シナリオ「魂魄強制停止(ソウル・シャットダウン)」

魔法学園RPGハーベスト

シナリオ「魂魄強制停止(ソウル・シャットダウン )」

推奨人数 3人

推定時間 6~7時間

推奨リベラルアーツ ステルス・アンロック・ララバイ・ミュート・テレポート・サーチ

今回予告

その首を締めるのは自らの罪の重さ

その足を進めるのは自らの情の深さ

奈落まではあと一段

わたしは墜ちるのでしょうか、昇るのでしょうか

魔法学園RPGハーベスト「ソウル・シャットダウン(魂魄強制停止)」

背中を押すのは誰でしょう

ハンドアウト

PC1 コネクション:マルコム・クロウ 推奨関係:教師/師匠 指定クラス:洗脳魔導養成班

君はアマリリスのメンバーであり、階級はフィンガーだ。

ナーブのマルコムを師として仰ぎ、常日頃から指導を受けている。それこそ学校の教師と生徒のように彼と過ごす中、君はトト・フロム・オズから指令を受け、未知の病によって生態が崩れているという黒き森のある一帯の調査任務を受ける。

PC2 コネクション:北里可南子 推奨関係:友人

君はアマリリスのメンバーであり、階級はナーブだ。

任務をきっかけにブラッドの北里可南子と仲良くなり、組織内でも頻繁に時間を共に過ごしていた。

その任務を機にある異常を発した君の経過観察のために側についた彼女だったが、ある日そんな彼女の様子がおかしいことに気付く。

PC3 コネクション:トト・フロム・オズ 推奨関係:恩人/尊敬

君はアマリリスのメンバーであり、階級はフィンガーだ。

現実世界出身だというが、その記憶がほとんどない。何かの大きなショックによって忘れてしまった可能性が高いという。右も左も分からない状態で迷い込んだ魔導次元において、君を救ったトトに恩義を感じる君に、とある指令が下される。

NPC

「マルコム・クロウ」

洗脳魔導養成班出身のナーブ、壮年の男性。穏やかな教師のような物言いが特徴的。かつては心理士であったという。

「北里可南子」

丁寧な口調の中に毅然さを感じさせる、日本人形のような佇まいの少女。口数は少ない分、聞き上手でもあるために仲のいい人物も多い。

シーン1「師との邂逅」 PC1

君がアマリリスに入ったばかりの頃。

君は指導を担当してくれるというナーブの元へ向かうように指示を受けていた。訪れるように言われたのはマルコム・クロウという人物のところ。

彼のいるのは温かみのある、木造のログハウス。アマリリスの拠点である廃墟街の少し外れに位置している。

「ああ、トト様から通達があった新人は君か」

「聞いているとは思うが、マルコム・クロウという。君の指導を担当することになったナーブだ。よろしく頼むよ」

「生憎と僕は後方支援みたいなところがあるからね。直接戦闘の師事は他に願うべきだろう」

挨拶の後、握手のために彼は手を差し出してくる。

握り返せば、彼の心根を表すような温かみが返ってきた。

シーン2「マルコムの指導」 PC1

PC1はマルコムの元へと通っている。

まさしく学校の授業のように繰り返される彼の指導は、端的でありながら非常に分かりやすいものであり、PC1も着実に知識を増やしていっていた。

「今日は──洗脳魔導の意義についてでも語ろうか」

「洗脳、という言葉からも読み取れるように、我々は他人の心に干渉する。それによる情報収集であったり、あるいはその操作が主となる班だ」

「裏方役、といえば聞こえはいいが、姑息の誹りも逃れられないだろうな。とはいえ重大な役割でもある。情報戦の優位はそのまま大勢の優位を決するからね」

「実戦においても動けることはある。脳内分泌物質の操作──それによるリミッターの解除、というものだね。火事場の馬鹿力、というやつだ」

「とことん裏方でしかないが、やはり必須の役でもある。特に我々アマリリスにおいて直接的な破壊を担う者たちは、埒外の力を扱う者ばかりだ。抑え込むにも、埒外の力を発揮させないとならない」

「結論からいえば後方支援、というのが洗脳魔導班の基本的な役割だ。もちろん、自分の内分泌腺を弄って自ら前線に立つ奴らもいるが、まあ例外と思ってもいい。君がどういった立場に立ちたいのかは……私には分からないがね」

「今日はここまでにしておこう。何か質問があったら、いつでも受け付けるからね」

こうして授業の日々を重ね、PC1は知識と共に、マルコムとの親交を深めていく。

シーン3「撤退戦」 PC2

PC2はこれといった任務も訓練もなかったが、緊急ということで指令を受ける。

指令は撤退戦の手伝いであり、クリーチャー討伐を仕事とする組織の破壊任務に向かっていた班が追手を振り切るために出動する必要がある。ナーブとしてチームを率いるのがPC2の仕事だった。

