2023/04/01
・魔法大型アップデートに伴い魔法効果の修正を行いました。
魔法学園RPGハーベスト
シナリオ「心臓が消える瞬間まで」
推奨人数 3人
推定時間 6~7時間
推奨リベラルアーツ テレポート、ララバイ、フロート、ブリンガー、フォース、リペア
イメージソング doppel[ヒトリエ]
テロメア[HIGH BONE MUSCLE]
備考 本シナリオは、「初期作成+経験点20点」の環境を想定している。PC全員に経験点20点を配布する。ただし大学院への進学は行わないこと。余った経験点は消滅する。
今回予告
機械の町を少年少女は駆けていた。
息が切れ、心の臓が痛くなる。それでも彼らは足を動かす。
小さな願い、ただそれだけを叶えるために。
「この街は冷たい。
それでも、傍にいる君は暖かいと知っていたんだ。」
魔法学園RPGハーベスト「心臓が消える瞬間まで」
魔法の時間は、まだ終わらない。

シナリオハンドアウト
PC1 コネクション:ミザリー 推奨関係:救助/興味
君は魔法学園ハーベストの学生だ。
機械魔導学科の特別講義を受けるため、『魔導機械の町』ラウスを訪れている。
講義の自由時間、君が町中にある機械について調べていると、一体の魔導機械が君を導くかのようにどこかへ連れて行こうとする。
そうして連れられた先には、赤髪の少女が横たわっていた。
PC2 コネクション:アルク 推奨関係:援助/協力
君は魔法学園ハーベストの学生だ。
機械魔導学科の特別講義を受けるため、『魔導機械の町』ラウスを訪れている。
講義の自由時間、君は初めて訪れた町で見事に迷ってしまう。そこで魔法警察に道を尋ねようとしたのだが……。
その場所で君が目にしたのは、魔法警察に詰め寄る青髪の少年だった。
PC3 コネクション:チョウ・ユンエフ 推奨関係:自由
君は魔法学園ハーベストの学生だ。
機械魔導学科の特別講義を受けるため、『魔導機械の町』ラウスを訪れている。
講義の自由時間、君は色々な魔導機械を見てみたい気持ちを抑えられず、一足先に魔導機械製作所に足を運んでいた。
同じく製作所にいたチョウ先生の解説を聞いている最中に、一人の男が話しかけてくる。技術者だという彼は「君たちだけに」と言い、とある機械を見せてくれる。
それは開発中の魔素動力変換器だった。
NPC
ミザリー(16歳くらい)
赤髪の少女。路地裏で倒れているところをPC1に助けられる。明るい性格。嬉しいことがあったら無邪気にはしゃいでいるようなタイプ。

アルク(16歳くらい)
青髪の少年。魔法警察の派出所でPC2と出会う。そしてPC2は彼の頼みを引き受けることになる。
冷静な性格。嬉しいことがあっても素っ気ないタイプ。

チョウ・ユンエフ(35歳)
中国出身の優しいお兄さん的存在の講師。機械魔導学科の主任である。詳しくは公式サイトの「NPC一覧」を参照。
本文
シーン1 『家出』(マスターシーン)
夜空には下弦の月が見える。月の柔い光が魔導機械の町を照らす、そんな夜。町の一角ではちょっとした喧騒があった。
舞台はオフィスの一室だった。あるいは一つの工房だった。……いや、彼らにとっては死刑執行の前室に過ぎなかったのかもしれない。第三者から見ればその空間はやはりオフィスであった。
しかし現在、その場は混沌としていた。ただのオフィスには似つかわしくない警報音が鳴り響き、数多の警備用魔導機械が縦横無尽に動き回る。
そのような隘路を縫うように一人の少年と一人の少女は走っていた。不揃いの呼吸と耳障りな機械音だけが二人には聞こえていた。
「上手くいったね、兄弟! とりあえず第一関門突破、ってね」
少女の方は弾んだ声で少年に話しかける。
「まだ最初の障害を突破しただけだ。油断はできない」
少年は硬い口調でそれに返す。
「わかってるよ! だって、嬉しいんだ。兄弟と一緒に生きれるって、その可能性が見えただけでも」
「……可能性のままで終わらせたりするものか。二人で生きる、それを確実な未来にするんだ……そうだろ? 兄弟」
「もっちろん!」
「だったら無駄口を叩くのはここらで止めにするんだ。もう警報が鳴り始めてから時間が経ってるし、さっき以上に警備は活発になっている。少しでも気を緩めたらその瞬間に捕まるだろう……兄弟、確認しておくがこの後の行動はわかってるな?」
「入口まで二人で逃げて、その後は別行動。何日かして事態が落ち着いたらお互いを探しに行く、だよね?」
「ああ、そうだ。……僕らの自由を掴むためだ」
……やがて警報音は鳴りやんだ。しかし、その場に彼らはすでにいなかった。
シーン2 オープニング(PC全員)
とある週末、PCたちは機械魔導学科の特別講義「暮らしに関わる魔導機械」を受けるために駐車場にいた。担当講師は機械魔導学科主任のチョウ・ユンエフ。講義自体はそれなりにためになるし、特別講義の中では比較的楽だと受講者からは好評だが、講義は一泊二日で行われる上、開講曜日も土曜日曜であることから、毎回参加人数はそれほど多くない。今回の受講者もPCたちを除くと十人ほどしかいなかった。
集合時間になると、チョウ先生が手を叩いて全員の注目を集める。
「皆さん、今日は集まってくださりありがとうございます」
「早速ですが、目的地に向かうのでバスに乗ってください」
PCたちがバスに乗り込むとバスは発車する。発車するといっても、このバスは魔法で効率化がなされているため、現実世界のバスのように地上を走るなんて動きはしない。チョウ先生がエンジンにマナを込めると、バスは宙に浮きあがりそのまま一直線に進み始めた。
「改めて、おはようございます。今日から二日間、この講義を担当するチョウ・ユンエフです」
「今回は俗に『魔導機械の町』と呼ばれることも多い、ラウスという町に行き、そこで生活に深く関わっている魔導機械に直に触れていただこうと思います」
「本日の予定としましては、午前は町中を歩きながら生活に密接する魔導機械を見て回ります。午後はラウス一の規模を誇る魔導機械製作所、アリオスに向かいます。本日は最新魔導機械の完成披露宴があるとのことなので、先方のご厚意で私たちも参加できるようにしていただきました。ですので、午後は完成披露宴を見学し、その後最新魔導機械の製作者に直接話を伺います。最後には質疑応答の時間も設けます。最前線で活躍する技術者に直接話を聞く機会は滅多にありませんので、ぜひ皆さん質問してはいかがでしょうか。二日目の予定はまた当日に改めて話しましょう。今すぐ明日の予定を確認したい人は、事前に配布したしおりに日程が記載してありますのでそちらで確認してください」
