羽光秀はそのように答えた。そして、手元のスマートフォンを操作して新歓に関するデータを白金に送った。転送されたデータのタイトルには「今年度の新歓について」、続けて今月の活動内容から見学人数まで、極めてこと細かく記載されている。白金はその文章に一通り目を通すと、呆れ返ったように黒羽の方に顔を向けた。
「あー……うん、とりあえず現状はわかった。たしかに希望者ゼロだわ。……ていうかさぁ、これ全部お前一人で書いたわけ? 相変わらず細けえというか、なんというか……。こんなに細かく書くんだったら、別に手分けしていいんだぜ? つーか、頼れよ、相棒」
「頼りたいのは山々なんだけど、さすがに優生の手まで借りることはできないよ。君、忙しいし。それに、こういう仕事も新サークル長の役目だろ?」
「それを言ったら俺は新副サー長だっつうの」
「ははっ、それもそうだ。悪かったって、相棒。……しっかし、どうするかな。今年は新歓にも本腰入れた方がいいのかな」
黒羽は軽く笑ってみせるが、またすぐに元の表情に戻る。そしてぐぐっと大きな伸びをしたかと思うと、再びスマートフォンを触り、改善案を入力し始める。二人の間にしばし沈黙が流れる。口火を切ったのは白金だった。
「……そこまで気負わなくてもいいんじゃねえ? 別に今の時点で新入生が一人も来なかったと言っても、大して対外的な影響はねえし、なんだったらお前みたいに途中でスカウトされて入ってくるかもしれねえだろ。だから……まあ、焦らなくても大丈夫だ」
「……そっかぁー……そうかぁ……うん、ありがとね、優生」
黒羽は少し笑うと、再びデータにほんの数刻だけ目を向ける。そして、スマートフォンをスリープモードにした。どうやら今日は白金と歓談することに決めたらしい。
「でも、一人くらいは入ってほしいなぁ……個人的には俺、忠信が先輩になったらどんな感じになるんだろうなって思うんだよね」
「あーまあな、タダノブだったら意外といい先輩になるかもしれないぜ? アイツ、ああ見えて変身魔導だし、ひよっこ魔法使いには丁寧に教えたり、なんてな!」
忠信、とは彼らの後輩である鬼灯忠信のことである。彼は現実世界でそれなりに名のある不良だったらしいが、ハーベストの学長、ドロシー・フロム・オズに魔導次元へ拉致られ……失礼、連れてこられて途中入学してきたのだった。そんな経歴から、今現在、魔法決闘クラブには彼の後輩はいない。閑話休題。
「あ、それ、彼っぽいね。……見たいね、その風景」
そんなことを言っている矢先、コンコンコンと小さなノック音が耳に入る。どうぞ、と黒羽が答えるとガチャリと部室の扉が開く。
「あっ、あの! 魔法決闘クラブっていうサークルは、ここですか……?」
最後の語気は尻すぼみになりながらも、たった今入室してきた少年はそのように尋ねた。「これ、もしかしたら新入生なんじゃね?」とでも思ったのか、白金の顔がパッと明るくなる。
「お、そうだよ。ここが魔法決闘クラブの……まあ、一応部室ってやつ。俺は副サー長の白金優生、んで隣のコイツがサー長の……」
「黒羽光秀。君は新入生かい?」
「は、はいっ! 彩日向っていいます! 僕……その、ここに入部したいんです。強くなって、ちゃんと皆を守りたいんです!」
彩がそういうと、黒羽と白金は顔を見合わす。そして黒羽は口角を上げて、白金は満面の笑みを浮かべて後輩に向き合う。
「改めて、魔法決闘クラブへようこそ。歓迎するよ!」
「入部したいって意思があるなら充分だ。歓迎するぜ、後輩!」
時は四月。今年度も魔法決闘クラブには新入生が入ったらしい。校内に貼られているポスターは今も役目を果たすために未だ外される気配はない。
「魔法決闘クラブ」
こんにちは! 魔法決闘クラブでは、毎日放課後に集まって魔法決闘をしています!
◎こんな人にオススメ!
・魔法決闘で強くなりたい方
・実践練習を積み重ねたい方
・とにかく魔法決闘をやりたい方
魔法発動やマナコントロールに自信のない人でも大丈夫です!
一緒に強くなりましょう!
ご連絡は札四年黒羽光秀 080-XXXX-XXXXまで