部下を率いて一緒に指示された箇所に急行すれば、任務に向かった面々が必死の様子で逃げているのが見える。

「増援か、助かった!」

「追手がかかるのは予想していたが、あいつら様子が妙だ! こちらの攻撃を気にした風もねえ……狂戦士っていうのか、とにかく被害も構わずに突っ込んできやがる!」

言葉の通り、マナプロテクトがあるとはいえ、魔法に怯む様子もなく追手の面々は駆けてくる。よく見れば目も虚ろで尋常な様子ではない。

とはいえダメージが皆無というわけではないようで、魔法を受けてその場に崩れ落ちる者もいる。しかし数の多さ故か、振り切ることができていない。

PC2を含む増援が加勢すると状況は好転し、どうにか振り切ることができる。

撤退した後、ブラッドによって治療を受ける他のメンバーと一緒にPC2も治療を受ける。担当してくれるのは黒髪の少女だった。

「そこまでひどい怪我じゃないみたいですね、それでも見た目から分からない傷があるかもしれませんから……」

「……? 変な症状がありますね、傷じゃないけど……ちゃんと検査がいるかもです。少し採血してもよろしいですか? 何か分かったら報告するので」

「あ、治療についてはもう終わりました。帰ってもらっても大丈夫ですよ」

少女が他のブラッドにも確認をとり、治療を受けている他のメンバーからもいくらか血をもらってどこかへ駆けていく。

シーン4「北里可南子」 PC2

緊急任務から数日、PC2の元へあの少女が訪ねてくる。

「あ、突然すみません。以前の検査について結果が出たので……」

「名乗ってなかったですね。ブラッドの北里可南子といいます」

「検査結果についてなんですが、内分泌腺……ホルモンとか、神経伝達物質とかですね、そういうのを出す場所への魔法での干渉が見られました」

「影響が出るほどではないですが……でも変なのは事実なので経過観察がいると判断しまして。それで私があなたの担当になりました」

「よろしくお願いしますね、PC2さん」

北里はにこりと笑って頭を下げる。

シーン5「逃避の果て」 PC3

PC3は逃げるように走っていた。

何故、は分からない。いっそ、記憶さえ朧気な中で駆けている。

駆け回りながら、気付けば全く知らない場所にいる。鬱蒼とした木々に囲まれたそこは、見慣れた光景などではない。一度として訪れたことのない場所だ。

さらに周囲から何か這いずるような音が聞こえたかと思うと、見たことのない怪物が寄ってくるのも見える。

襲われる、という寸前で「こっちへ!」という声がかけられ、手を引かれる。

それは紫髪にとんがり帽子を被った少女のものである。

やがて後ろから追いかけてくる怪物の声が、音が消えたところで彼女は足を止める。

「おかしい。彼らがこんなに暴れることなんてなかったのに……これは、ボクが見つけることができてよかったというべきか」

「君、ここの人間じゃないね? 現実世界から迷い込んできたのか。名前は言えるかい?」

「ふむ、それで他は覚えていない、と。記憶消去した直後の彼らの様子に似ているものね……」

「ここは、魔導次元。君のいた世界とは別の、君たちの言う魔法が使える世界だ」

「……君さえよければ、なんだけども。ボク達のところに来る気はないかい? 行き先も帰るアテもないんだろう?」

「……そう。ならついてきて。案内するから──ああ、名乗っていなかったね。ボクはトト・フロム・オズ。アマリリスという組織の長をやっている」

PC3はトトに連れられてアマリリスの本拠地、廃墟街へとたどり着く。

シーン6「異常、微か」 全員

PC1は今日もマルコム・クロウの所を訪れ、授業を受けようとしていた。

マルコムが話し始めようとしたとき、ログハウスのドアがノックされる。

応じたマルコムが開けると、そこにはPC2を連れた北里可南子がいた。

「あ……お話があったならすみません。でも、今回はちょっと診てもらいたい方がいたので」

「PC2さんは初めてですよね。こちら、洗脳魔導養成班で指導役を務めていらっしゃるマルコム先生です。知識がすごい方なので、度々頼りにしています」

「診てもらいたいというのはこちらのPC2さんで……以前の任務の後から、内分泌系に変な干渉が見られるんです。魔法によるもの、だとは思うんですけど。同じ任務に向かった他の方にも同じ症状があるので、とりあえずサンプルケースとして私が担当しているPC2さんを診療してもらおうと思って」

説明を受けて、マルコムはPC1へと申し訳なさそうに、

「すまないね、今日はそういうわけだ──とはいえ、このまま残っていても構わないか。僕がどういったことを得意分野にしているのかを伝えられるからね」

そう言ってから聴診器のようなものを取り出したマルコムはPC2に座るよう促し、それをPC2の額に当てる。

しばらくして私物のパソコンを使って何事か操作したマルコムは、

「……脳下垂体からのホルモン分泌異常、具体的にはエンドルフィンやアドレナリンといった脳内麻薬の生成量超過に神経電位の極端な乱高下──生じてはいないがそうしたものの兆候はあるね」

「驚いたかな? 僕のかつての研究テーマは『心』を形成するこういった生体反応でね。人よりそういった事象には詳しいと自負しているし、魔法と組み合わせればこんな風に精神科医の真似事もできる」

「しかし通常の反応とも違うな、これは。まるで本来とは逆の──反応があって精神に影響するのではない。精神側から反応を誘発するような……」

ぶつぶつと呟いていたマルコムがふっと真顔になる。

突如として立ち上がり、

「北里くん、同じ兆候は他の任務参加メンバーでも同じような症状が見られたんだね?」

「え、ええ」

「……トト様への報告が必要かもしれないな。すまない、北里くんにPC2くん──PC1くんも状況の把握のためにいた方がいいか。訳の分からないままで置いていかれるのも嫌だろう。ついてきてほしい」

マルコムが先導する形で一行はトトの居室へと向かう。

するとトトは黒き森から帰ってきたばかりで、ちょうど部屋に入ろうとするタイミングだった。PC3も彼女に連れられて一緒にいる。

「おや、マルコムにカナコ……PC1にPC2も一緒か。何かあったかい?」

「──詳しくは、中で」

「……ふむ。PC3も一緒でいいかな? アマリリスの雰囲気に慣れるにもちょうどいいだろう」

全員で中に入り、マルコムが説明を始める。

「以前に、クリーチャー討伐を旨とする民間組織の破壊任務があったはずですね?」

「ああ。撤退戦にはPC2も参加していたはずだね」

「はい。そのPC2くん、及び同じ任務に参加していたメンバーに奇妙な現象が見られます。端的に言うなら、戦意の異様な高揚と痛覚の鈍化……そうなりかねない異様な体内物質の分泌です。俗ですが、バーサーカー化とでもいうべきか。PC2くんが任務で見た者たちもそうだったのだろう?」