「せっかく二日間共に行動するのですし、皆さん順に自己紹介をしましょうか。まずはPC1くん(さん)からお願いします」
※ここでPCたちに自己紹介を促す。
「……はい、ありがとうございます。それでは目的地につくまで数時間ほどですが、バス移動を楽しんでくださいね」
シーン3 講義1:生活に密接する魔法と機械、機械と魔導機械の差異とは(PC全員) 講義シーン。
バスから降り立ったPCたちが目にしたのは、あちこちに大きな機械が点在している市街地だった。それらの機械は現実世界でいう蒸気機関と非常に酷似している。ただ、どの機関も複雑なマナの調律・調合がなされていることがわかる。
「何度来てもこの町並みには圧倒されますね。歴史あるものと近未来のものが見事に調和しています」
「……と、少々感慨にふけってしまいました。それでは講義を始めましょう。生徒の皆さんは私について来てください」
一行は石門をくぐり、『魔導機械の町』ラウスに入場する。石灰石で造られた建物と真鍮や鉄からなる魔導機械が共存している。チョウ先生は目につく魔導機械に逐一解説を加えながら、話を進める。
「魔導次元の生活は魔法による利便化によって成り立っています。皆さんの身近なものですと学園もそうですね。学園内の清掃から食堂で提供される料理まで、ありとあらゆるものに魔法は使われています。魔導次元生まれの方には信じられないかもしれませんが、現実世界で料理を作るときは何十分もかかるんですよ。魔導次元みたいにすぐに料理が完成する、なんてことはないんです」
「そこで、現実世界では機械を最大限に活用し利便化を図ります。現実世界において機械は魔法と同じ役割を担っているわけです」
「時にPC2くん(さん)、魔法を発動させるのに必要なものは何ですか?」
「そうですね、魔法の発動にはマナが必要です。私たちが魔法を自由に使えるのは魔導次元のマナが潤沢にあるからです。機械も同じです。充分なエネルギーがなければ動かない。……当たり前のことですが、忘れてはなりません」
「魔導機械はマナを動力源とすることで半永久的に稼動することが可能です。その点で普通の機械と決定的に異なるんですね。普通の機械は電力や火力で動きますが、そのエネルギー資源はやがて枯渇します。資源の有限性は現実世界でも環境問題の一つに取り上げられています。一方で、魔導機械の動力源であるマナは実質的に無尽蔵です。マナを動力源にすることで、少なくともそれ以外の自然エネルギーを用いるよりは環境に優しいと私は考えていますが……おっと、少し話がそれましたね」
「話をここ、ラウスに戻しましょう。ラウスの魔導機械は数世紀前に主流となったデザインが多く用いられていると話しましたが、なぜここではデザインの変遷が起きなかったのでしょうか? ちょっと皆さん考えてみてください」
「……考えられる理由の一つに、エネルギー効率の最適化にデザインを変える必要がなかったことが挙げられます。先程、『現実世界では有限であるエネルギーを機械の動力源にしている』と話しましたが、有限である以上動力源だけで最大効率はなし得ないのです。というのも、使えるエネルギーが限られているため、効率化を成し遂げるには動力源以外の部分で鋭意努力しなければならなかったわけですね。その結果、デザインなどの他の部分がどんどん先鋭化されたのです。その点、魔導機械で効率化を図るときは、まあ、一部例外はありますが、基本的に魔導プログラムのバージョンアップが第一に考えられます。従来のデザインのまま最新の魔導プログラムを導入した場合、時折試算以上にマナコストがかかることもあるのですけれど、何せ魔導次元のマナは半無限エネルギーですので、余程無計画でなければ不足分をそのまま追加でコストに組み込むことでこの問題は解決されます」
「……といっても、マナも過剰に使いすぎるとエネルギー不足やマナ枯渇に直結するので、結局根本のところは同じなのかもしれませんね」
チョウ先生はそこで言葉を切り、もう一度口を開こうとした。しかし、彼は喋るのを止めた。上空から大きな鐘の音がちょうど十一回鳴ったからだ。PCたちが空を見上げたならば、巨大な鐘塔が宙を飛んでいるのが見える。白く輝きを放つ鐘塔は大理石でできているようで、かなりの重さがありそうだが、それは重力を気にすることもなくラウス上空を旋回しているようだった。
「おや、知らない間にいい時間になっていたようですね。では、この辺りで午前の講義を終わりにしましょう。この後は再びバスに乗ってホテルに荷物を降ろしに向かいますので、皆さんバスに戻りましょう」
「……ああ、そうだ。せっかくですし、あの鐘塔についても話しておきましょう。あの鐘塔は町のシンボルとも言える魔導機械です。一時間ごとに現在時刻に応じた回数の鐘が鳴るんですよ。町民からはクロンゾと呼ばれて親しまれているようです。製作したのは魔導機械製作所アリオスさんですから、あの鐘塔について気になる方はこの後質問してもいいかもしれませんね」
※「クロンゾとはどういう意味か?」とPCに尋ねられたら「友愛と発展の意味があるようです。なんでも、市民からの公募で決まった名前らしいですよ?」とチョウ先生に答えさせましょう。
GMに直接尋ねられたら「友愛と発展の意味がある」とだけPCに伝えましょう。
一行は再びバスに乗り込み市街地を後にする。
ホテルに着き諸連絡を終えると、チョウ先生は大きな荷物を部屋に置いてくるよう述べた。
「荷物を部屋に置いたら自由時間にします。13時にもう一度ここ、フロントに集合してください」
シーン4 探し人(PC1) ミザリーと出会うシーン。アルクを一緒に探してほしいと彼女はPC1に頼んでくる。
君は町中にある身近な機械について、データにまとめている。ラウスには市街地から街はずれに至るまで、どこにでも魔導機械がある。メンテナンスの程度は様々であるが、ただ、どこにあろうと最低限稼動する程度には調整されているようである。君はラウスの中心地を見回り、それから路地裏の少し奥まったところの前を通り過ぎようとした。
