スペシャルノベル「魔法学園ハーベスト Dorothy and Fried  ~運命の一夜~」

スペシャルノベル「魔法学園ハーベスト Dorothy and Fried  ~運命の一夜~」

ちょうど、シンデレラが王子に見初められたお城のような場所。
ちょうど、シンデレラが靴を落とした時間。夜12時。
僕が金色に輝く月が浮かぶ真っ暗な空を眺めていると、ふと隣に女性がいることに気づいた。
彼女の桃色の長い髪が、頭に乗せたとんがり帽子からはみ出て、着ている真っ黒なローブにかかっている。
「思い出しちゃうね。確かあの夜も、こんな感じのお月様だった。」
彼女は息を吐き、空を見てそう言った。
「うん。もうあれから一年なんて、信じられないよ。」
「私も。昨日のことのように思っちゃうな。」
彼女は手に取った柄の長い箒に跨り、空へと飛び立つ。
「待ってよ。ドロシー。まだ・・・」
それを追いかけるように、僕も杖を振り、空を飛ぶ。

今日と同じような月が照らす夜、僕は魔法使いになった。
それは、不思議で、素敵な、一夜の物語。

僕は、現実世界では冴えない地味な1人の男の子だった。
人と話すのはそこまで苦手ではないが、存在感が極端に薄いらしく、僕にとって親友と呼べる人は、これまで1人もいなかった。
唯一家族だけが僕の支えだった。けど、お父さんも、お母さんも、もういなくなってしまった。
気がついたら、僕は本当に独りになっていて、毎日毎日、辛さを噛み締めていた。
そんなとき、僕は偶然一つのウワサを耳にした。
「パブリックスクールの、3階西側のトイレの鏡は、呪われていて、真夜中にそこに向かうと、鏡に吸い込まれて一生戻れなくなる」
根も葉もない噂だと思った。だけど、何を思ったか、僕は夜中に学校に忍び込み、その場所に向かった。
何の意味もない行為だった。けれど、「何かをしたくて」したことだった。
例の鏡の前に立つと、急に怖くなった。しばらく動かなかったが、何も起きなかったから帰ろうとした。
そのとき、後ろから声が聞こえた気がした。でもそれは、決して呪いのようなものではなく、綺麗で透き通った声。
何を言っているかは聞き取れなかった。そして、僕は好奇心に負け、つい後ろを振り返っていた。
そのとき鏡は、異常だった。僕の身体を全く写さず、大きな波紋を広げていた。
僕は何も考えず、吸い込まれるようにその波紋へと手を伸ばして・・・そして、気がついたら身体ごと鏡を通り抜けた。

「ねぇー・・・ねぇってばー!・・・大丈夫?」
気がついたとき、僕の目の前にはちょうどハロウィーンの仮装をしているような少女がいた。
頭にとんがり帽子、服はローブ、手には箒。格好は13、14歳くらいで、あどけないが可愛い顔と綺麗な声。
「え・・・えっと・・・君は・・・?」
「その前にほら、眼鏡。これないと見えないんでしょ?」
「あ、ありがとう・・・」
僕は彼女が拾っていた眼鏡をかけ、身だしなみを整えた。
「それより、早くここを移動しないとマズイことになるよー」
「え?」
「だってここ。女子トイレだよ?」
周りを見渡すと、確かに個室が余りにも多く、さっきまで居た男子トイレの概観とは・・・
「って・・・ええっ!ご、ごめんなさい!けどわざとじゃないんです!」
「大丈夫大丈夫。わかってるから!」
にこにこしながら彼女は僕の手を引いて、外へと連れて行った。
「あの・・・君は一体・・・」
「え、私?私はその・・・皆のヒロイン、ドロシーだよ?」
「・・・はぁ」
なんだろう。やっぱり仮装とかそういうのなのかな。
「な、なんでそんな引きぎみなのよー・・・。」
「いや、べ、別に引いてなんかないよ。どうしてそんな格好してるの?」
「だって私、魔法使いだから。」
魔法使い?やっぱこの人そういう系のアレなのかな。
「あ、その顔は信じてないなー・・・?と、なると、キミは偶然こちら側に迷い込んでしまった人なのかな?」
「偶然?こちら側?」
「こほん。じゃあ、改めて言わせて貰うね。・・・ようこそ、魔法学園ハーベストへ!」