「……君たちの班が得意とする洗脳魔導のようだが」

「我々の魔法と違うのは、働きかけの方法です。洗脳魔導でのリミッターの外し方はそうした内分泌のバランスを弄ることで身体や精神へ影響を与えますが、この異常は先に精神に影響が及んでいる……高揚や鈍化が先にあった上でそれに合わせるように内分泌が変化しています。まるであべこべだ」

「……素人意見であっても、おかしいと分かる話だね」

「ええ。明らかに異常です。そして、そういった精神から働きかける力に思い当たるものがあります」

「……カースか」

全てを聞き終えてからトトは難しそうな顔をする。

やがてPC3の方を見ながらぽつりと、

「PC3は現実世界から迷い込んできたばかりなんだけどね。来たばかりのときにクリーチャーに襲われそうになっていた。そのクリーチャーも様子がおかしくて……やけに好戦的で、収まる様子がなかった。異様な戦意、というべきか」

それだけ言ってまた考え込んだ様子のトトは、首を小さく振り、

「追って判断を出そう。今は不確定なことが多すぎるからね」

「分かりました。手伝えることがあったら、いくらでも」

「ああ──それと、できればPC3を案内してやってくれないかい? ボクはちょっと忙しくなりそうだからね」

「そうですね。では」

一礼して立ち上がったマルコムが、トトに聞いたり言っておきたいことはないか、といった顔で他の面々を見やる。

言うべきがなくなったら彼はもう一度礼をしてから部屋を出る。

「横で聞いていて事態は分かったかい? ……PC3くん、だったかな? 君は事情がよく分からないかもしれないが」

「カース、という、まあウイルスみたいなものがあってだね。それに罹ると精神に異常を来すことがある。今回の件もそれじゃないか、という話だ。とはいえ感染、発症すればすぐに判明する類のものであるから本当にそれかは分からない……一応、致死性のものであるから違っていたなら幸いなんだがね」

「仮にカースだった場合、進行するとトト様による対処する必要がある──記憶消去だ」

「……何、カースの発症がもうどうしようもなくなった場合の緊急措置だ。無情ではあるが──映画や小説で描かれるような忘却よりは、救いがある。優しさ、というか情が根底にある忘却だからだろうね」

最後にマルコムが寂しげに笑ってそう呟く。

その後、その面々でアマリリスの施設を回って時間は過ぎていく。

シーン7「パーソナルゼロ」 PC2

施設の案内を終えたあと、全員と別れてからも北里はPC2についてくる。

「……? いえ、経過観察って言ったじゃないですか。付きっきりで見ないと」

「お泊りセットもきちんと用意しましたから。心配は要らないですよ」

「マルコム先生はカースが、って仰ってましたが、PC2さんにはその予兆はないです。他に原因があるかもしれない以上、しっかりと見極めないと」

「よろしくお願いしますね、PC2さん!」

宣言通り、北里はPC2の住居までついてきてしまう。

この日から、PC2と北里の奇妙な同居生活が始まることとなる。

シーン8「調査任務」 PC1

マルコムの報告から数日、PC1はマルコムと一緒にトトに呼び出される。

「……やあ、来てくれてありがとう。君たち二人に任務を命じたくて、呼び出した」

「僕は構いませんが……」

ちらりとマルコムがPC1を見やる。

了承の旨を告げれば、トトが一つ頷く。

「二人が揃って動いてくれるならボクとしても安心できる。洗脳班の中でも名高い名コンビだからね」

「命じるのは黒き森の調査だ。前に言った、PC3が迷い込んできたあたり。何度か見に行ったけど、やっぱりあの辺りのクリーチャーの様子がおかしい。無秩序に暴れまわって、知性の高い個体もこちらの呼びかけに応じる様子がない。マルコムはバーサーカー、と形容したかな。まさしくそんな調子だ」

「マルコムの言っていたPC2のような異常とも関わりがあるかもしれない」

「無秩序に暴れまわるだけのあの状態じゃ、彼らの生態系が崩れてしまう。原因を突き止めて、解決しないと」

「そこのすぐ近くに廃屋が一つあってね、整備もさせたからそこを拠点にして調査を進めてもらいたい──長期の調査になるかもしれないが、頼んだよ」

任務を受け、PC1はマルコムと一緒に出立の準備をすることとなる。

「フィールドワークとは、大学にいた頃を思い出すな……」

「……ああ、言ったことがなかったね。僕は現実世界の出身でね、向こうでは一介の助手ではあったが、大学で研究員として勤めていた──そのときの専攻が心理学だよ」

「色々あったもので、挫折した後にここまで流れてきた……実を言うと、北里くんはそのときの教え子なんだが」

「……今の形が、正しいのかは、分からないんだが」

「ああ、戯言だ。気にしないでくれ──天気の崩れる前に、早く出立しよう」

シーン9「欠けた記憶」 PC3

PC3はトトに呼び出される。

「呼び出しに応じてくれてありがとう、PC3」

「アマリリスについて、これだけはボクの口から直接説明しておこうと思ってね……記憶消去についてだ。カースについては聞いたかい?」

「記憶消去についても話は受けていたのか。そうだね、カース感染が進むと、人格にも問題が出てくるし、何よりやがて死に至る。だが、クリーチャーと接する機会の多いボクたちはカースに感染するのは避け得ない。だから、投薬などでそれを抑えているんだが……それでもどうしようもないレベルまで感染が進んだ場合、ボクが感染者の記憶を消すことで対処する」