しかし、そこには一体の二足歩行魔導機械がいた。この魔導機械はしきりに何か……いや、誰かを探すように辺りを見回している。PC1の姿を認識すると、その魔導機械はPC1の頭からつま先まで何度も視線を彷徨わせると、やがて何かを確認したように頷く。そして、PC1の手を引いて路地裏の奥に連れて行こうとする。
※PC1がしばらく様子を見ると、その二足歩行魔導機械は他の魔導機械を連れている住民には目もくれていないことがわかる。
※PC1が抵抗したり、無視しようとしたりしても二足歩行魔導機械はPC1の手を引くことを止めない。
魔導機械に手を引かれて路地裏の奥に進むと、そこには赤髪の女の子が倒れていた。一目見た感じ外傷はなさそうだ。
君が手を起こす、安否を確かめる、などの反応を取ると彼女は目を開け、ゆっくりと体を起こし君の方を見る。そして、案内してくれた魔導機械と同じように君の全身を目線で確認する。
一通り動作を終えた後、彼女は口を開く。
「……キミなら……うん、大丈夫そうだね」
「助けてくれてありがとう! 私は……私はミザリーっていうんだ」
「いやー、ちょーっと人探しをしてたんだけど……なんか急に襲われちゃって」
「兄弟を探しているんだ。私とそっくりな男の子。冷静で、頼りになる、誇れる私の兄弟!」
「ねえ、[PC1(名前)/キミ]。私の兄弟を探すの、手伝ってくれない?」
「なぜって……キミなら信用できると思ったから。それじゃダメ?」
「……あっ、そうだ! キミの邪魔はしないからさ! ついて行ってもいいかな?」
「私が探した場所にはいなかったしー……こういうときは別の人が行く場所に意外と兄弟いるかもしれないしさ」
「うん、決まりだね! よろしくね、PC1(名前)!」
シーン5 探しものを尋ねて(PC2) アルクと出会うシーン。ミザリーを見つけてほしいと彼はPC2に頼んでくる。
機械の町というのはひどく入り組んでいる。初めてここに訪れた君は見事に道に迷ってしまった。君は魔法警察に道を尋ねることにした。交番は比較的すぐに見つかり、いざ君が道を尋ねようとしたそのとき、君と警察の人の間に突然冷たい突風が吹き抜ける。
「兄弟は、いるか。僕と似た女の子だ」
青髪の少年は口調だけは切羽詰まったといった感じで、魔法警察に詰め寄っている。
「君と似た女の子かい? 目撃情報は……サッチ、あるかい?」
サッチと呼ばれた魔導機械は、しばらくいろいろなデータを参照したかと思うと首らしき部分を左右に振る。
「……そうか、目撃情報はないか……すまないが、私たちでは役に立てなさそうだ」
「なら君は僕の兄弟を見ていないか。……僕の、唯一の兄弟なんだ」
※この段階ではPC全員が「彼の兄弟」を見ていません。
「見ていないか……そうか。なら、探すのを手伝ってほしい、です。お願いします」
※PC2が戸惑ったり、迷ったりしている素ぶりを見せるなら、魔法警察に助言させましょう。「ここにはまだ情報が届いていないようだし……それに見た感じ、君はこの町の出身ではないだろう? 案外、初見さんの方が見つけやすいかもしれない。だから、手伝ってあげてくれないかな」
君が手伝うというと、彼は初めて表情を変える。
「ありがとう……ございます。僕はアルク」
「もし彼女を見かけたら連絡してほしい。すぐに確認しにいくので」
そう言うと、彼は魔導カエルを渡してくる。彼と同じ綺麗な青色をしている。
「僕の魔導カエルだ。こいつに『僕に繋げろ』と言うと、すぐに繋いでくれるから、頼んだ」
シーン6 不可解(PC1) ミザリーと交流するシーン。彼女は色々なものに興味を示す反面、妙に他の人間を怖がっている様子にPC1は気が付く。
ミザリーは魔導機械を調べている君の後をついてくる。
「……そういや私ばかり自分のことを話してるのは、なんか……つまんないな。キミのことも教えてよ! ね、キミってどこから来たの? 普段どんなことしてるの?」
「魔法学園ハーベスト……? 少し聞いたことがあるなぁ、たしか魔法について学べるんだっけ。いいなぁ、とても面白そう! 兄弟と一緒に行ってみたいな!」
「私よりも兄弟はずっと、ずーっと魔法の発動が上手なんだよ!」
「私、もっと世界を見たいの! いろんなものを見たいし知りたい! そのために兄弟と家出してきたんだよー!」
ある程度話終えると、君たちは大通りに出てくる。そこでは多くの人が行き交っており、あちらこちらで客引きが行われていた。そのうちの一つが君たちに話しかけてくる。
「あら、お嬢さん方。よろしければこちらの商品を見ていきませんか?」
声をかけられた瞬間、ミザリーの顔が強張ったのが君にはわかる。
「え、あ」
「PC1(名前)……私、あの……そこにいる人が怖いよ……」
彼女は小声でそのように伝えてくる。顔は少し青ざめているようにも見える。
君がうまいこと客引きを交わすとミザリーは「……あり、がとう」と伝えてくる。
「ごめんね、迷惑かけちゃって……。私、この町の人たちが怖くて。魔法で襲われたことを、思い出しちゃって……」
「この町の人たちは、みんな精霊を連れているから。だから、PC1(名前)は大丈夫って、わかったんだ」
「……ごめんね。……よし! 気を取り直して行こっか!」
そう言って彼女は申し訳なさそうに再び謝る。そして、ミザリーは空気を切り替えるかのように、いやに大きな声でそのように言った。
シーン7 マンツーマン授業:最新魔導機械の見学(PC3) チョウ先生と共に魔素動力変換機を見るシーン。
君ははやる気持ちを抑えられず、一足先に次の目的地である魔導機械製作所:アリオスに足を運んでいた。そこは巨大な要塞にも、近代的な建物にも見える建物だった。
アリオスは下のフロアから順に、受付・展示室・オフィス・製作所が位置している。一般人が入れるのは展示室までで、それより上のフロアは関係者以外立ち入り禁止となっているようだ。
※PCがオフィスや製作所に入ろうとすると、警備員や警備用魔導機械からやんわりと止められます。
PCが展示室を見るといった場合、以下の描写を加える。
展示室には、アリオスが作った魔導機械が数多く展示されている。君がそれらを見ていると後ろから呼びかけられる。
「おや、PC3くん(さん)。まだ集合時間前ですが……ああ! 予習ですか、いいですね」
チョウ先生だ。彼の手元にはこの製作所のパンフレットとこの講義のしおり、それからいくつもの資料があった。
