

これは、あるハーベスト生のキャラシである。
あなたにはこのキャラシの異常さがわかるだろうか。
おそらく一見しただけでは、ごくありふれたキャラシに見えるだろう。
しかし、注意深くすみずみまで見ると、キャラシ中のそこかしこに、奇妙な違和感が存在することに気づく。
その違和感が重なり、やがて一つの事実に結び付く。
それはあまりに恐ろしく、決して信じたくない事実である。
第一章『知人からの相談』
先日、知人のクルイさんからとある相談を受けた。
彼は近々セッションをする予定があるらしく、それを機に新たなキャラシを作る決心をしたそうだ。
ホームページを見て回り、データ厨に指示を受け、彼はいいキャラシを作成した。
追加経験点20点のフルサプリ環境という、世界の果てにふさわしい構築である。学部生ではあるものの、生半可な院生程度なら吹き飛ばせるほどだった。
ただ一つ、キャラシに不可解な点があった。
エストラジオールとヴァンデロールの間に、謎の特技があるのだ。
オブジェクト:シャドウを作るバレンシアは、シャドウの扱いの難しさから、特化型でない限りは握る意味がなく、何のための特技なのか考えても、よくわからないと言う。
回す上で不都合はないけれど、なんとなく気味が悪いので、このキャラシで卓に臨むか相談しようと思ったらしい。
偶然にも私の知り合いに、人間ぶっ殺しシート研究委員をやっているクルイという人がいるので、その人に相談してみることにした。
事情を話したところ、一度キャラシを見てみたいとのことで、キャラシのコピーを送り、5分後、ディスコで通話する約束をした。
もしもし、クルイです。
──どうも。クルイです。
クルイさん、どうも。
──例のキャラシを拝見しまして、どうですか? 今、時間大丈夫ですか?
あ、はい。大丈夫です。