「君は、そんな彼らと同じ目をしてた……全部忘れた、空っぽな目を」

「現実世界で、つまりは魔法もなしに記憶が消えるなんて、よほどの強いショックでもないと……物理的なものであれ、精神的なものであれ、ね」

「君の過去に何があったか知る術はないけど……ここでの生活が満たされるものであることを祈るよ。何も覚えていないなんて、あまりに寂しいからね」

PC3を気遣うようにそういって、トトは話を締めくくる。

シーン10「驟雨、停止」 マスターシーン

音がある。

光がある。

雷雨の夜だった。耳をつんざく雷鳴も、降りしきる雨の冷たさも、気にはならない。

気にする余裕など、ない。

形などなくとも、眼前から喪われていくものを感じている。

雨雲が月を覆う暗夜に、心の大部分を占めていた大切が、永遠に世界から消えていく。

魂魄が命の機能を担うというなら、それはその機能が停止していく瞬間。

その最中に、焼き付く意思が、確かに一つあった。

シーン11「溺れる嘘に」 PC1

そこはトトの指示した黒き森近くの廃墟。たまたまなのか、マルコムの住居であるログハウスと雰囲気が似ている。

PC1はフィールドワークに出てからそこに帰ってきたところである。調査を始めてから一月ほど経っているが、クリーチャーはやはり様子がおかしく、他クリーチャーに必要のない攻撃行為を執拗に繰り返している。

中ではマルコムが待っていた。

「おかえり、お疲れ様。今日もクリーチャーは同じ調子かな?」

「やはり、か。原因が未だに不明というのも不気味だが……」

「調査は続けることにして、本日も指導といこうか。そうだな……『嘘』についてはどうだろう」

「情報戦において嘘は武器だ。誤情報を流すもよし、事実を秘匿するもよし。とはいえそれは情報戦においては、という前置きが要るがね──日常から嘘で本心を塗り固めた人間の信用など言わずもがなだろう?」

「嘘とは麻薬だ。比喩ではない。嘘をつく人間の脳内においては麻薬、脳内麻薬と呼ばれる類のそれが分泌されている。騙す、というのは人にとっては快感を覚えるものらしくてね」

「だからこそ情報戦を担う我々は、その麻薬を制する必要がある。必要十分で相手を騙せるよう、過分な嘘を言葉に持たせないように、ね」

「君が必要とする嘘の量を、見極めねばならないよ?」

諫言のように言い含めて、マルコムはその日の授業を終わらせた。

シーン12「欺く誰かに」 PC2

北里と共同生活が始まってからしばらく。

ある朝、PC2は起きてきた北里の顔が優れないことに気付く。

「おはようございます、PC2さん……」

「顔色が悪い、ですか? そうですね、どうにも夢見が悪かったというか……何を見たのか、いまいち覚えていないんですけど──母さんが、出てきた気がします」

「もう、亡くなっている──いえ、殺された、んですが」

「ずっと母さんと二人で、貧乏ながらどうにか暮らしていたんですけど……もう、当時のことは記憶がぼんやりしています。気づいたらマルコム先生と二人で、ここにいたような感じでした」

「……辛気臭い話ですみません。ひとまず、PC2さんはお変わりないようで何よりというか……」

「すいません、今日はお家でゆっくりさせてもらってもいいですか……?」

その日はPC2の訓練の日であり、いつもなら北里もついてくるのだが、その日に関しては彼女から静養を申し出てきた。

訓練を終えて帰ってくると、テーブルで北里が何事か考え込んでいるのが見えた。手元に何かしらの資料がおいてある。

「あ、PC2さん。おかえりなさい、お疲れ様です」

「これですか? ブラッドの同僚が報告してくれたものですね。あの変なことになっていたクリーチャー討伐組織のメンバー……彼らの診察結果ですね」

「マルコム先生も言っていたように脳内麻薬の分泌量が異常ですね……特にこれは嘘をついたときに顕著な種のものです。この辺りが突破口になればいいんですが……」

「……そう、嘘……」

焦点を失った目でぼんやりと呟く北里は、じっと何かを考えている。呼びかけても反応はない。

夜になって食事等の準備をしている間も、彼女はずっと何か考えている様子だった。

シーン13「欺かれていた誰かに」 PC3

PC3がアマリリスでの生活にも慣れ、廃墟街を歩いているときのこと。

PC3は足早に歩く北里を見かける。

「PC3さんですか? お久しぶり、というべきでしょうか」

「私ですか? ちょっと確かめたいことがあってマルコム先生の家に向かっています──不用心ですけど、鍵を掛けてませんからねあの方……」

「……PC3さんも過去の記憶がないと聞きました」

「仮にその記憶が封じられていた方がよかったものだとして……そう知ってもなお、貴方はそれを思い出したいと思いますか?」

「……そう、ですか」

「私、は……いいえ。仮定するだけ、無駄ですね……」

自分に言い聞かせるようにしながら北里は歩を進めていく。一人で受け止めるべきことだとして同行は断られる。

シーン14「失せた彼女に」 PC2

訓練からPC2が帰ると、北里の姿が家にない。

探しに出ようとしたタイミングでその家を女性が一人訪ねてくる。

「あれ、もう出ちゃったんですかね、カナコさん……」

「黒き森の方に行かないと、って仰っていたので、理由を聞いたらあなたの症状について、と。新規のデータもあったのでそれならそちらを先にお渡ししておこうと思ったんですが……」