「せっかくこの町に来たんですから、私もじっくり見ておこうと思いまして。毎年来ているのですけれど、来るたびに新しい魔導機械があってとても面白いんです」
「そうだ、PC3くん(さん)。もしキミの迷惑でなければ、しばらく一緒に見て回ってもいいでしょうか? 職業病ですかね、勉強熱心な生徒にはつい教えたくなるんです」
チョウ先生の解説を聞きながら、君は展示室を見て回る。そうしていると、「ユンエフ先生、お久しぶりです」と男性が声をかけてくる。
「ああ、ヴィックスさんお久しぶりです。PC3くん(さん)、こちらはアリオスの技術者、ヴィックス・シュタイナー Vix Steinerさん。……ヴィックスさん、[彼/彼女]は学生のPC3くん(さん)です」
「やあやあ、これはどうも。初めまして、僕はヴィックス・シュタイナー。ここの製作所で働いているしがない技術者だ」
「ハーベストの学生さんには見学を楽しんでいってほしいからね。……そうだ、よかったら、見せたいものがあるんです。今、鋭意製作中の魔導機械なんですけど……」
「それは本当ですか? ヴィックスさんがいいのでしたらぜひ見せていただけないでしょうか。PC3くん(さん)も見に行きませんか?」
君が見に行きたいという意思を伝えると、ヴィックスは君たちをオフィスの方へ案内する。
「これが、魔導機械製作所:アリオスが今一番力を入れて製作している魔導機械です」
それは他の魔導機械の様相と大きく異なるものであった。具体的に言えば、他のものが一昔前のデザインであるなら、今、目の前にあるそれはいかにも近未来的な、人一人が入れそうなくらいのデザインの機械製のカプセルだった。ヴィックスは補足するように続ける。
「魔素動力変換器です。文字通り、大気中にあるマナをエネルギーとして活用しやすくする機械です。アリオスの全技術をつぎ込んで製作しているんですよ」
「まさにアリオスの集大成! これが完成すれば、この『魔導機械の町』ラウスもさらなる発展が見込めるでしょう。……この子も活動しやすくなるはずさ」
彼は少し上着のポケットに目を向ける。すると、彼のポケットが微かに光る。
「おや、それは……もしかして精霊ですか? 珍しいですね、私も見るのは久しぶりです」
チョウ先生は驚いたようにそれを見る。
「PC3くん(さん)、精霊というものはご存じですか?」
※PC3が「知らない」と意思表示した場合、チョウ先生は以下のように精霊について簡単に説明してくれる。
「精霊というのは、そうですね……魔法によって生み出された物体……通称『魔法生成体』に霊属性のマナという人工魔素でできた魔導回路を通すことで、魔法生成体が意思を持つようになるのですが……その意思を精霊と呼ぶんです」
ヴィックスは驚いた様子の君たちを見ると口を開けて笑う。
「その反応は久々だなあ。何せ、ラウスは精霊と共存してきた町だ。ここでは誰しもが精霊を連れている。だから、この町では別段精霊がいるのは珍しいことではないんですよ」
「ここが『魔導機械の町』であるのも一因なのかもしれませんね。結局、魔導機械も精霊も、人が活用するために生み出されるものですから」
「……と、そろそろ休憩時間も終わりか。それじゃ、僕はこれで。今日の業務は午前で終わりなんだ。たしか、君たちは午後にもアリオスに来るんでしたね。お待ちしてますよ」
「ええ、もちろんです。貴重なものを見せていただきありがとうございました」
「そろそろ私たちも一旦戻りましょう。つい、話し込んでしまいました」
シーン8 兄弟はどこにいるの?(PC全員) ミザリーと他のPCが会話するシーン。アルクの居場所を知ると、彼女はすぐに走り去ってしまう。
自由時間も残り僅かになり、君たちはフロントに戻ってくる。PC1の隣には未だにミザリーがいる。
「ねえ、PC1(名前)。この人たちは……その、キミの仲間?」
ミザリーはおずおずとPC1に問いかける。君の返答や他のPCたちの様子から敵意がないのを見ると、彼女は明るく自己紹介をする。
「ならよかった! あのね、私はミザリー! 今、兄弟を探してるんだ! 私とそっくりな子なんだけど、知らない?」
PC2は彼女の姿がアルクとひどく似ていることに気づく。「アルク」という名前を発したり、彼についての情報を言ったならば、ミザリーは「ねえ!」と詰め寄る。
「兄弟に会ったの、ねえ、アルクはどこにいたの!? 早く合流しないと、兄弟が危ないの、なんとかしないと」
「……ごめんね、少し焦っちゃった。でも、早く見つけないといけないのは本当。PC2、兄弟がどこにいたか教えてくれないかな」
※PC2がアルクに連絡しようとすると、彼女は止めます。
「待って! ……実は、内緒で行って兄弟を驚かせたいんだよね。あの子、心配性だから。ちゃんと私一人でも大丈夫ってところ、見せたいんだ。だから、少し内緒にしてくれないかな」
PC2が交番の情報を伝えると、ミザリーの顔はパアッと明るくなる。
「ありがとうっ! じゃあ、私、兄弟を迎えに行ってくるね! 皆、本当にありがとう!」
そう言うとミザリーは先程倒れていたとは思えないほどのスピードで瞬く間に走り去ってしまった。
シーン9 講義2:魔導機械製作所、アリオスの見学(PC全員) アリオスに向かっている途中に追われているミザリーと再会するシーン。その後、中間戦闘。
自由時間が終わり、君たちは当初の予定通り魔導機械製作所へと向かっていた。
もうすぐで目的地に到着する、といったそのとき。突如製作所の方から何かが勢いよく燃え上がる音、そして少し遅れて「助けて!」と君たちが知っている声が聞こえる。
ミザリーだ。走ってきた彼女は全身に魔法を受けた痕があり、その様相はひどく憔悴している。
「兄弟を、兄弟を呼んでっ! 時間がないんだ!」
そう叫ぶと彼女はPC1の後ろに隠れる。PC2がアルクを魔導ガエルで呼び出すと、彼はものの数秒で現場に現れる。
「PC2……さん、兄弟が見つかったのか!?」
「ごめんね、兄弟、ちょっとしくっちゃったんだ」
「ミザリー! ああもう、だから僕は油断するなって言ったんだ!」
そう彼らが話していると、製作所から二人の男、それから付き従うように十数人の人間がやってくる。
「失礼、あなた方は魔法学園ハーベストの皆さんですね。我々はアリオスの者です。お待ちしておりましたよ」