魔法学園ハーベスト。
それは、とても昔に、ある偉大な魔法使いが作り上げた「魔導次元」と呼ばれる特殊な異空間に存在する、魔法について学ぶ学校のことである。
魔法使いの素質があると見なされたものは、特別入学招待状というものによって、この学園への入り口を教えて貰い入学するが、時々このフリードのように、偶然迷い込んでしまう人もいる。そんな人間は、基本的にはドロシー学長、そう、この少女の一存でだいたい入学させられる。
・・・などという話をとても説明口調で目の前の少女が語り出した。
「つまり、僕は鏡を通って、魔法使いの国に・・・?」
「そーそー、そういうこと!ちなみにここは、魔法学園ハーベスト、3階西側の女子トイレ前なの。」
周りを見渡すと、そこはほとんど大理石で出来た空間で、真っ暗な闇を、1列に並んだ灯火が照らしている。
「夢でも見てるのかな・・・」
「あれれ。信じてない?じゃあ・・・ついてきて。」
そういってすたすた歩いてしまう彼女についていくと、階段を上り、時計搭のような場所に着いた。
そこには外を大きく見渡せる展望台があり、確かにここが僕の知っている世界ではないことを示唆していた。
「どう?すごく綺麗な眺めでしょ?」
「うん。こんなきれいな景色、初めてだよ。」
「じゃ、一緒に行こっか!」
そう言って、ドロシーが手に持つ箒に跨り、僕に手を伸ばす。
「え?」
「ほら、早く」
言われるがままに手を取ると、半ば無理やり箒の上に乗せられる。
「しっかりつかまってないと危ないからねー」
ドロシーはそう言うと、箒に魔法をかけた。

そして、気がついたときにはもう、僕は、空を飛んでいた。

「あ・・・あはは・・・っやっぱ夢だよねこれ・・・ねぇドロシー!」
「夢じゃないよ!ここは魔法学園ハーベストだから!」
鳥のように空を飛び回り、トンボのように一回転する正直ドロシーの運転は荒っぽい。だけどそれが今の僕には心地よかった。
「キミの名前は?」
「僕・・・僕はフリード。フリード・フィリップス。」
「そっか。フリード、良い名前ね。それで、どうする?今ならまだ全部なかったことにして、元の世界に戻してあげられるよ?それとも・・・」
「・・・元の世界に帰っても、僕は独りだから・・・」
「じゃ、入学する?私の学園に。」
彼女は箒に跨ったまま、後ろに乗った僕を見て言った。
「うん。」
そう、大きく頷いた。

「あれ・・・ねぇ、ドロシー。あそこ・・・水の上を人が歩いてる。あれも魔法なの?」
校舎に囲まれた、恐らく中庭と思われる場所の大きな湖に、人が立っていた。
「・・・」
ドロシーはしばらく黙ったあと、頭のとんがり帽子をしっかりと被せてからこう言った。
「少しばかり、面倒な夜になりそうね。」
「どういうこと?」
「・・・きっとあれは・・・」
そうドロシーが話し始めたとき、気がつくとさっき見た場所に人は一人もいなかった。
「あれは、人間じゃなくて、どこかから迷い込んだ魔物、クリーチャーっていうの」
「この魔法学園、魔物とか迷いこんでくるの?」
「ほんとにときどきね。いつもはきちんと番人役の先生が守衛の役目をしてるはずなんだけど・・・」
そう言った途端、ドロシーが不意に苦い顔をした。
「あー・・・」
「・・・どうしたの?」
「え・・・あ、いや・・・何でも。何でもない!」
話していると、空中にもう一人、杖を持った紳士服の人間が現れた。
「ドロシー学長!どうしてこんな所にいるのですか!」
「・・・や、やぁカント。どうしたの?」
「やぁではないですよ全く・・・あなたは本当につくづくどうしようもない・・・伝説の八大魔法使いの1人ともあろうお方が・・・」
突然、ドロシーに対しこの中年の男性が説教を始めた。
「・・・ああ、キミは・・・えっと・・・誰だったかな?」
「あ、はじめまして。フリード・フィリップスと申します」
「ああ、これはこれは。学長、また生徒を見つけに『現実世界』の方へ?」
「え・・・ああ!そうそう!そうなのだよカントくん!私は学長ですから!何より素質ある若者をこの魔法学園ハーベストに連れてくることこそ、一番の仕事なのです!」
「・・・僕、偶然こっちに来たんですけど・・・」
僕がそういうと、ドロシーが急いで僕の口を塞ごうと手を当てる。カントと呼ばれた男性はやれやれといった顔をする。
「け、結果はともあれ、このフリードくんには、素質があると思うなー・・・なんて・・・」
指をつんつんさせながら、ドロシーがちらちらとこちらを見てくる。
「・・・フリードくん。キミはその・・・大丈夫なのかい?話はもう聞いているだろう?」
「僕は・・・できるだけ元の世界には戻りたくないです・・・」
「・・・そうか。ならまぁ仕方ない。私はイマニエル・カント。魔法学園ハーベストの杖魔導学科の講師を担当しているよ。よろしく。」
「はじめまして。よろしくお願いします。カントさん。」
空中で、ドロシーの箒に跨ったまま、カントさんに会釈をする。
「それで・・・学長。この際あなたの勤務態度に関しては後にしましょう。それより、大変なことが起こっています」
「・・・何?」
「学内に吸血鬼が現れました。」
「やっぱり・・・さっきフリードが見た奴ね。」
「僕が見たのが、吸血鬼だって言うのかい!?」
「吸血鬼は水の上を歩くのよ。」
「じゃあ・・・今もこの学園の中を、吸血鬼が歩き回ってるって・・・こと・・・っ?」
思わず血の気が引いて、鳥肌が立った。吸血鬼といえば、僕が元いた国でも恐怖の象徴のようなもので、
いるとかいないとかではなく、存在自体を考えることが恐ろしいほどだった。特に僕は怖がりだったし。
「そういうことになるね・・・。わかったよ、カント。責任持って、私が始末してくる。」
「・・・まぁ、元はといえばあなたのせいですからね」
「その話は後なんでしょ?」
ドロシーがぱちりとウインクしながらそう答える。