向かった場所について詳しく聞くと、それはPC1とマルコムが調査に向かった領域だった。追いかけるように誘導しておくこと。

シーン15「無くしたものに」 PC3

PC3はトトに呼び出される。

彼女はいつもに比べて少し重苦しい感じだった。

「来てくれてありがとう、今日は……少し、聞いておきたいことがあったから」

「──失った記憶について、何か思い出したことはないかい?」

「……ボクが追いかけている、ある人物が現実世界にも手を出している可能性が出てきた。君の失った記憶も、そこに関わるかもしれなくて……酷かもしれないが、何か思い出せたなら報告してほしい」

そんなことを言っている間に構成員が一人駆け込んでくる。

「お話中すみません! トト様、カナコが黒き森に単独で向かったとの情報が──PC2もそれを追っていったらしく」

詳しく報告を受けて聞いてやや考え込んだ様子のトトではあったが、やがてPC3に命じる。

「君に向かってもらう。彼らが行った領域はちょうど君が最初に出てきた場所だ──なにかの、きっかけになればいいんだけど」

「そして──カナコについても、助けてほしい」

何かを察した風でもあるトトがそう頼み込んできた。

トトと連絡を取るための通信機を持たされ、PC3は出立することとなる。

シーン16「奪った命に」 全員

PC1は今日もフィールドワークを終え、拠点の廃墟へ帰ってきていた。

マルコムは今日はおらず、机に書き置きがある。

『調べごとができたので少し出てくる。数日は戻ってこれないかもしれない』

書き置きを確認していると玄関扉が開く音がする。

そこには北里可南子がいた。

「マルコム先生は……いないんですか?」

「そう、ですか。聞きたかったのに……誰が、──を殺したのか」

「あるいは、それを察してあの人は逃げたんでしょうか? それとも、あの人と親しい貴方が匿っているのではないですか?」

普段の淑女然とした様子も消え、取り憑かれたように彼女は問いかけてくる。

そこに彼女を追いかけてきたPC2,3が合流してくる。彼女はそれにも気づき、

「PC2さんじゃないですか。PC3さんまで! 聞いてください、やっと思い出せそうなんです」

「母さん、母さんを──誰が、殺したのか……!」

いっそ晴れやかに、そして何より狂気的に彼女は笑う。

それがふっと無表情に戻ったかと思うと、

「だから、それを知る邪魔をする人は──そうですよね、また、殺してでも──」

発動体を構える北里からは異様な敵意が、それこそPC1が調査していたクリーチャーと、PC2が見た異常な追跡者たちと同じ類のそれが溢れていた。

中間戦闘「北里可南子」

https://docs.google.com/spreadsheets/d/14ka2RriarBAk9wJKl3X3wl52HykconWd8WS3Elv8j0Y/edit?usp=sharing

発動体を破壊された北里はよろよろと崩れ落ちながら虚空を眺める。

「やめて、やめて……! お母さん、なんで、私を……」

「嫌だよ、一緒だとしても、まだ、死にたくなんか……!」

悲鳴のようにか細い声をこぼしながら、彼女は意識を失う。

同時にPC3の通信機にトトから連絡が入る。

『PC3、もう目的地にはついたかい?』

『そうか、カナコが……その場には誰がいる?』

『分かった。ひとまずカナコを連れてそこにいるメンバーで帰ってきてくれるかい? マルコムにはボクから連絡が取れるから』

指示を受けて廃墟街へと帰る最中、黒き森の景色、もっというなら自分が最初に現れた辺りを目にしてPC3に奇妙な記憶がフラッシュバックする。

一瞬だけ見えたのは手術室のような場所。白衣を来た男が、寝かされた自分の顔へと手を伸ばしたところで記憶は途切れた。

帰還したあとに北里は即座に治療を受けるが、しばらくは昏睡状態であろうとのことだった。

シーン17 情報収集

北里の状態やずっと続いていた調査を元にして新たな情報が明らかになっていく想定。

「情報1 手術」

アマリリスによって破壊された、クリーチャーハント組織において行われていた手術。

戦意の高揚や痛覚の鈍化といった現象を、『嘘』によって生じる脳内麻薬を使って恒常化させている。

これは先に精神への異常が生じ、それに合わせる形で生体反応が変化するという異常なものであり、カースによる技術が用いられていると思われる。

「情報2 北里可南子」

PC2が戦った者たちと同じく、異様な戦意向上と痛覚鈍化といった症状が確認された。現在は昏睡状態である。

現実世界からやって来た彼女は、大学生の頃に母親が他殺体で見つかっている。

犯人は捕まっていないが、警察では心中に失敗したという見立てが強かったようだ。

この事件の後に行方不明になった彼女は、しばらくしてマルコムと共に魔導次元にやってきている。

「情報3 支援組織」

破壊されたクリーチャーハント組織へ支援を行っている組織に「ミーティア」というものがあった。

この組織は件の手術、もっというのであればそれを用いて人間を意のままに操れるかという点に着目していたらしい。

しかし、アマリリスによる破壊任務の寸前にこの支援は打ち切られている。

追加情報

「情報4 実験場」

PC1とマルコムの調査していた領域について、件の手術の実験場である可能性が高いと分かった。

クリーチャーに同様の手術を施すことで操れないかを試みていたようであり、完全な制御に失敗した結果がその領域における異様に活発なクリーチャーである。

手術が行われていたと思しい施設も近くに発見できたが、偵察隊の話によれば警備が厳重であるために近づくのは難しいとのこと。

「情報5 組織長」

クリーチャーハント組織の長として「ハウレス」という名前が浮上した。

これは悪魔、それも大公爵の地位を受けた悪魔の名である。

経歴については一切不明であるが、手術については彼が提案したものであるのに間違いないらしい。

収集が終わったらトトへの報告。

シーン18「絞めるは罪業」 全員

報告を受けてからトトは思い悩んだ様子を見せる。

「……事態のあちこちに納得はいったけど、カナコが急に発症した理由が分からないな。むしろPC2のように、あの任務に参加した人間が先に発症しそうなものだけど」

「PC3は森に行く前のカナコを見たんだったかな? 彼女は何をしようとしていたんだい?」

「マルコムの……? ──タイミングからして、きっかけはそこしかないか。気は引けるけど……彼の家に何かあるのだとしたら、探ってみるべきか。彼と連絡が取れないのも気にかかる」