「ですが……まず、それらをこちらに引き渡していただけないでしょうか」
「……そいつらの話に耳を傾けるな。あいつらは僕らの敵だ」
「煩いですね。創作物が製作者に歯向かうなんて前代未聞ですよ……黙りなさい」
「黙るのはお前だ。……頼む、PC2。僕らと共に、戦ってくれ」
「……私、からも。お願い、PC1」
「はぁ……なんですか、我々と戦おうというのですか? 仕方ありませんね」
「我々にもそれらが必要なのですよ」
そういうと、アリオスに所属する男たちは発動体を構える。
「生徒たちに危害を加えるというのでしたら、私も容赦はしません」
チョウ先生は学生たち全員を庇うように立つ。
「君たちの実力を信頼しています。……PC3くん(さん)、PC2くん(さん)、PC1くん(さん)、私が後ろの十数人を相手しますから、キミたちは中心の二人をお願いします!」
【中間戦闘 アリオスの技術者たち】
※プレイヤーが有料追加サプリメントを使う範囲に応じてエネミーデータを使い分けることを推奨する。理由としてはこのシナリオが作成されたのは2020年5月前後であり、当時の環境基準で初期データは組まれているためである。
攻撃役(上のリンクは無料~ニュー・ジェネレーション、下はクロス・ゾーン以降のデータを使用しているPC向け)
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1FFrwURx5cVa4FjZvRNE23omvRtG5UYPm8PljNssm8Tw/edit?usp=sharing
https://docs.google.com/spreadsheets/d/12_9tLtFZaxRdQcHTw4V353UGWVb2h_0YfTaFmRQNQ9g/edit?usp=sharing
防御役(上のリンクは無料~ニュー・ジェネレーション、下はクロス・ゾーン以降のデータを使用しているPC向け)
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1ptSoK5M3HvAEAr3kl8A94wP81n6TDSbjJxyWt__qYfA/edit?usp=sharing
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1b9kUOeWAXmNjfwRwFn6KaUZA2bGVzIj4uQuCKXYxUEk/edit?usp=sharing
戦闘終了後、男たちは不適に笑う。
「中々やりますね。だが、所詮我々には叶わないのですよ」
「手を緩めるあたりがまだ未熟です。――大魔法【デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)】」
そういうと彼らの発動体は徐々に元の形に戻っていく。そして完全に元に戻った発動体から、電撃でできた茨がアルク目掛けて絡みかかる。
「なっ……、こいつまだ力を……!」
「危ない、兄弟!」
咄嗟にミザリーがアルクを突き飛ばす。電撃の茨は勢いよくミザリーに巻きつき、その勢いのままアリオスの技術者たちの方に引き寄せられる。
「っ、兄弟は渡さない、よ……」
「……まだ、抵抗するのですか。機械なのによくもまあ足掻きますねぇ」
「一体いれば十分です。引き上げることにしましょう。core-ζ(コア・ゼータ)だけでも我々の目的は達成できます。では学生の皆さん、また会いましょう」
そういうと彼らはテレポートで製作所に戻っていく。
「皆さん、大丈夫ですか?」
チョウ先生はアリオスの技術者が全員引き上げていったのを確認すると全員の無事を確認する。
アルクは動転したように「兄弟、兄弟が……っ!」と言い続けている。
「すま、ない。ありがとう」
「皆、兄弟を……ミザリーを……助けて」
シーン10 情報収集(PC全員) 情報収集シーン。
情報1 ミザリーとアルク
彼らは精霊と模造品の中間のようなもので、新たに創られた魔素動力変換器のコア(プロトタイプ)である。元々不必要な意思は持ち合わせていなかったが、開発者の言葉から感情と欲求を学び、数日前に製作所から「家出」してきた。この情報を開示すると、情報4「開発責任者」が調査項目に追加される。
情報2 アリオスの技術者たち
彼らはアリオスの平社員である。現在は新しい魔導機械を製作している。それが魔素動力変換器である。この機械はほぼ完成しているが、肝心要のコアがないことで現在は開発停止している。
情報1と情報2を開示すると情報3「魔素動力変換器」が調査項目に追加される。
情報3 魔素動力変換器
『魔導機械の町』ラウスには長い歴史がある。それなりに人口も多く栄えているが、最近はエネルギー不足になることも多くしばしば町の動きがストップするときもある。今回の魔素動力変換器はエネルギー不足の打開策である。
情報4 開発責任者
魔素動力変換機の開発責任者はヴィックス・シュタイナー Vix Steinerという男性である。彼はラウスでも珍しい、錬金魔導にも精通している技術者であるため、基本的に大部分の作業を一人で行っていた。公式では彼がミザリーとアルクを管理しているため、二人が「家出」なんてできないはずなのだが……。それに、開発責任者である彼が一連の騒動に干渉しないことがどうにも気がかりだ。君たちはヴィックスに話を聞きに行くことができる。
シーン11 「しがない技術者」(PC全員)
君たちがヴィックスの元を訪れると彼は「やあ、ユンエフ先生にハーベストの学生さん。……おや、アルクも来たのかい。皆揃ってどうしたんだい?」と尋ねてくる。
一連の騒動について問われると、「ああ、その話か」と彼は全てわかっていたかのように答える。
「もちろん、全部わかってますよ。ただ、僕はもうこれに干渉できないんだけどね」
「文字通りさ。表向きは今でも開発責任者は僕になっているが、現在その権限は上から剥奪されている。なんだったら『コアの脱走を手助けした』なんて言われて自宅待機までさせられているしね」
「だから、今のヴィックス・シュタイナーはただのしがない技術者にすぎないんだよ」
「『家出』、か。その話をするんだったら、少し過去話が必要だ。……アルク、君たちが生まれた理由を明確にしないといけないからね」