かつ、かつと、廊下を歩く音がする。僕とドロシーの足音だ。
「・・・それで、どうして僕まで吸血鬼退治に・・・」
「だって。せっかくだし。キミに本当の魔法を見せてあげるための特別講義だと思いなさい。」
「正直怖くて腰が抜けそうだよ・・・」
「大丈夫よ。いざとなったら、さっきカントに貰った杖を使って。」
さきほど、カントさんと別れる際に、長細い棒のようなものを貰ったばかりだった。どうやらそれは、魔法を使うために必要なものの一種らしい。
「来たばかりなのに、魔法なんて使えるわけないよ」
「キミには素質があるって、さっき言ったでしょ」
「素質って・・・それはドロシーがいい訳に使おうとしただけじゃ・・・」
「違うわ。だって、あのカントが、来たばかりの新入生に自ら杖を渡したのよ。私だけじゃない、他の魔法使いから見ても、キミには素質がある、そう判断するのが普通ってこと」
「そう・・・なのかな」
現実世界じゃ何の取り得もなかった僕だから、そう言われたとき、正直少し嬉しかった。
「・・・見てこれ。」
ドロシーが指差した先には、水に濡れた足跡のようなものがあった。その形は、明らかに人の物ではなく、水かきのようなものがついている。
確か現実世界で隣に住んでいた日本人の人が言ってた、日本の妖怪「河童」のその足によく似ている。
「・・・あっちに繋がってるみたい」
「これ、追いかけるの?」
「ほら、びびってないで。行くよ。」
ドロシーに引っ張られ、そのままその足跡の続くほうへ向かう。
すると、そこは、僕が通り抜けた「3階西側の女子トイレ」だった。
「・・・ここに吸血鬼が・・・」
「さてと。ぱぱっと終わらせて帰ろっか。」
そう言って、ドロシーは何の躊躇もすることなく、怪物の足跡が続く女子トイレへと入っていった。
「ま、待ってよドロシー!」
ドロシーに続いて、女子トイレに入ってしまったが、僕の緊張感はピークに達しそうだった。
「うーん。暗くてよく見えないね・・・あれ、足跡ここで消えてる。」
「ド、ドロシー!あ・・・あれ・・・」
ふと鏡のある方を見ていると、鏡に映った女子トイレの個室扉が、ギギギと音を鳴らしながら開いていく。
「フリード。伏せて。」
その声は、僕に向けてではなく、僕の後ろに向けて放たれていた。
「え・・・?」
「早く!」
振り向くと、僕の真後ろには、背丈180cmほどの牙を生やした赤眼の大男が居た。
「キシャアアアアアアアアッ!!」
「う・・・う・・・うわあああああああああ!」
気がついたら駆け出そうとして、でも足が縺れて、上手く動けない。
「これがキミに見せてあげる最初の『魔法』・・・伏せてフリードッ!」
もうダメだと思った刹那、ドロシーの声が鳴り響く。
「真紅に染まれ宇宙よ!(スカーレットコスモス!)」
声と同時に、ドロシーの箒が真っ赤に光り輝く。箒を大剣のように振り回すと、そこから炎熱が迸る。
「ゥ・・・グウッ・・・」
炎熱に飲みこまれ、吸血鬼は僕の目の前で静かに倒れた。
「・・・『吸血鬼は鏡に映らない』」
「ほ、本当だったんだね。実際にこうやって見てみないと信じられなかったけど・・・」
「大丈夫?立てる?」
「う、うん。はぁ・・・死ぬかと思った。」
「実際死にかけてたよ。キミ」
「冗談じゃない・・・でもこれで一件落着かな?」
死体と化した吸血鬼の体は、見る見るうちに泡となって消えていった。
「ううん。まだ終わってない。」
「えっ?」
「今の吸血鬼、サイズが小さすぎるわ。年も若過ぎる。さっき見たのとは違う。」
「ってことは・・・もう1体いるってコト・・・?」
「そういうこと。だから、それも探して狩りに行かなきゃ。」
「ま、まだ続くの・・・これ。」
「ああ、それと・・・」
ふとドロシーが思いついたかのように、懐からごそごそ何かを取り出したと思ったら、それは小さなハンドブックのようなものだった。
「・・・何?」
「これ、読んでおいて」
本を受け取ると、その表紙には『Scarlet cosmos』と書かれていた。
「・・・まさかこれって」
「うん。教材。さっき私が使ってた魔法。『スカーレットコスモス』っていうんだけど、これくらいは使えておいたほうが戦力になるかなーって」
「ぼ、僕こっちに来たばかりなんだよ!?」
「大丈夫よ。・・・すっごく簡単な、基礎の魔法だから。みんな最初に覚えるものだから、予習だと思いなさい。」
彼女はまるで嘘をついているかのように棒読みで話す。
「え・・・ええ・・・」
少し引き気味ながら、やっぱり魔法と聞いてしまうと興味は沸いてしまうもので、ついその『教材』と呼ばれる本を開いてしまった。