トトの発言もあり、PC達はマルコムの小屋を調べてみることになる。

北里の言っていたようにログハウスに鍵はかかっていない。彼の居室には専門書の類や乱雑にまとめられたノートが大量に積んである。

そんな中で、PC1はマルコムの手記を見つけた。机の上に置かれていたそれは埃なども積もっておらず、最近開かれた形跡がある。隣には魔法で数字錠のかかった箱が置いてあるも、開きそうにはない。

手記を開いてみればやはりマルコムの字で、日記のように様々な事柄が書き連ねられている。気になる記述もいくつか見つける。

『本当にこの研究は正しいのだろうか。記憶というものに実体はない。ないからこそ、それを失わせしめることは、真に取り返しのつかないことになる予感がするのだ。忘却は、救いではあるだろう。だからこの研究の完成は多くを救うことも叶うだろう。だが、それ以上に──』

『大変なことだ。まだ未完成であるというのに、彼女に処置を施してしまうとは──違う、もっと大きな間違いは、やはり忘れさせることを選んでしまったことだ。きちんと向き合うべきではなかったのか。しかしあの状態の教え子に、何が慰めとなっただろう──処置はおそらく不完全だ。いつか、彼女も自分の犯した罪を思い出すかもしれない。そのときこそ──私の罪と向き合うべき時なのだろう』

日付からしてこの記述までがマルコムが現実世界にいたときのものだと分かる。

そこから先は魔導次元に迷い込み、アマリリスに北里と共に迎え入れられるまでが記されている。

『ここでは、我々があれほど求めた完全な忘却が唯一人の手で為されている。しかし、それを担うここの長に歓喜の色などない。忘れた者たちにも、何より忘れられた者たちにも、やはり喜びなどない。我々よりももっと切実な理由で行われているというのに』

『ようやく気づいた。この地においての最大の救いである記憶消去さえこれだというなら、我々の為していた研究などそれ以上の欺瞞であり、傲慢だ。あれは、忘れずともよいことに蓋をするだけ、嘘で塗り固めるだけの代物に過ぎない。私は、彼女に、何より彼らになんということをしてしまったのか』

筆跡からさえ悔いが滲むようなその手記は、自虐するように最後にこう記されていた。

『私は、きっとこの罪の重さを背負って、絞首台を昇っている』

シーン19「宣戦発布」 全員

PC全員にトトからの招集がかかる。

「──カナコの記憶を魔法で見た。彼女が、自分の母親を殺していたのが確認できた。正当防衛ではあったけど……そして、その記憶を最近に至るまでずっと忘れさせられていたことも。魔法による記憶消去じゃない。現実世界の科学技術によるものだ」

「これについては……マルコムの手記から裏付けは取れる。彼は、現実世界において人の記憶を完全に失わせる方法──ボクの行うような記憶消去の研究をしていたと見て間違いない。判明した今回のカースの詳細とも合致する」

「これは嘘をきっかけにして発症するものだ。正確には嘘によって誰かを騙すことで発症する──カナコは自分の罪を、自分の意思でないとはいえ忘れていた──彼女が殺したわけではないと、自分で自分を騙していたわけだ。それを自覚したことで一気に症状が進んでしまった」

「発症に条件がある分、感染力が非常に強くされている。それこそこのカースを纏っていた者と戦ったPC2にさえ初期症状が出るくらいに……今も、記憶消去に至るほどではなくとも、発症者が複数確認されている」

「潜入任務などで人を騙すアマリリスにこのカースは致命的だ。そうでなくてもクリーチャーを実験動物のように扱うのも許してはおけない。ボクは、君たちにこの手術を行っている施設の破壊を命じる」