シーン12 プロトタイプの制作譚(マスターシーン)
僕が「それ」を作れと言われたのは……そうだね、ざっと五年前だ。
あのとき、僕は直属の上司に呼び出されていた。
「……えっ? 魔素動力変換機、ですか?」
「ああ。近年、この町でエネルギー不足問題が起きているのは知っているだろう?」
「最近では『はやく打開策を打ち立てろ!』と町長のもとに大量の住民が押しかけてくる始末だ」
「そこで、先日町長から我々アリオスに、この問題の打開策として魔素動力変換機を開発するよう命が下された。なるべく、即急にとの言葉と共にな」
「我々の部門では魔素動力変換機のコア――今回は、文字通り『心臓部分』だ。それを作成することになった」
「文字通り、とは?」
「なんでも、今回のデザインは人型をモチーフにしているそうでな。一応、調整も兼ねてプロトタイプを二体作るようにと言われている」
「……話は、わかりました。ですが、僕を呼んだ理由がまだわかりません。今の内容を伝えるだけなら、べつに部門内のミーティングでもよかったはずです」
「ああ、そうだな。……今回呼んだのは、君を我々のチームの責任者に任命したいからだ」
「僕、が……? でも、どうして」
「……マナをエネルギーに変える、それも町一つを動かすエネルギーを賄うとなれば、当然、普遍的な技術では間に合わない。そこで、今回は『精霊現象』を主軸に製作することになったんだ」
「アリオスに、精霊による魔法の応用……および錬金魔導に精通しているのはヴィックス・シュタイナー、君しかいないんだ」
「頼まれてくれるか、ヴィックス」
「……はい、僕にできることでしたら」
シーン13 製作の苦悩(マスターシーン)
それからは試行錯誤の連続さ。何せ、町一つを動かす精霊の錬成だ。初めて取り組むことばかりで、なかなか思い通りにはいかなかったよ。
「シュタイナーさん、今回の試作もまた失敗です。二週間たった今日、精霊現象が完全に消失し、精霊の意思も確認できなくなりました」
僕の部下はたしかそんな感じで毎回報告してきてね。しょうがないとはいえ、少し申し訳ない気分だったよ。毎回毎回失敗の報告をさせてしまうんだからね。
「報告ありがとう。うーん……ダメか。前回浮上した『複数人で同じ魔法生成体を生み出すことで、それ自身の強度を高める』という仮説を検証してみたんだが……やはり普通に魔法生成体を保つことは難しいな」
「そうっすねぇ。ほんの一瞬だけなら爆発的なエネルギーも生み出せなくもない、という感じですけど……今作っている魔素動力変換機って、それこそ膨大なエネルギーを生み出し続けなくちゃならないんですもんね。何年も、何十年も」
「だね。僕たちが作っているのは、いわば公共施設だ。定期的なメンテナンスだけでずっと動き続ける、そんなものを作り出さなければならない」
「うへぇ……先が見えないですね……いや、もちろん、その通りなのはわかっているんですけど! ただ、なんていうか俺……というか『彼女』も少し疲れちゃっているみたいで」
『彼女』っていうのは彼の連れている精霊でね。彼女は火柱から生み出された精霊だったから、仮説の検証部隊に駆り出されていたんだ。ほら、僕の精霊は光から生み出した子だからさ。だから、僕自身は報告を待つしかできなかったって訳だ。
『本当よ! 私、力を使いすぎてボイコットしたいほどよ! まぁ、炎をもっと供給してくれるんならもう少しだけ頑張ってもいいわ』
「ホント、ごめんって! ……そういう感じなんで、その、ヴィックスさんに一つお願いなんですが……できれば彼女にマナをあげてほしいんです。俺は先程までの検証でしばらく発動体が使えないんで、どうか」
「これくらいなら僕も役立てるからね。お安い御用さ」
「すいませんヴィックスさん、ありがとうございます! ……ほら、帰るよ。じゃあ、俺はこれで」
彼らを見送ったあと、僕はため息をつくのが常だった。何度試作しても結果は失敗。皆の疲労も目に見えて増えてきていたからね。打開策を探して、試して、駄目だったときのダメージってそれなりに堪えるんだよ。解決策が一つ減ったとも言えるしね。
シーン14 解決「作」(PC全員)
ヴィックスはそこで大きく息を吐いた。
「もう少しだけ、話は続く。といっても、僕の過去話だから口を挟んでくれても構わない」
「僕たちが魔素動力変換機の製作を命じられてから二年が経った。僕はかつての学び舎、ハーベストをしばしば訪れていた。驚く話でもないけど、実は僕は君たちの先輩だったりする。魔導書魔導学科卒、錬金魔導研究科卒なんだよ。まぁ、余談だ」
「何のためにハーベストに来ていたかと言えば、ハーベストの図書館に用があったから。少し錬金について学び直そうと考えてね。僕は、一つ解決策を思いついた。模造品(ホムンクルス)――あれに近い存在であれば、上手くいくんじゃないかってね。当時の僕はせいぜい精霊を複数体使役するのが関の山だったから、もっと学び直す必要があった。模造品に近いものを錬成するなんてしたこともないし、それができる技量なんてものもなかったから」
「そんな感じで勉強し続けて、さらに二年の月日が経った。だから、ちょうど一年前だね。僕らは二体の模造品『のようなもの』を創り出した。のようなもの、といったのはそれらが人型をしていても寝食をしない、あくまで精霊であったからだ。それら……といっても君たちは知っているだろう、ミザリーとアルクだ」
シーン15 心臓の鼓動を止めることはできない(マスターシーン)
二人は最初、パチリと目を開いたかと思うと辺りをきょろきょろ見回した。彼らは自分たちが兄弟であることを認識したように見えた。そして、彼らは僕の方を見たかと思うと話しかけてきてね。
「ねえ、キミ誰? それから私は誰? 私の使命は?」
「僕はヴィックス。君はζ(ゼータ)。君の使命は僕たちの手伝いをすること」
「……じゃあ、僕は。ヴィックス、君は知っているのか」
「もちろん。君はε(エプシロン)。君の使命もζと同じ、僕たちの手伝いをすること」
「うん、わかった! じゃあその通りに私は動くよ」
「…………僕も」
そんな感じで僕らの初対面は終わった。ああ、そうそう、ζとεというのは、彼らの識別番号みたいなものだ。それぞれζはミザリー、εはアルクの識別番号だね。わかりにくいから、僕は二人に名前をつけた。それがミザリーとアルク。悪くない名前だろう?