第二章『クルイの推理』
単独で握っても無意味な謎の特技があるとのことなんですけど、これって何だと思いますか?
──うーん。一概には言えないですが、一つ言えるのは、これが意図的に採られた特技だということですね。
意図的に……ですか?
──はい。魔法欄を見てください。フュージョンマジックでネメシスと反時計が入っています。最上級のフュージョンマジックを2つ、魔法枠を6つも潰して入れているということは、動きの中でこれらが必要だったというわけです。
なるほど……では、バレンシアには何の意味があるんですかね。
──ネメシスについては動きの安定化の側面が大きいですが、反時計については純粋に手番の増加でしょう。となると、増やした手番でシャドウを動かす目的があるのだと思います。発動体効果で準備タイミングが2回あるということは、シャドウはこのPCの一手番で2回動けますから、上振れれば打点としての役割は期待できます。
あー、確かに。
──だけど途中でシャドウにはネメシスのグステが乗らないことに気づいたか、もしくはシャドウ手番でヴァンデ連打した方が強いことに気づいたかで、構成が歪んだんじゃないでしょうか。修正しようにも、バレンシア分の8点をどこに回すかが思い浮かばず、お遊びで入れたままにしたとか、そんなとこだと思いますよ。
なるほど……じゃあ、怖い話みたいなことではないんですね。
──そうですね。ただ……
え⁉
──このキャラシって火力ですよね?
えーっと、火力だと思います。それが何か?
──いや、最初にこのキャラシを見たときに……「ずいぶん変なキャラシだな」って思ったんですよね。
そうですか? バレンシア以外、特に気にならなかったんですけど。
──私が変だと思ったのは……レベル5魔法なんです。
レベル5魔法?
──レベル5魔法を見てください。何かこう……違和感を覚えませんか?
えー、うーん……あれ? リアクション魔法になってる。
──そうです。火力役の持つ魔法じゃないんです。ハーベストは基本的に火力と盾は分担するもので、火力役がレベル5のリアクション魔法なんてまず撃てません。火属性持ちなら最大火力の一角であるカディコも持てます。それなのになんでガネコを積んだのでしょうか?
確かに変ですね……
──魔法変更に点数を使っている以上は、全ての魔法枠をアクションで埋めることができたはずです。もしくは、先程言ったバレンシアで浮かせた8点があれば両刀型にすることだってできたでしょう。
じゃあこのキャラシは、やりたいことがとっ散らかって迷走した結果、全部が半端に終わっちゃったってことですか?
──今までの話を総合するとそうなってしまいますね。まあ……キャラシだけではなんとも言えませんが、私がGMだったら止めてますね。
そうですか……ありがとうございます、お忙しい中。
──いえいえ、じゃあまた何かあったら。
はい。じゃあ失礼します。
バレンシア……ガネコ……これホントに半端に終わったキャラシの名残なのかな……?
……アレ?
第三章『謎の特技』
──はい。クルイです。
たびたびすいません。クルイです。
──あ、クルイさん。どうかしました?
あの……さっきのキャラシのことなんですが、どうしてもガネコが気になってしまって。もしかしたら特技枠と関係があるんじゃないかと思って。キャラシをもう一度よく見たんですけど……特技枠に「なにか」ってあるじゃないですか。このキャラシの作成者が活かしたかったのはバレンシアじゃなくて、この「なにか」なんじゃないかって……
──ああ、たしかに……
それで……まあ、これは素人のばかげた考えだとは思うんですけど、もしかしてガネコって……発動タイミングを増やすためのものじゃないでしょうか?
──発動タイミング?
たとえばですよ。何らかの方法でこのキャラクターにリアクションを取らせます。そこでガネコを撃つことができれば、単純にアクション魔法の発動タイミングが発生します。ラピファなんかと違って使用できる魔法に制限もないので、その自由度の高さを利用して「なにか」を活用したかったんじゃないかと……思ったんですが……どうでしょうか……?
──うーん……まあ、面白い考えではあると思いますけど……
考えすぎですか……
──わざわざそこまでするかな……とは思いますね。
まあ、そうですよね。すみません。なんか突然思いついてしまったもので……今のは忘れてください。
──……バレンシア……いや、待てよ。もしそうだとするとこの発動体は……
え? どうかしました?
──いえ、今の話を聞いてちょっとね……ところでクルイさん。このキャラシは発動体が指輪ですよね。
はい。
──エストラジオールは一回切る。残った準備タイミングはヴァンデを起動する。だとするとバレンシアや「なにか」は一体いつ起動するんでしょうか。
うーん……時空転移で余った手番とか?
──まあ、そんなところでしょう。このキャラシでは手番を余らせることができたと考えられます。そこにさっきの発動タイミングの話を合わせると、一つの挙動が見えてくるんです。
挙動?
──まあ、それこそばかげた考えだと思うんですけど、私の妄想だと思って聞いてください。
第四章『妄想』
──必要なのは準備タイミング2回。起動させるのはバレンシア、そしてそれによって置いたシャドウの発動タイミング。シャドウが何かしらの魔法を撃てたら、PLはそのシャドウにこのキャラクターを殴らせる。
は⁉ え⁉ なんでそんな話に……?
──まあまあ、これはあくまで私の妄想ですから。生じるリアクションはネメシス下だとダイス9個、エストラジオール適用状態ならガネコの起動もそこまで難しくはない。ガネコ効果で生まれるアクションにおいては、反時計を撃つ。シャドウはリアクションできずにそのまま破壊される。すると反時計で得た手番にはシャドウはいなくなっており、準備タイミングがまた2回あるので初期盤面に戻っている。つまり無限ループが可能である。そういう仮説が成り立つんです。
……無限ループ……って……
──もしフルサプリ環境のハーベストで、無限の手番が欲しいならこういうことができるかもしれない。どうでしょう?
いや……どう? って言われても……
フルサプリ環境かつ追加経験点ありでのみ可能な構築。キャラシのほとんどを潰しての挙動。意味が分からない。
──ところでさっき、「なにか」を活かすために発動タイミングを増やしたかったっていう話が出ましたが、この挙動で増えるのは発動タイミングじゃなくて行動手番ですよね。とすると、正直ここに入れる特技は何でも構わないとは思いませんか?
まあ……
──ラミネアフロウで固定点を上げまくってもいいし、適当なところでシュランクフートで魔法を取得してもいい。同じ魔剣ならラップショットなんて変わり種もあります。この構築なら複数回行動が利点になる特技なら何でも使えるんです。
あの、仮に今までの話が全部本当だったとして……どうしてここまで面倒なことをする必要があるんでしょうか? シナリオをクリアするだけなら、ネメシスを起動して魔法を撃ちまくるだけでいいのでは……?
──そう、そこなんです。普通、ハーベストではネメシスなんか使えばその時点で勝ち確定です。反時計まで積んでるとなればなおさらです。逆に、それだけやってもまだできないことがあるとは誰も思わない。
できないことですか?
──そうです。仮に「なにか」がラミネアフロウだったとしましょう。火属性を指定すれば反時計を撃つだけで固定点が上昇します。しかし反時計手番では反時計をもう一度撃つことはできない。ただ、この構築で撃たれる反時計は反時計手番の準備タイミング中に生じたアクションフェイズで撃たれるもので、この制約には引っかからない。だから、これまでの反時計構築ではできなかった無限の打点上昇が見込めるんです。
無限の打点上昇ですか……
クルイさんとの通話を終え、私はしばらくぼんやりしていた。
彼の話が本当だったら……どうする?
GMに警告しておくか?
まさか。挙動がキモすぎる。
だいたい、フィニッシャーのネメシスと反時計を使ってのコンボなんて、やる意味がない。そこまで撃てるだけの基盤があれば、最終戦闘はとっくに終わっている。彼も言っていたが、ばかばかしい妄想だ。
もう考えるのはよそう。新しいシナリオでも書こうかと思ったその時、
DMが飛んできた。
第五章『終幕』
もしもし。
──どうも、クルイです!
あ、クルイさん! お久しぶりです。実は今さっきまで人間ぶっ殺しシート研究委員のクルイさんと話してたんですよ。それでね、ちょっと笑っちゃうんですけど、クルイさんが言うにはあのキャラシは……
──あー、実はそれについてちょっと……クルイさんに謝らなきゃいけないことがあって。あのキャラシ、結局使うのやめたんです。
え⁉ どうして⁉
──クルイさんもご存知だと思いますけど……あんなことがあったらねえ。
あんなこと?
あれ? 今朝のディスコ見てないですか。なんか、あのキャラシの提唱者のセッションが二日かかったらしくて。
……⁉
──それで人づてに聞いたんですが、戦闘処理に半日以上かかったとかなんとか。まあ、自分のキャラシには関係ないとは思いますけど、なんか面倒になるじゃないですか。それで今日、キャラシ書き換えたんです。で、クルイさんはなんておっしゃってたんですか?
え、と……ああ、いや……特になにも……
──そうですか。
あの、ところでちょっとお聞きしたいんですけど、そのセッションのGMって……卓の感想とか上げてますか?
──ああ、X(旧Twitter)を覗いたんですけどね、「挙動キモすぎ」しか言ってないんですよ。
そう……ですか。
──面倒かけちゃって本当すいません。じゃ、また今度同卓しましょう!
クルイさんはオフラインになった。
彼が使うのをやめた以上、もうあのキャラシは私になんの関係もない。
忘れよう。追及したってしかたない。
私はキャラシのコピーをゴミ箱にドロップした。
引用元
キャラシ
構築の解説

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