目的となるのは偵察隊の発見した手術施設の破壊。

警備については陽動隊を率いさせて正面から仕掛けて引きつけるので、その隙にナーブであるPC2をリーダーとしたPCの潜入部隊で施設へ侵入し、破壊して脱出する計画。

各々がそれを理解し、引き受ければトトは告げる。

「総力戦になる。決行日まで、十分に休息して備えてほしい」

シーン20「過ぎて去る」 PC3

作戦決行の前日の夜。

PC3は夢を見ている。

以前に思い出しかけた、手術台に寝ている。全身に痺れがあるが、それも徐々に薄れてきている。すると上から降ってくるように、ぽつりぽつりと声が聞こえてくる。

『検体確保はやはりこちらに限るな……』

『向こうよりも遥かに数が多いからな──気にかけられないんだ、母数に埋もれて』

『ありがたい限りではあるがね……おい、3番の拘束が外れていないか?』

『あん?』

今、PC3を縛るものはない。このままここにいてはまずいという本能に従うように、PC3は手術台を転げ落ちるようにして降り、駆け出した。

訳も分からず駆けていく中で、PC3は手術台に載せられる前の記憶がないのをぼんやりと意識する。

怒号が、警報音が響く中を駆け抜けていく中で、一つの扉を開け、そこを抜けた先には、鬱蒼とした森が広がっていた。

そこで目が覚める。外はまだ暗がりが広がっていた。

シーン21「過ぎた、去った」 PC1

作戦決行の前日の夜。

眠っていたはずのPC1は何か奇妙な気配を感じ、目を覚まして外に出る。

そこにはマルコムがいた。じっと夜空を眺めている。

「……やあ。いい月夜だね」

「──君は、私の罪を知ったのだろう。彼女から、己が罪と向き合う機会を、奪い取った罪だ」

「──ここに来て、いかにそれが許しがたいものであるかを知った。故に、償うことをずっと考えていた。彼女のために、あるいは、より大きなもののために──今回が、そうなんじゃないかと思ってね」

「そのために、君と……君たちと共に行くことは叶わない。別にやるべきことがある。一旦、お別れだね」

「……課題くらいは、残していこうか。次に会うときに提出をお願いしよう」

「『優しい嘘』なんてものは存在するのだろうか。あるとすればそれはどんな嘘だろうか──君に、それを聞いてみたい」

「……私には、僕には、つけなかった嘘だから」

気付けばマルコムは姿を消している。

PC1は一人、夜風に吹かれている。

シーン22 クルドサック

1:攻撃的なクリーチャーからの群れ ステルス・ララバイ ペナルティ:HP-5

2:警備員の哨戒 ミュート・テレポート・ステルス ペナルティ:TP-3

3:暗号キー アンロック・サーチ ペナルティ:火傷レベル3

シーン23「虚構の王と虚構の現」 全員

潜入した研究所には、頑丈な檻の中に何匹ものクリーチャーが閉じ込められ、管理されていた。そのどれもが異様な敵意を見せており、同じ檻に入れられて殺し合っているクリーチャーも、死骸を食い漁っているクリーチャーもいる。

PC3は、光景自体には見覚えがなくとも、置かれた機材などに既視感を覚える。

そんな光景を見ながら進んでいくと、大きな両開きの扉が一つある。

開くと、そこには両側の壁が丸々クリーチャーの収容された檻となっている空間が広がっていた。

そしてそんな空間の中央に一人の男がいた。赤い目を輝かせ、楽しげにPCたちを見渡す。

「よお。表はやっぱり陽動か。だから、来るとは思っていたよ──直接、潰すつもりで待っていたさ」

「オレはハウレス──悪魔、ハウレスだ」

「……いやあ、初めてじゃない奴もいるな?」

そう言いながら、ハウレスはPC1とPC3を見やる。

同時に、PC3の脳裏を断片的に映像が駆け巡る。ハウレスの顔は、手術台にいるPC3に手を伸ばしてきた男のものだ。ぶわりと、その瞬間の全てを嘲るような笑みが脳裏に浮かび、目の前の男と重なる。

「この技術の大元は現実世界におけるもの──記憶消去のそれだ。被検体を確保するにも向こうが楽だったからな……逃げ出したお前は、なかなか忘れがたい汚点だよ」

「魔法と組み合わせずとも、いくらでも流用できそうな技術なのになあ……これを完全に棄てようとした開発者は何を考えたのやら」

心底不思議そうに語るハウレスの声を断ち切るように、PC1の耳に声が届く。

「それが私の罪であったからだ。継がせてはならない、大罪だからだ」

気付けばPC1の横にマルコムが立っている。

見たこともないような、感情が削ぎ落とされたかのような無表情でハウレスを見据えている。

だがハウレスは訝しげな様子であり、ハウレスを視認している様子のPC1をじっと見る。PC2とPC3からしても、PC1は虚空に誰かを見ているようにしか見えない。

やがて、彼は哄笑を上げる。

「なるほどなるほど! あのときの男を見ているのか! そこの奴が初対面みたいな反応をするもんだから何かと思えば!」

「なら教えてやるよ。お前の上官だったらしい男ならもう死んでる。オレが、あの夜に、殺した。迎撃準備もない段階で探られるのが面倒だったもんでな」

その言葉をきっかけにしたかのように、PC1は思い出す。

それは雷雨の音にかき消されそうになりながらも、ぶつぶつと、とぎれとぎれに届くマルコムの声だった。

『……逃げてくれ。「餌」さえ用意してやれば隙は生まれるだろう』

『どのみち、この傷では──』

『──ああ、そうだね。それなら──』

同時に、身体を打つ雨の感触の中に入り混じったものを、ぬるりと温かい、鮮血の感触を、思い出す。

「大事なお仲間だったか? 心がぶっ壊れるくらいに? 解離性の人格障害にも似ているが……気になるな、気になるが、解剖するわけにもいかんか」

「邪魔を殺さないといけないから、な」

直後、壁際の檻が全て一斉に開き、クリーチャーがぎろりとPCたちを睨む。

「こいつらは全部、眼前の獲物を喰らい尽くすことしか考えていない。そういう風に弄った──術後経過も、実に良好だ」

「さて、なら命を下そう──殺せ、こいつらを」

傲然と指示を下すハウレスだったが、クリーチャーに応じる様子はない。

いっそ戸惑ったかのような様子で動きを止めている。

「……? なんだ、いつものように殺し合え──おい、どうした?」

困惑しているのはハウレスも同じようで、怪訝な顔で周囲を見渡す。

そこに被せるように、マルコムが淡々と告げる。

「思考を直接操作できるわけではない。内分泌に指向性を持たせ、暴力的な思考を発露させやすくしているだけ。それなら、同じように分泌物質に干渉してやればいい──開発者として、これくらいはやってのけなくては」