……明確に意思を持ち、自立行動する人型の精霊を創り出すことに成功したのは初めてだったからすぐに急ピッチで作業が進められた。彼らの力が最大限に発揮できるように……あるいは最大限利用できるように最適化されていった。二人とも機械製作の『部品』として、他の開発チームの元へ行っていることもあったけれど、案外彼らにはそれ以外にやる仕事は少なかった。だから、僕の製作所付きの寮の部屋にいることが一番多かったんだ。
「ヴィックス、なんで私たちは外に出れないの? 外はもっと広い世界が広がっているんでしょ?」
「ミザリー、初めに会ったときも話したかもしれないけれど、君もアルクも僕たちの手伝いのために創り出されたんだ。だから、僕たちの手伝いが終わるまで、もうちょっとだけ我慢してくれるかな」
「ふーん……つまーんないのー。私、学校とかゲームセンターとか、あっ、あとあと遊園地とか南の島とか行ってみたいのに!」
「……おや、いろんな場所を知っているんだね」
あるとき、ミザリーが外に出たいと言い出したことがあってね。それだけならよかったんだけど、彼女は僕が教えていない場所についても知っていてね。アリオスは彼女を『部品』として創り出したんだから、必要以上に人間として扱うこともしなかったはずだ。だから当然、そんな情報を教えてくれる人間もいなかったはずなんだ。これに僕は一抹の不安を覚えた。
「もしこのまま彼女たちが人間らしい感情を、欲求を覚えていったら?
彼女たちは『部品』として機能しなくなるのではないか?」ってね。
だけど、それだけじゃなくてね。
「……ねえ、最近僕とミザリーは個別に行動させられることが多いけど。僕たちの『使命』は同じなはずなのに、どうして」
――アルク、君は物事をよく見れている。褒めるべき君の長所だ。ただ、僕には、アリオスには、都合が悪いことだっただけでね。
ヴィックスはアルクを見ながらそのように話を続ける。
彼らがこのまま過ごしていけば、いずれ自分たちの境遇を理解するだろう。そうしたら、彼らは模造品として生きていこうとするかもしれない。
それは遠くない未来のことだともなんとなく直感した。こういうときに理解できてしまうのだから、製作者ってのはよくない。でも、僕がもっとよくなかったのは……「別にそれでもいいか」とそう、思ってしまったことだ。本当に技術者失格だ。でも、創り出した(うみだした)子の幸せを願うのが、製作者(おや)ってものだろう?
……だから、ミザリーとアルクが製作所から逃げ出したとき、僕はわざと見逃した。はは、流石に君たちが逃げ出したら気づくよ。無事逃げられたようでよかった、とも思ったんだけどね。アリオスから、というよりは町長に大激怒されてね。僕は責任だけを負わされたまま平の技術者に格下げされたってわけだ。それが僕とミザリー、アルクに関する全ての話。
一通り話終えると、彼はPCたちの方を向く。
「聞いてくれてありがとう」
「ミザリーなら、たぶん魔素動力変換機の設置場所に連れていかれたと思う」
「なんでも、完成セレモニー……というか、稼動を祝してらしいけどね、そういったものが行われるんだってさ。町長をはじめとするこの町の重鎮が皆参加する、ね」
「町の問題が解決するっていうんだから、そりゃ歓喜もするだろう。でもね、アルク。君はミザリーにまだちゃんとお別れをしていないだろう。今なら、もしかしたら間に合うはずだ。core-ζが起動するまでには数時間の猶予があるはずだから」
「だったら行くといい。設置場所……町のシンボルである鐘塔『クロンゾ』に」
シーン16 終わりへの音はすぐ傍に(PC2) アルクと会話するシーン。
ヴィックスの元を後にすると、アルクがPC2に話しかけてくる。
「PC2(名前)、ごめんな。僕たちの問題に巻き込んでしまって」
「……本当は、わかってるんだ。結局、僕たちは『そういう』存在なんだって。僕は兄弟みたいに、盲目に未来を描けた訳じゃない。ヴィックスはああ言っていたけど……多分、もう兄弟はコアとして機能し始めているだろう」
最後の方は途切れ途切れになりながら、彼はそのように話した。
「僕は、僕たちは共に生きたかっただけだった。造られた身にそんな願いは不相応か?…………なんてね」
「僕らは不完全な存在であることには違いない。二人して逃げるにも、従順に命に従うにも中途半端だった」
「全て理解したうえでPC2(名前)に頼みたい。兄弟に……ミザリーに、ちゃんとお別れを言いたいんだ。だから……手伝ってほしい」
「そうすることが、まだ心に火が灯っている僕が最後まで暖かかった彼女にできる最善だ」
シーン17 クルドサック(PC全員)
一度だけ、チョウ先生の力を借りることで、クルドサックを成功させることができる。
1.人混みを避けて鐘塔に向かう
『魔導機械の町』ラウスは今やお祭り状態だ。待望していた魔素動力変換機が完成するのだから当然だ。しかし、君たちはその合間を縫って鐘塔『クロンゾ』に向かわなければならない。
推奨リベラルアーツ:テレポート、ララバイ他
ペナルティ:2点のTP減少
2.鐘塔『クロンゾ』に乗り込む
鐘塔『クロンゾ』は空中に浮かんでいる。現在は完成セレモニーが行われているため、ある一点で留まっているらしいが、地に接していないことには変わりない。何とかして塔に乗り込まなければ。
推奨リベラルアーツ:テレポート、フロート
ペナルティバッドステータス:衰弱レベル2
3.警備を突破する
塔の内部ではセレモニーを警備する警備員が複数存在していた。
「お前たち、何者だ! ここに何をしに来た!」
そんなものに答えている時間はない、見つかったのなら強行突破だ。
推奨リベラルアーツ:ブリンガー、フォース他
ペナルティ:10点のダメージ
4.使われていないエレベーターを修理して最上階へ
鐘塔は非常に巨大で、最上階まで行くには高速エレベーターを使わなければならない。その大きさは、フロートやテレポートで最上階に辿り着くのは困難であると一目でわかるくらいだ。幸い、警備されていない場所に使われていないエレベーターがあった。少し調子が悪いようだが、一部の基盤を直せば無事に動くだろう。
推奨リベラルアーツ:リペア
ペナルティ:バッドステータス:沈黙レベル1
※クルドサック4は、機械魔導学科に在籍したことがある学生、あるいは機械魔導学科の特技を持つ学生ならば、必要であれば魔法判定を二回まで試みてもよい。
シーン18 409 Conflict(PC全員)
君たちが最上階に辿り着くとそこは騒然としていた。床にはなぎ倒された様子の机や椅子が散乱しており、一目でこの場で異常事態が起こっていることが見てとれた。そして壁の側面には何かに恐れる様子の人々が『それ』から距離をとるように後ずさっており、中央には魔素動力変換機とミザリー……いや、core-ζがそこにあった。