そして気がつくと、僕は周りに大量の本棚のある、真っ白な部屋に居た。
「あ・・・あれ。なんで・・・?」
すると、天井からドロシーの声が響き渡ってきた。
「その本は私特製の特殊な魔法がかけてあってね、本の題名となっている魔法を習得するまで出られなくなってるの」
「え・・・ええええッ!!それ先に・・・っ」
「え、あ。ごめんごめん。言い忘れてた。」
ドロシーが悪気もなさそうにそう言う。絶対にわざとだ。
「その空間は、実際の世界の時間とは時間の流れがだいぶ遅めに作ってあるの。だからゆっくり時間をかけて勉強してね。」
「・・・え・・・この本全部・・・?」
僕の周りには、軽く100冊ほどの本が置いてあった。
「それじゃ、健闘を祈るっ!」
そして、ドロシーの声は消えてしまった。

あれから何日経っただろうか、僕は本の外へと出ることが出来た。
「お、おかえりー。」
「・・・はぁ・・・」
「こっちからすると一瞬の出来事だからさー、どれくらいかかったかわかんないんだよねー」
「・・・たぶん1週間くらい・・・」
「1週間で済んだなら早いもんだよー。よかったよかった。」
にこにこ笑いながらドロシーがこちらを見る。
「ごめん、一回だけ殴ってもいいかな・・・」
「残念ながら魔導次元にはマナプロテクトってものがあって魔法以外で人を傷つけることはできないんだよねー」
「うう・・・不憫だ・・・」
ドロシーは少し得意げな顔をしていた。
「それで、もう1体の吸血鬼は、どうやって見つけるつもり?」
「うーん。また足跡を探すのが早いかなぁ」
そう話していると、中庭が見える廊下に出た。中庭の湖には、また人が立っていた。
「あ・・・ドロシー。あそこ!」
「うん。どうやらまた戻ってきたようね」
僕達はその湖のふもとへ走った。
何故かもう僕は、恐怖など微塵も感じていなかった。
「キシャアア・・・ァ・・・ア・・・」
また、あの怪物が口から霧のような物を発しながら、唸り声を上げる。
「・・・さっさと片付けるから、そこで待っててね」
ドロシーが僕にそう言って、すたすたと歩こうとする。
だがその瞬間、目の前の吸血鬼が悲鳴のような大きな鳴き声を上げた
「キァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
僕はそのあまりの五月蝿さに目を瞑り、耳を塞いでいた。
「あー・・・なんだ。結構隠れてたんだ。」
次に目をあけた瞬間、僕は、ドロシーの周りに7、8匹ほどの吸血鬼が取り囲んでいるのを見た。
「・・・な・・・一人じゃなかったんだ!こんなにたくさん・・・っ」
「まぁ仲間を呼んだってことは、これ以上はもういないとは思うし・・・一気に叩くチャンスね。」
「きょ、今日の森番の人は何やってるんだ・・・」
「あ・・・それね、今日の森番、私なんだー・・・」
ドロシーが苦笑いしながらそう喋る。吸血鬼に囲まれていて顔は見えないが、恐らく顔も笑っているのだろう。
「ド、ドロシー・・・君は・・・」
「とにかく、あまりお喋ってる時間も無さそうだし、ここは私に任せて。」
「・・・」
「アルカ・・・」
