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音律・変奏・秘話

ある楽器魔導学科の生徒は苦悩していた。
単独での楽器魔導学科としての実力、それに伸び悩んでいたからだ。

それに加え、仲の良かった友が派閥争いに加担し、その結果として仲違いをしてしまうに至る。

『和を以て貴しとなす』、それがその生徒にとっての全てであった故に苦悩は日々増していった。

悩みに悩んだ末にその生徒は、院生となったある元楽器魔導学科生に頼み新たな演奏方法を研究し始める。

そしてようやく見つかったのが『音律』の存在。

音楽による魔法行使によって、その人の雰囲気や気配によってマナが共鳴して起こる微弱な魔法に至らない魔法なりそこなったエネルギー。
それが『音律』であった。

そしてこれを利用する為に技術として『変奏』という新たなる技法が編み出された。

これら発見者であるその生徒達はこの研究を実用可能なレベルまで引き上げる。
そして『誰が見つけたのか等という瑣末な事に囚われず、これで演奏と魔法をただ楽しんで欲しい。』と考えた。
それ故に、この『音律』の発見者としての自分達をあえて自らを秘匿し、多くの人々に広めたのだ。

彼らは夜想曲の終わり、そこで静かに待っている。

名も分からぬ彼らの成果

ある時、魔法学園ハーベストの図書館で著者不明の楽器魔導学科用の新たな技法について書かれた研究成果が大量に見つかった。

名も分からぬ彼らは、気配や雰囲気とマナが共振する事で出来たエネルギーを『音律』と定義した。
彼らはそれを楽器魔導の応用技術により、『変奏』という魔法に落とし込んだのだという。

あろう事か匿名の彼らは楽器魔導の派閥争いを憂いていた。
この技術を誰かが独占したり、誰かが使う事そのものに抵抗感を得ないよう自らを『名も知らぬ誰か』として発表したのだ。

時期を同じくして、魔導次元中で同様の資料が多くの人の手によって見られる公平な場所で見つかる。

これが一般的に知られている『音律』と『変奏』の技術に関する話である。

『音律』は大きくわけて三つあると匿名の人物達は解明し、解釈を次のように名前をつけてまとめた。

『スイート』幼年期の少女、思い描く心
『ビター』城塞の守護者、耐え抜く心
『スパイス』覇道の先導者、実践する心

これらを技術で故意に整え、規模に応じて三つのある種の魔法として表出させたのが『変奏』という技術体系である。

『変奏』は使用される『音律』の規模によって『ヴァース』・『ブリッジ』・『コーラス』と名付けられた三つの奏法に区別される。

最も少ない音律の消費で小回りが効き、効力も効果範囲も少ないが堅実な効果の『ヴァース』。

中くらいの音律の消費でより技術が求められ、扱いやすい効力で自身と味方一人の実力を底上げする『ブリッジ』。

最も音律の消費が激しく最も難易度を要するが、切り札として申し分ない爆発的な支援能力と味方全体を強化する『コーラス』。

これらは、量が多ければ多い程瞬間的な出力が上がるとされている。

『変奏』は『音律』を望む形で半数を消費、もう半数の音律を変質させる力を持つが一定以上の『音律』は『変奏』として今は整える事が出来ないのだという。

『ヴァース』『ブリッジ』『コーラス』にも彼らは解釈やなぜ成立しているのかの考察を用意しており、三つそれぞれ以下のように解釈される。

二音律『ヴァース』未来への展望、この技術の始点、初めの一つ目。
四音律『ブリッジ』未来への挑戦、他者との共鳴、続いた二つ目。
六音律『コーラス』未来への確信、万人との協奏、最後に完全な形で見つけた三つ目。

更に彼らは技術的展望としてさらに興味深いものを残している。
「来たる未来のため、これらの『変奏』の存在を予測する。」と彼らは研究成果に以下の予測を書き加えていた。

第八音律『ソロ』魂の解放、自身の限界を超える一線、来たる未来の四つ目。

第十音律『フィナーレ』夜明け前の太陽、調和で織られた存続への賛歌、来たる未来の五つ目。

音律不明『アンコール』真昼の太陽、真夜中の満月、変奏が最後に辿り着く終点の先たる六つ目の始点。

彼らは研究をあえて完了させず未来への展望を残した。
ただ、現在の技法では『コーラス』の時点で音律が途切れてしまい、余程の技量で音律を集めない限りはコーラスから即座にブリッジに繋げるのは困難だとされている。

ただ、第八音律以降を現在著名な魔法使い達が予測、推測しているのは。
『ソロ』は単独で高難易度の条件が必要な事。
『フィナーレ』は単独での達成が不可能な事。
『アンコール』はそもそも存在が分からない。
ということらしい。

彼らはこの未完の研究成果を魔導次元中に誰とも知られず、誰にでも伝え広め未来へと託した。

ある著名な魔法使いはこの技術を、『微かな意思を、幾千の小さな奇蹟の源へと伝え、未来を僅かながら変えるもの』と例えた。

『音律』とその活用法たる『変奏』を誰が見つけたのか、その殆どの真相は闇に沈んだままなのだという。

しかし、これにより派閥や身分や生まれそして自らの限界に挑戦する楽器魔導学科の生徒が増えていった。
音楽が万人の為にあるように、その技術もまた、万人の為にあるのだ。

NE追加NPC

名も知れぬ楽器魔導学科生達
年齢:不明 出身:不明 性別:不明
役職:『音律の発見者』『最初の変奏者』
得意魔法:不明

「誰の為でもなく、みんなの為に。」

謎に包まれた人物、或いは人物達。
彼らの遺した文書は古びたタイプライターを使っていたので、彼らには筆跡は無く一切の自己主張をしなかった。
誰なのか、何人協力していたのかすら一般の人々には分かっていない。
講師達はある程度の検討が付いているが、彼らの意思を汲んで彼らを『誰でもない誰か』として彼らを扱っている。
彼らはしばしば『最初の変奏者』や『音律の発見者』と呼ばれ親しまれている。
名前の無い彼らが優しく世界に残した技術は、確かに大きな和音となり世界に響き始めた。

この記事を書いた人

箱です、怖くないよ。

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