「これは一体、何が……」
チョウ先生がそう零すと、それに気づいたのか壮年の男性が声をかけてくる。
「君たちは魔法学園ハーベストの学生か? 私はラウスの町長だ。いや、今は名乗っている場合でもないな……無理を承知で頼む、あれを止めてくれ!」
そう言って町長はcore-ζを指さす。
「落ち着いてください、ここで何があったんですか?」
「我々がここで魔素動力変換機のセレモニーを行っていたとき、突然変換機のコアが暴走し始めたのだ。起動させてから数十分は普通だったのに、突然……。精霊に見られる意思も確認できないし、もう我々の手には負えんのだ」
「意思が……!? っ、ミザリー!!」
そう叫んでアルクはわき目も振らずcore-ζの方へ駆けていく。
「ねえ、僕はまだ、君にサヨナラもありがとうすらも言えてないんだ、兄弟!」
「だから、まだ、行かないで」
core-ζは無表情のままアルクを見据えた。アルクはその場に立ち尽くしている。
core-ζの炎を纏った右手がアルクの方に向けられる。そして、炎がアルクを包み込む。
――たしかに、包み込んだのだ。
「アルクくん、君はまだここで終わるような子ではないはずです! ……私の尊敬するドロシー学長であれば、絶対に君を助けるという選択肢を取ります」
「……だから、ここで私が救わない選択肢もありません! 来たれ、【デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)】! 悲劇は幕を降ろし、そしてここから喜劇が始まる!」
チョウ先生が声を張り上げると、放出された炎が瞬く間に大気中に掻き消える。アルクは自身を包み込む炎が消えたことに目を白黒させている。
「大丈夫ですか、アルクくん? ……おそらく彼女は並大抵の魔法使いでは太刀打ちできないでしょう。PC1くん(さん)、PC2くん(さん)、PC3くん(さん)、キミたちは私と一緒にcore-ζ(ミザリー)さんの暴走を止めるのを手伝ってください。他の皆さんは周囲の防御と一般人の避難誘導をお願いします!」
【最終戦闘 【陽を以って開く者】core-ζ(コア・ゼータ)】
シーン19 心臓が消える瞬間まで(PC全員)
戦闘終了後、core-ζの攻撃の手が止まる。
「ミザリー!」
「……ア、ルク? それに、みんなも……?」
「あぁ、そっか……私……。やっぱり、迷惑かけちゃったなぁ……」
「僕を助けてくれてありがとう、それと、二人で生きるって約束も、守れなくて」
「こう見えて、泣き虫なのは、変わらないね……兄弟、泣かないで」
「最後に君を守れて、私すっごくよかったって思ってるんだから……」
「……あまり、時間がないの。私が、私である時間が」
(この辺りで「テロメア」を流す)
「アルク。……これは永遠の別れじゃないの。私が、core-ζが消失して活動を停止するそのときまで、私たちはまた会える。だから私は、サヨナラじゃなくてまたねって言うの」
「PC1(名前)、PC2(名前)、PC3(名前)、それに先生も。兄弟のこと、よろしくね」
「ミザリー……ああ、わかった。それじゃ、また。また、会いにくるから」
※大魔法で救うことを試みてもいいが、ラウスの町の問題の解決などができなかったりする場合は大魔法の使用を認めない。大魔法を使用する際は理論立てること。これはPC達の独断で解決できる問題ではないのである。
シーン20 再出発(合同エンディング)
一部予定変更があったものの、概ねそれ以降の講義は無事終了した。
二日目のお昼、君たちは『魔導機械の町』ラウスを去ろうとしていた。
「それでは、少し予定とは異なってしまいましたが……これにて、今年度の特別講義『暮らしに関わる魔導機械』を終えたいと思います。では、ハーベストに戻りましょう」
「ああ、そういえば『君』も共に戻るのですから……改めて、自己紹介でもしましょうか?」
チョウ先生の提案に、目線を向けられた少年はこくりと頷く。
「改めて、皆さん。アルクといいます。今度、ハーベストに入学することになりました。所属する学科は機械魔導学科です」
あの後、アルクと彼の保護者としてヴィックス、それからチョウ先生で話し合いが行われ、最終的にアルクはハーベストに入学することになった。最終的に結論を後押ししたのは、ラウスで正式に運用が開始された魔素動力変換機を管理する職員が、ハーベストの卒業生から採用されると発表されたからだった。
「僕は生まれこそ精霊や模造品と呼ばれるものですが、自分の身体を含め、まだ魔導機械について学び始めたばかりです。何も知らない身ですが、その、よろしく、お願いします」
※大魔法使用などによって辻褄が合わなくなった場合は独自にエンディングを行うこと。
設定・追加情報
・ミザリー
名前はおおぐま座ζ(ゼータ)星、ミザールから。北斗七星を形成する恒星の一つでもある。おおぐま座の恒星、アルコル(アルコア)とは見かけの二重星であったり、連星(双子星)であったりするとされる。ちなみに、【陽を以って開く者】という二つ名は、『史記』などの「天官書」でこの星が「開陽」という名前だから。
性格はイメージソングの『doppel』から引用してきました。明るく純粋な子です。勢い任せで行動するのが玉に瑕。
ちなみにcore-ζとして活動するエンディングになった場合、彼女の意思はなくなる……というよりも休眠状態になるイメージ。
・アルク
名前はおおぐま座の80番星(4等星)、アルコル(アルコア)から。北斗七星を形作るミザールの脇にある。
性格はやっぱりイメージソングの『doppel』から引用してきました。対って感じの双子はいいよね。なお、一人ではなく二人作られた理由は予備も必要だったためです。スペアがない状態で失敗しても困りますからね。
・ヴィックス・シュタイナー
名前は天体望遠鏡、双眼鏡を取り扱う総合光学機器メーカー「ビクセン(Vixen)」と望遠鏡メーカー「シュタイナー」から。
会社とか町とか製作者とかいろいろな責任を抱え持っていた人。このシナリオ一番の苦労人。彼に文句を言っても何も解決しないのがこのシナリオです。
自分に求められたことは何とかやり遂げようとする人ですが、その反面、自分の手が届かない問題に関してはどこか諦めています。彼らの親ではありますが、直接救いの手は出せないのです。なぜなら彼は社会人であり、一会社員であるので。

最終戦闘時、core-ζの画像は微妙に変えてもいいかもしれません。なんかそっちのほうが異常事態って感じがしますし。