その声は、今度はPC2,3にも聞こえる。それどころか、ノイズのようなものと一緒に、マルコム・クロウという男の姿がPC1の傍らに現れていくのを見る。

ハウレスは驚愕した様子で、

「──死人は蘇らない。それは魔法の大原則のはずだ」

「そうだね。だから、あのとき、実は私は死んでいなかったというのはどうだろう?」

「戯言を──!」

「確かに戯言、その類だとも。煙に巻くのは我々の得意分野でね」

今や完全に実体を持った状態にしか見えないマルコムが、堂々と告げる。

「所詮、私は似せて作った紛い物だ。だが、ここではそんな紛い物こそ、嘘こそが力を持つ歪な空間だ。君によって作られた歪だとも」

「歪、歪! そんなはずがないだろう、嘘とは生きとし生けるモノ、全てが吐き出す必然だ! カナコとか呼ばれていたか、あの女だってそうだったろう! 自分を欺き、他者には私は罪人に非ずといった顔で振る舞う!」

ハウレスはPC3を指差し、

「お前はどうだ、名も知らん検体! 失った過去の記憶から目を背け、今だけを見ればいいとばかりに過ごす! その逃避は自分を騙す嘘と何が違う!」

次いでPC1を指差し、

「何よりお前が一番そうだ、妄想に縋る愚物が。死者を認めないが故に、そこに死体が湧いて出たぞ。喜ぶがいいさ、お前が自分を欺いた嘘の成果だ!」

まくしたてるハウレスの主張を全て聞いた上で、しかし静かにマルコムは言う。

「嘘、というなら君もそうだな。ハウレス、燃える瞳を持つ豹の姿で描かれる悪魔よ。ただの人間でしか振る舞えない君は、果たして誰だ?」

一度沈黙を挟み、直後にハウレスの身体から圧力さえ感じるほどの膨大な魔力が吹き荒れる。

「──ハウレス。オレは、悪魔ハウレスだ。虚構を揺蕩い、真実を泡沫と嗤う反転者──お前達を、真実と嘘の狭間の曖昧に呑み込むモノだ……!」

最終戦闘「ハウレス」

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1QhMMByKnzJikpX9oYASut09CKTEDEVCmqYtSJy8sjag/edit?usp=sharing

「煩雑思考」→アドレナリン3回→2R目でヴァリアブルコード使用を初動として想定、HPも含めてPCに応じて調整する

戦闘中に1回だけマルコムが大魔法「ソウル・シャットダウン」を使用できる。ハウレスの「テスタメント」か「ヴァイス・ヴァーサ」に合わせて発動する想定。

戦闘終了後、煤のようにぼろぼろと、灰と化した手足を零しながら、ハウレスがよろよろと崩れ落ちる。

「は、はは──! また、またか、認められずに終わるか。誰にも、誰にも──! そうだ、自分自身に、オレでさえ、オレを……はは」

「──なあ、おい、オレは、誰だ?」

ぐずりと身体の各所を崩し、ただの肉塊と化した男が床に伏した。

同時に、またマルコムの身体にノイズが走り始める。

「ふむ、奴の魔法を流用しただけならこんなものかな」

「……あの日、たしかに僕は死んださ。だが、その間際にPC1に託させてもらった──文字通りの全て、マルコム・クロウという存在の情報を」

その言葉をきっかけにしてPC1は雷雨のあの日、最後に聞いたマルコムの言葉を思い出す。

『──この先、僕は死んだ方が都合がいい。君に、託す』

『──ソウル・シャットダウン(魂魄強制停止)』

以降は、マルコムと共に過ごしていた偽りの記憶が差し込まれる。それはPC1の精神に焼き付けられた、マルコム・クロウの人格、その情報体と過ごした時間だ。

「嘘でできた存在だったからこそ、奴の魔法で実体を持てた。クリーチャーの精神に干渉できた……だが、全てが終わった今になっては僕も不要だ」

「──この嘘も、自らの償いだのと嘯いて、君に負担を強いただけ。人間一人分の情報を丸々などと、何の作用もないはずがない。ひょっとすれば、もう蝕んでしまっているかもしれない……僕に、優しい嘘は、結局吐けなかった」

「だから課題を課した。人を欺く行為に、優しさなどあるのかと──どう思う、PC1くん」

答えがどんなものであれ、マルコムは優しげな笑顔で答え、受け止める。

「──回答はもらった。であれば生徒を帰さねばね」

「マルコム・クロウという嘘は、君には過分に過ぎる……」

大魔法の使用想定はここ。PC1の心に焼き付けられたマルコム・クロウという情報を消去する。

使わずとも構わない。その場合はPC1はこの先、マルコムの幻覚を見たままで過ごしていくことになる。それによる脳への影響もあるかもしれないが、この段階でそれがどんなものなのかは分からない。

いずれかの選択を終えた後、施設への破壊工作を済ませ、PCたちは廃墟街へと帰還することになる。

シーン24 PC3のエンディング

トトと話すことを想定。

シーン25 PC2のエンディング

北里と話すことを想定。

シーン26 PC1のエンディング

マルコムのログハウスでのシーンを想定。鍵のかかっていた小箱については、PC1がマルコムの元を初めて訪れた日付に合わせれば開く。中には手紙と黒い筒が一本入っている。

『もう教えることがないと判断したときに託すと決めたものだ。卒業を祝そう、私の最優の生徒。私からおめでとうを、僕からありがとうを』

茶目っ気めいた花丸と一緒に書かれたそんな手紙と一緒に、手書きと思しい卒業証書とログハウスの鍵が入っている。

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