ドロシーがマナを調律し、魔法の呪文を唱え始めたとき、僕は吸血鬼の群れに向かって走り出していた。
「・・・え・・・フリード、なんでこっちに・・・」
カントさんに貰った杖を振りかざし、僕はドロシーの真似事をする。
空気中のマナを全て僕の腕に。そして腕から杖へ。
「真紅に染まれ宇宙よ!(スカーレットコスモス!)」
刹那、杖が真っ赤に光り輝き、そこから炎熱が迸る。
「ガ・・・ウゥ・・・ァァァ・・・」
全ての吸血鬼が、僕の放った灼熱により、身を焦がして、そして、消えていく。
「・・・どうだっ!」
「随分誇らしげなんだ。それに意外と勇気あるじゃない。」
「・・・うん。」
なんか少し照れくさくなる。ドロシーは相変わらずにこにこ笑っているが。
こうして、不思議で素敵な一夜は終わった。

ちょうど、シンデレラが王子に見初められたお城のような場所。
ちょうど、シンデレラが靴を落とした時間。夜12時。
僕が金色に輝く月が浮かぶ真っ暗な空を眺めていると、ふと隣に女性がいることに気づいた。
彼女の桃色の長い髪が、頭に乗せたとんがり帽子からはみ出て、着ている真っ黒なローブにかかっている。
「思い出しちゃうね。確かあの夜も、こんな感じのお月様だった。」
彼女は息を吐き、空を見てそう言った。
「うん。もうあれから一年なんて、信じられないよ。」
「私も。昨日のことのように思っちゃうな。」
「あのときは随分と君に振り回されたよ・・・」
「確か、あのときキミが初めて魔法を使ったんだよね、覚えてる覚えてるー」
「その魔法も!あとからきちんと入学してわかったけど、スカーレットコスモスは習得難易度レベル4の高ランク呪文だったじゃないかっ」
「で、でもほら、私のおかげで他の子よりちょっとスタートダッシュ切れたでしょ?」
「ちょっとどころか・・・最初の授業で先生に驚かれるし、周りからは特別視されるし。友達作るのだって時間かかったんだから・・・」
「まぁでもほら、結果オーライって奴だよ!周りより飛びぬけてるからこそ、今だって生徒会長なんて役割貰ってるんだし」
「会長に推薦したのはキミじゃないか・・・」
「さてとっ」
そう言うと、彼女は手に取った柄の長い箒に跨り、空へと飛び立つ。
「待ってよ。ドロシー。まだ・・・」
それを追いかけるように、僕も杖を振り、空を飛ぶ。
「まだ・・・学長の仕事終わってないでしょ!」
「し、仕事はしたくないかなぁ・・・なんて」
「待てってば!」
多少ワガママだけど、僕を変えてくれたこの少女と、この世界で僕は生きている。

キミは魔法という物を見たことがあるかい?
ほら、昔ママが言ってただろ、「痛いの痛いの飛んでけ~」って、あれこそ魔法だ。
子供からしたら、本当に飛んでってるわけさ。
そう、魔法ってのはいわゆる想像から生まれる力なんだ。
そして、「魔法学園ハーベスト」ではその魔法を勉強する。本気で勉強すれば、誰だって魔法を使えるのさ。
さぁ、キミもこの世界で魔法を学んでみよう!

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